テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる

不幸なジャックポットをひいた🏺のお話。
書きたいものを書いたらセリフがとても少なくなりました。文学として見逃してください。
「…ん?」
ある日、つぼ浦が街をパトロールしていると、なにか黒い影を見つけた。
夜闇に溶ける黒い服装と、アスファルトに染み込んでなお月明かりに照らされる赤い染み。額を突き破って生えた角に爛々と輝く瞳。
人の姿を保ってこそいるが間違いなく人ならざるものだ。クチャクチャと音を立てて、よく見えないが人の腕の形をしたものを貪っている。ホラー映画ならなかなかの雰囲気が出るところだ。
つぼ浦は一旦きれいな二度見をキメたあと、何も見ていないことにしようと視線を逸らし、立ち去ろうとした。
その瞬間、黒い影がヌ。とこちらに顔を向けた。
つぼ浦はまごうことなき死を覚悟した。全身の毛という毛が粟立つ。明らかにこちらに対して殺意しかない。
つぼ浦が駆け出した瞬間、黒い影はこちらに飛びかかって押さえつけてきた。ギリギリと腕の骨が軋む音がする。やはりつぼ浦は死を覚悟した。哀れつぼ浦。お皿に乗っかっちゃった兎のような、はたまたまな板の上の鯉というやつのように震えるしかない。
化物はこちらの顔を覗き込み荒く息を吐いている。半開きの口から垂れた涎がつぼ浦の顔にかかった。うわ汚ねぇ、なんて呑気に考えるが絶賛喰われる前なので現実逃避にすらならない。
まあ、どうせこの街では頭がなくなろうが原型をとどめていなかろうが死んでも死にきれない。場違いな終止符はどこにでもいてどこにもいない市長によって取り除かれるのだから。
どうせならダウンする前に自分を捕食する相手の姿を目に焼き付けて死んでやろう、と相手の顔を観察すると、一つ心当たりのある特徴を見つけた。
化物の顔を半分くらい覆う鱗から覗く目は青い色をしていた。
孔雀の目のようだが、目尻の垂れたその目は人のもののようだ。なぜかいつまでたっても化物が自分を食べる素振りを見せないので、どうも見覚えのあるその目を眺めていると、脳裏に同じ目を持つ人物が浮かび上がってくる。
「…アオセン?」
ピク、と化物は動きを止めた。知性はないように感じられるその瞳に、信じられないという感情が浮かび上がったように見えた。
つぼ浦が次の言葉を発そうとした時、化物は自分の上から飛び退きどこかへ消えていった。
妙な体験をした夜がすぎ、朝を迎えた。街はつぼ浦が体験したことなど知らぬ存ぜぬという雰囲気で日常に戻っている。
結局化物に喰われていたのは心無きだった。この街では心無きが死のうと何も変わらない。いつものように虚空に消えた死体の他には、つぼ浦の記憶に刻みつけられた化物の目だけが残った。
「…あー」
「どうしたつぼつぼ」
出勤して悩みながらも歩いていると、上司のキャップに出会った。
正直頼りになるかもわからないし、そこまで信用はしていないが話し相手にはちょうどいい。つぼ浦は一旦目の事は端折ってキャップに話してみた。
「うーむ…関係あるかはわからないが、似たような話は聞いたことがあるな」
「マジっすか」
「ああ。よくある都市伝説だな。夜な夜な現れる化物が人を喰い殺すなんて都市伝説だ。しかし…」
キャップは俯いて少し考え込んだあとに言葉を発した。
「心在りへの被害が出たという話は聞いたことがない。心無きの死体は消えてしまうし説明のしようがない。まぁ、ただの噂だと思っておきなさい」
結局当の青井に会うこともできずに一日が過ぎた。なんだかんだいつもどおりの日が過ぎていき、夜がやってくる。
少なくとも顔を突っ込んではいけないところに突っ込みかけているのはよくわかっている。しかし人間の好奇心というものはよくできているようで、気になって仕方ない。業務に身が入らないところまで行っているのでなかなか深刻だ。だがあの化物にまた会える確証もない。
つぼ浦はワンチャンにかけてみることにした。
深夜二時、つぼ浦は化物が現れた場所に仁王立ちしていた。
犯人は現場に戻る、の精神で待ち構えること30分。つぼ浦の心は半分折れかけていた。
