テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
毒親を追い払ってから数日が経ち、私の生活は平穏を取り戻したはずだった。
エレンの深い慈しみによって、私はようやく自分という人間を取り戻しかけていたのだ。
けれど、長年受けてきた心の傷は、そう簡単に消えてはくれない。
根を張るように深く刻まれた過去の恐怖は、ふとした拍子に私を奈落へと突き落とす。
その日の夜───…
私は、冷たい闇の中で、激しい罵声に晒されていた。
『おい、スカーレット! なんで俺の言うことが聞けないんだ!』
『お前みたいな可愛げのない女、誰が愛してやると思ってんだよ!』
怒り狂ったロニーが、醜い形相で今にも私に掴みかかろうと腕を振り上げている。
やめて、助けて。
声にならない悲鳴が喉に張り付く。
殴られる、またあの暗い部屋で罵られる。
「……っ、あ……っ!」
激しく跳ね起きた。心臓が痛いほど早鐘を打っている。
目の前にあるのはロニーの醜い顔ではなく、エレンの寝室の穏やかな暗闇。
けれど、夢の恐怖が指先まで支配していて、震えが止まらない。
隣で静かに眠るエレンの気配だけが、唯一の希望だった。
私は隣で眠っているエレンの肩を、必死に、縋り付くようにしてユサユサと揺らした。
「……ん、スカー……レット……?」
眠気を帯びた低い声がして、エレンがゆっくりと身体を起こす。
微睡みの中、目を擦りながら私を見つめた彼は、すぐに私の異変に気がついた。
尋常ではない私の震えと、青ざめた表情に、一瞬で彼の意識が覚醒するのがわかった。
「どうしたの……っ? 顔色も悪いし、手もこんなに震えてるよ……」
エレンは咄嗟に私の身体を強く抱き寄せた。
彼の逞しい胸から伝わる規則正しい鼓動、清潔な石鹸の香り。
それだけが、今の私を現実へと繋ぎ止めてくれる唯一の錨だった。
「……こ、こわい、ゆめ、みたの。ロニーに、怒鳴られてる……ゆめ。……すごく、怖くて……っ」
私の口から出た「ロニー」という名。
彼が私をどれほど苦しめたクズ夫だったかを思い出したのか
私を包み込むエレンの腕に、ぐっと強い力がこもった。
彼は私の頭を優しく、何度も何度も撫で
恐怖で強張った背中を大きな掌でゆっくりとさすってくれる。
「大丈夫、大丈夫だよスカーレット。ここには俺と、君だけだからね。もう、君を傷つける怖い人はどこにもいないよ。大丈夫……」
子供をあやすような、どこまでも甘く慈愛に満ちた声。
その優しさに触れるたび、私の胸の奥には、新たな不安が鎌首をもたげていた。
愛されていると実感すればするほど、自分という欠陥品が彼に失望されることが怖くてたまらなくなる。
「お、起こしてごめんね。明日、早いのに」
「いいんだよ、そのためにすぐ隣にいるんだから」
その翌日───…
私は、エレンに話があると言ってエレンを部屋に呼んだ。
「……ねえ、エレン。私……」
「うん、どうしたの?」
私は彼のシャツを指先が白くなるほどぎゅっと掴み、今にも消え入りそうな掠れた声で問いかけた。
「ロニーにね……『ヤらせてくれないから、外で発散するしかないんだ』って、いつも怒られてたの」
「それが……ずっとトラウマで。……エレンも、私が、その、ちゃんとエッチに踏み込めなかったら……イライラして、他の人のところに行っちゃう……っ?」
涙が溢れ、視界が滲む。
ロニーにとって、私は欲求を満たす道具でしかなかった。
思い通りにならないと怒り、私を否定し、他の女性の影をちらつかせた。
優しすぎるエレンだからこそ、私に応えられない部分があるなら
彼もいつか私に愛想を尽かして他の女性を求めてしまうのではないか。
そんな恐怖が、どうしても消えなかった。
私の言葉を聞いた瞬間、エレンは折れそうなほど強く私を抱きしめてきた。
「そんなわけないだろう」
