テラーノベル
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続きです。グロ注意。
つぼ浦は理解していた。
青井が自分を食べている最中に虚しいような、物足りない顔をしているのを。
青井の理性が強固で、決して折れることがないことをつぼ浦は知っていた。いつも四肢が食い散らかされるだけで終わることから容易にそれは想像できた。
どうせなら、どうせならしっかり食べてほしい。それはただの献身などではなく、けしてこちらに向くことがなかったであろう青井の気を引けるという淡く純粋な独占欲から着ていた。
ロケランを爆破すれば青井は駆けつける。問題を起こせば青井は一緒に謝ってくれる。小学生が好きな子に意地悪をしてしまう、あの調子によく似ていた。
いつものように綺麗に生えきった手を見つめる。ここを先ほど噛みちぎられた。それだけで少しだけ口角が上がる。
身体がすべてなくなってしまったらどうなるのだろう。平等に訪れるはずの死が無いこの街では、病院で記憶を失ってまたやり直せるのだろうか。
「…どうせなら」
すべて食べつくしてほしい。青井の一部になりたい。
そんなことが、自分を想って食べ過ぎぬように食欲を押さえつけている相手に言えるはずもなく。
不完全燃焼になりながらも、つぼ浦は青井からの連絡を待った。
ぺちゃぺちゃと血が滴る、それを舐めて、また一口かじりつく。
おかしい、いつもはこれくらいで満たされる食欲が押さえつけられない。
口元の血を拭えば、また美味しそうな香りがする。自分への嫌悪感が湧いて出てくる。目の前のつぼ浦が不安げな顔でこちらを見ている。
つぼ浦は変な所で鋭い。悟られたくないので平静を装う。
「アオセン」
「なぁに」
「…まだ腹減ってんだろ」
バレてた。大丈夫だと言って足のないつぼ浦を持ち上げようとすると、つぼ浦が少し抵抗してこちらを睨んだ。
「無理すんのはよくないぞ」
それはお前を傷つけたくないからだよ、と心のなかで反論する。
「…美味しくないのか、俺」
ボソリと顔を背け、つぼ浦が呟いた。
頭の血管がぷつりと切れた気がした。
違う、お前が美味しすぎるから我慢しているのに。自分がどれほど美味しいのかわかっていないんだ、こいつは。おれが本気をだしてしまえばひとかけらもなくなるのに。ひとかけらもなくなるのがおのぞみなの?
あたまがいたい。おさえられない。いまからぜんぶなくなるのに、なんでおまえはそんなえがおなの?こわくないの?
「…ちゃんと全部喰えよ。残したらダメだからな」
えがおでいいきるニンゲンのくびすじに、きばをたてた。
正気に戻ると、目の前の血溜まりに自分の顔が映っていた。
「…つぼ、うら」
目の前には誰もいなかった。それがつぼ浦をすべて食べ尽くしたことを示唆する証拠だった。
何をしでかしたのか理解したと同時に吐き気が込み上げるが、胃からは胃酸がこぼれ落ちる。すでに綺麗さっぱり消化してしまったのだろう。今はただただ自分の本能を恨む他なかった。
あれほど抑えていたのに、あれほど気をつけていたのに理性なんて本能の前では吹けば飛ぶ紙切れのようだった。限界から目を背けた先には確実に訪れる終わりがあったことを青井はすっかり忘れていた。
青井は重い足を動かし病院へ急いだ。
驚く救急隊を押しのけつぼ浦のもとへ急ぐ。
今は自分が傷つけた被食者への懺悔を聞いてほしかった。
奥の部屋で、手術台に座ったつぼ浦が自分の掌を見つめていた。その目が何も映していないことに恐怖しながらも青井は声をかけた。
「つぼ浦」
「…あ、アオセン」
つぼ浦はこちらに顔を向けると、いつもの様子からは想像できないような顔でふっと笑った。
「あの、ごめん。その、ほんとにまさか自分が全部食べちゃうだなんて想像できなて、それで…」
「大丈夫っすよ」
つぼ浦は笑みを浮かべていた。何かを成し遂げた探検家のような、女神のようなその微笑みにいままで練り上げていた全ての謝罪が吹き飛んでしまった。
「美味しかったっすか?俺は」
青いは息を飲むしかなかった。
青井は冴えない好意をつぼ浦に対し抱いていた。それは最後のストッパーだった。好きな人を活餌にしてまで生き延び得たくない。不都合な終わりがないとしてもそこに残るのは食べられたという事実と心の傷だ。
「痛くないの?」
「痛いっすよ」
「苦しくないの?」
「苦しいっすよ」
「…食べられてる時怖い?」
「そりゃもちろん」
青井の自己否定と自身への恐怖をつぼ浦はまるっと肯定してしまう。否定も拒絶も乗り越えた無条件の博愛を受けたような気分だった。
「じゃあなんで…!」
「アオセンだから?」
「え?」
それが自分にしか向いていないなんて考えもしなかった。
つぼ浦に対する感情に食欲以外があるなんてもう気がついていたのに、それから目を背けて逃げて一生表に出す理由の無いものだと思っていたのに。
「…好きなの?俺のこと」
「そうだよ…あ゙ーもう、何度も言わせんな!!」
あれほど優しく自分を受け入れていたのに、今では首まで真っ赤なつぼ浦を見て青井は口角が上がるのを感じた。つぼ浦が自分へ矢印が向いているなんてこんな嬉しいことはない。
「ねぇつぼ浦」
「…ナンスカ」
頭を抱えるつぼ浦の目の前に跪き手を取ると、手の甲にそっと口付けた。
「俺はお前のことが好き。こんなひどいことしちゃったけど、付き合ってくれますか?」
「……ハイ」
いつもの大声とは程遠い声で返事が帰ってきて、青井は嬉しさのあまりつぼ浦に抱きついた。
「…そんな、酷いとも思わないけどな」
抱きつかれ首に擦りつかれて顔を赤くしつつも、つぼ浦は青井に聞こえぬよう小さな声で呟いた。
歪で温かい献身が報われたときだった。
幸運にも大外れをひいてなんだかんだ恋人になったお話。
最初はバットエンド想定だったのですが、🏺が全部かっさらってハッピーエンドになりました。特殊刑事課は偉大。
このあとは歪んでるようで温かい日々が続くのでしょう。二人に幸あれ。
コメント
1件
読み終わりました……もう、もうね、最初から最後まで心臓が痛かったです。つぼ浦が「アオセンだから」って笑ったところ、あれで完全にやられました。食べられる側がここまで能動的で、しかも「好きだから全部食べてほしい」って歪みきった愛情を向けてくるの、すごく切なくて美しかったです。青井が最後に理性を飛ばして全部食べちゃう流れも、押さえ込んでた感情の反動がリアルで。でもちゃんと「好き」って伝え合えて、ああ良かった……歪なハッピーエンド、大好きです。お疲れ様でした、甘夏剤さん。