そもそも昨日のことがめちゃくちゃリアルな幻覚か、はたまた夢かすら覚えていない。諦めようかと少し油断したところでがさ、と音がした。
つぼ浦が振り返ってみると、そこには昨日の化物がいた。
刹那の見切りの如く緊張感が走ったその瞬間。
「オラァ!!!」
つぼ浦は化物をぶん殴った。力isパワー、あまりにも何も考えていない拳が化物の顔を捉える。手応えがあって化物が怯んだ瞬間、つぼ浦は手際よく手錠をつけた。正直効力があるかどうかはわからないが、打って変わって化物は大人しくなる。
その眼前に座り込むと、つぼ浦は口を開いた。
「…なぁ、アンタ…アオセンか?」
正直馬鹿みたいな問答だが、化物はつぼ裏の顔を見つめたあと俯く。みるみるうちに角や鱗が引いていき、あとには見知った美形な顔が残った。
「バレちゃったか」
「…まぁ、そうっすね」
化物―――いや、青井らだおはにへら、と笑うとまた俯いた。
「なんでわかったの?」
「一番は目だな。普段ヘルメットしてても目は見えるし、人の形してたから」
「あーやっぱ目か。見えないと思ったのに…」
いやーしくったな、と言うと、青井はつぼ浦の顔を見つめた。
「で?どうするの。警察にでも突き出す?」
つぼ浦は迷った。
警察につき出そうがどうせこの先輩は容易く切り抜けるだろう。日々の信用と信頼は、物的証拠もない戯言で揺らぐほどやわではない。
「いいの?このままじゃ俺、また人を喰うよ」
青井は驚くほどに落ち着いていた。
「あー、そうだな…アオセンは何で人を喰うんだ?」
「…そうだな、これは昔話なんだけどね」
昔々、一人の男の子がいました。
男の子はある時、お使いを頼まれて隣の村へ出かけていきました。
お気に入りの青い着物を着て、男の子は出発しました。
そうして無事に帰ってみると、村は赤く染まっていたのでした。
男の子は呆然としながらもお母さんやお父さん、友だちを探しました。
お父さんとお母さんはすぐに見つかりました。お父さんは頭が、お母さんは胴体が無くなっていました。
友達は皆食い散らかされていて、ある子は腕だけ、ある子は足だけになっていました。
青い着物が赤く染まるほど男の子は赤い水たまりを歩き続けました。
そうしてどれほどたったのでしょう。家の中でお父さんとお母さんの横で男の子がうずくまっていると、角の生えた鬼が入ってきました。
鬼は悲鳴を上げる男の子のことを見ると、とてもおもしろそうな顔をして話し始めました。
「そこのやつ、お前は生き残りか?」
男の子が震えていると、鬼は少し考え込んでこう言いました。
「殺すのももったいない。お前は運が良かったことだし、俺らの仲間にしよう」
そう言うと鬼は男の子の目をえぐり出し、自分の目をはめ込みました。
「今日からお前は俺達の仲間だ。ただでは死ねないぞ?」
そうして男の子は、人を食べる鬼となったのです。
「ま、てなことかな」
青井は飄々とした態度と顔つきで話を終えた。
つぼ浦は絶句すると同時に、何故か納得感を覚えていた。
妙にジジ臭い好みも、掴みどころのない一面も、長く生きた元人間と仮定すれば説得力はある。
一旦掛ける言葉に迷いつつ、つぼ浦は口を開いた。
「あー…なんというか、その…頑張った、な?」
突如投げかけられた褒めに、青井は目を見開いた。
「…なんで?」
「だってアオセンは心無きしか食べてないだろ?俺を取り押さえたときも結局喰わなかったし」
「あのときは名前を言われて驚いただけだよ」
「警察に突き出せなんて普通は言わないしな。裁かれることを期待してんだろ」
図星だった。
「………人を食べないとね、おかしくなっちゃうの」
青井からすれば言い訳、つぼ浦からすれば答え合わせのような言葉が口からこぼれ落ちる。
「そっすか」
つぼ浦は考え込むと、思いついたように口を動かす。
「そんなんならアレっすよ。俺のこと喰います?」
「は?」
青井は本気で耳を疑った顔をしてつぼ浦の顔を見つめた。
「そこら辺の心無きを襲って喰うくらいなら、何しても回復する俺を食ったほうが効率的ってやつじゃないっすか」
いかなる方法を持ってもこの街で心のある人物が死ぬことはない。無いものとあるものの21gの差は、場違いな終止符が訪れるかどうかだ。