私の耳元で、彼は一音一音を魂に刻み込むように言った。
「僕はスカーレットが嫌がることは、絶対にしないよ。君が怖がることなんて、僕にはできない」
「僕は君が好きなんだ。心から愛しているんだよ。そんな浮気男みたいに、君を放置して他の女性のところに行ったりなんて、天地がひっくり返ってもありえない。心配しなくても、大丈夫だから。ね?」
エレンの真剣すぎる眼差し、嘘偽りのない言葉。
その熱が、私の凍りついた心をゆっくりと溶かしていく。
ああ、この人は本当に私自身を求めてくれているんだ。
性急な関係ではなく、私という存在そのものを慈しんでくれている。
私はエレンの首筋に顔を埋めたまま、甘えるように、決意を込めて小さく囁いた。
「……んん、ありがとう。信じる、ね。……でも、その……ね。エッチ……私、エレンとならしたいと思ってるの。でもまだ、怖くて、すぐには出来ない……」
「うん。したいと思ったときでいいよ。僕はずっと待ってるから。焦らなくていいんだよ」
あまりにも真っ直ぐな彼の愛に、胸が熱くなる。
私は少しだけ顔を上げ、彼の服の裾をそっと引っ張った。
彼に、もっと「愛されている証」を刻んで欲しくなった。
「じゃあ……ワガママ、言ってもいい……?」
「どんなワガママ?」
エレンが困ったように、けれど隠しきれない愛おしさで眉を下げて聞き返してくる。
「エ、エレンにね、その……キスマーク? 付けて欲しいなっていうか……。み、見えないところに、とか。……キスマークを見たら、鏡を見るたびに、エレンに愛されてるって、エレンのものなんだって……思えるから……」
言い終える頃には、私の顔は火が出るほど熱くなっていた。
なんて恥ずかしいことをお願いしているんだろう。
エレンは一瞬、呆気に取られたように目を見開いたが、すぐに愛おしさが爆発したような笑みを唇に綻ばせた。
「ワガママって……そんなこと?」
「…うん、ダメ……?」
私が不安げに見上げると、エレンはたまらないといった様子で私の頬に手を添え、親指で優しく撫でた。
「ダメなわけないだろう。なんなら、喜んでしてあげるよ。むしろキスマを付けたいのは、僕の方なんだから」
「!…ありがとう……っ、うれしい……」
彼の言葉に安心した私は、甘えるようにさらに彼に密着した。
もっと、もっと彼の体温を感じていたかった。
「あ、あとね……口に、キスも、たくさんしてほしいの。ぎゅーって、抱きしめ合いながら……っ」
「ふふっ、それぐらいお易い御用だよ」
エレンが優しく笑うと同時に、私の唇に柔らかな感触が重なった。
一度、二度……。
深く、けれど壊れ物を扱うような丁寧なキス。
「ん……っ、ん……」
何度も角度を変えて重なる唇と、背中を包み込む大きな手のひらの熱。
エレンは私の鎖骨のあたりに顔を寄せ、熱い吐息とともに、約束通りの「愛の印」を深く刻みつけた。
少しの痛みが、今の私には最高の愛の証明だった。
「……これで、スカーレットは僕のものだね」
耳元で囁かれる独占欲の滲んだ声に、背筋がゾクゾクと震える。
もう、夢の中の怒鳴り声なんて聞こえない。
ここにあるのは、私を甘く溶かすようなエレンの体温と、終わることのない情熱的なキスの嵐だけ。
「もっと……、エレン、もっとして……っ」
「……うん、いくらでも」
エレンの唇が、私の首筋に再び押し当てられた。
さっきとは違う場所に、また一つ、熱い証が刻まれていく。
チクリとした痛みに私は小さく身を捩るけれど、それはすぐに心地よい疼きへと変わっていった。
「ん……っ」
自分の意思とは関係なく漏れる吐息が恥ずかしいのに、それを止められない。
エレンは私の反応を確かめるようにじっと見つめながら、ゆっくりと唇を下へと滑らせていく。
彼の鼻先が私の鎖骨に触れ、温かい呼気が肌を撫でるたび、ぞくりとした感覚が背筋を駆け上がった。
「……スカーレット……」
低く掠れた声で名前を呼ばれただけで、お腹の奥がきゅんと疼いてしまう。
エレンの長い指が、私の髪を優しく梳く。
その優しい仕草とは裏腹に、彼の唇は私の肌を辿るように熱く、そして大胆に吸い上げていく。
鎖骨のあたりが特に敏感なのかもしれない。
そこに唇が触れるたびに、ぴくんと体が跳ねてしまって、エレンは「可愛いね」と嬉しそうに微笑みながらそこを執拗に攻めてきた。
「あ……ぁっ……」
自分のものとは思えない甘えたような声が、薄暗い寝室に響く。
恥ずかしさで顔が燃え上がりそうなのに、エレンのキスは止まらない。
私の肩口に唇を這わせ、舌先で軽く舐められたりすると、もう何も考えられなくなってしまいそうになる。
「……エレン…すき…っ」
気づけば、私は両腕を伸ばし、彼の広い背中にしがみついていた。
もっと彼の熱を感じたくて、もっと彼に触れられたくて堪らなかった。
エレンは私の懇願に応えるように、体をぴったりと寄せてきた。
彼の鍛えられた胸板が私の胸に押し付けられ、お互いの早い鼓動が混ざり合う。
彼の右手が私の腰に回され、ビクっとすると「ごめん、怖い?」と優しく問われる。
私が首を横に振ると安心したように笑い、左手は私の頭を包み込み、さらりと髪を梳くように撫でてくれた。
その仕草ひとつひとつに愛が溢れていて、幸福感で胸がいっぱいになった。
エレンは私のお腹から胸の谷間にかけて
幾度もキスを落としては名残惜しげに離れ、また別の箇所に跡を刻む。
私がまだ怖くてできないと言ったから、必死に我慢してくれているのが伝わってくる。
そのたびに感じる鈍い痛みと高揚感。全身が彼の所有物になっていくようで、倒錯的な喜びが私を襲う。
「エレン……もっと……」
潤んだ瞳で彼を見上げれば、エレンは熱っぽい瞳で私を見下ろしていた。
その目に宿る情欲と愛情が交錯しているのが分かって、私もまた同じように彼を求めずにはいられなかった。
「……スカーレット。あまり煽らないで。大事にしたいんだから……」
苦しそうな声でそう言いながらも、エレンの唇が再び私の首筋を這う。
「あっ、煽ったつもりはないんだけど…ごめん、怒ってる?」
不安げに聞くと、エレンは苦笑しながら優しく答えてくれた。
「あ…そういう意味じゃなくてね、君を傷つけたくないだけだよ。でも……こうして触れ合ってるだけで……こんなにも気持ち良いって……スカーレットもわかる?」
耳元で囁かれると、もうダメだった。
「うんっ…………エレンとのキス、も、触れ合うのも、気持ち良い……」
正直に告げれば、エレンは驚いたように目を見開いた後、恍惚としたように微笑んだ。
心臓が爆発しそうなほどのドキドキに耐えられなくて、私は彼に抱きつく力を強めた。
「エレンに求められるの…嬉しい。……幸せだよ……」
二人の体温が溶け合うように絡み合い、互いの境界線が曖昧になる感覚。
体中が彼の愛情で満たされていくようで、私はただ与えられる快楽と愛に身を任せた。
ひとしきり体に口づけが降り注いだ後、最後にまた唇同士が合わさり、熱いキスが始まる。
「んぅ……ん…」
吐息を奪われるように激しいキスを受け入れながらも
もっと近づきたいという衝動が抑えきれなくて、足を絡ませると、エレンもそれに応えるように力強く抱き締め返してくれる。
彼の胸板の厚みや体温、匂いに包まれて……
これが現実なのだと信じられないくらい幸福すぎて泣けてくる。
「大好きだよ……スカーレット……」
その言葉にまた涙腺が緩みそうになったとき───
彼の硬いものが太ももに触れた感触があり……。
体中が彼の愛で満たされたかのようにドキドキしっぱなしで……
私はもう何も考えられなくなっていったのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!