「馬鹿じゃないの……? 痛いんだよ、肉を喰われるってことは。死なないからって、そんなことできるわけないじゃん」
「俺はできますよ」
つぼ浦は確固たる意志を宿した目をしていた。救うべきものを救う、自分がしたいから手を差し伸べる。身勝手で優しい献身だった。
こうなったらつぼ浦は意地でも引かない。それは青井が一番わかっていた。
「……はは、そっかぁ…」
青井はつぼ浦の手を取る他なかった。
夜、空の主役が月に変わる頃だ。まあ今日は新月なのだが。
青井は空を眺め、それからまた下にいる男を見つめた。疲弊しているのか痛みからなのか、はたまた本当に死んでしまったのか、ピクリとも動かないその姿に少し慌てて声を掛ける。
「つぼ浦?」
「…ん、なんすか」
「ああ良かった、死んじゃったかと思って」
「生きてますよ」
つぼ浦は青井に手を伸ばそうとして、そうして手がないことに気がついてやめた。見事に付け根から噛みちぎられた右腕を哀れっぽい目で見てから視線を逸らす。今頃自身の腕は青井のお腹の中で美味しい肉となっている頃だろう。この状態になっても病院に行けばあっという間に生えてくる。なんと素晴らしいことだろうとつぼ浦は回らない頭で思った。
視界の端の方に膝から上がちぎれた両足が見えた。綺麗に太ももだけ持っていかれたらしい。ぬらぬらと光る血がつぼ浦の陽気な短パンを赤く侵食していく。
血の抜けて青白いつぼ浦とは対象的に、青井は満たされた顔で口端の血を拭った。肌つやがこころなしか良くなっている気がする。
「ありがとねつぼ浦。お腹いっぱい」
「…おう、ごちそうさまって言えよ」
「ごちそうさま」
青井はつぼ浦をヘリに押し込み、残った身体のパーツも乗せこんで離陸した。
病院につぼ浦を運び込めば、呆れ半分焦り半分といった態度で治療される。
今月n度目の治療で腕と足を生やしてもらって互いに別れを告げたあと、青井はふらふらとしながら路地裏へ向かった。
奥の方で心無きが歩いている。目的も何もなく歩き回る彼らに近づいて、そのうちの一人の眼前に立ちふさがってみる。
不明瞭な言葉で喚くそいつの頚椎に、刃を当て思いっきり振り切った。無個性な顔面を貼り付けた頭が飛んで、一拍置いて血が噴水のように吹き出す。
青井は心無きの襟元を掴んでズルズルと引きずり、路地裏まで連れて行く。
頭の無くなったそれに青井は噛みつき、ひたすらに貪った。
骨も無くなるまでしゃぶりついたあと、放心したように青井は仰向けに倒れ込んだ。いつもは消える角がいつまでたっても消えない。
「ぅぅ゙ぁ゙ーーー……」
うめき声が漏れ出る。思いついたのはつぼ浦の味だった。
あの日、初めてつぼ浦を食べた時。噛みついた時の感想は「美味しい」だった。
いままで無視していた心無きの味。魂がないからなのかはわからないが、心無きは空虚な味がする。ソースを掛けていないステーキのような、砂糖を入れなかったお汁粉のような、物足り無い味がする。
満たされずに何人も食い散らかしてようやくお腹いっぱいと認識する。自分の食べてきた死体を積み上げれば、小さな山が出来上がるほどには貪り続けた。
それがつぼ浦を食べた時にすべて吹き飛んだ。21gの重さにはにはこれほどまでの差が生まれるのかと驚いたほどだ。
ただの鬼は人の味を知った鬼となった。
いままでは青井の中にある善性が心在りを食べる事を拒否していた。たとえ生きるためだとしても、仲間を生餌にしてしまうほど青井は落ちぶれてはいなかった。
それがつぼ浦を食べたことで揺らいでいた。
自分がつぼ浦を心ゆくまで堪能しようものなら、つぼ浦は一欠片も残らないことを青井は理解していた。
この街では一欠片も残らなくても生き返るかもしれないが、ペナルティーとして記憶を失う。そうしてこの約束を忘れてしまったら?それも青井の恐怖の対象だった。ただの食って喰われる関係を終わらせるのが怖かった。
本能とはまた違う、友愛とは言えないくらいにはどろりとした気持ちから目を逸らし、青井は次の獲物を探しに行った。
犯罪的な所で切ります。
気分が乗らなかったので続きはまた今度書きます。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!