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にこにこ
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にこにこ
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翌日の午後。
病室の窓から差し込む光は明るいのに、愁斗の心はどこか曇っていた。
朝の診察で言われた言葉が、何度も頭の中を繰り返していた。
「思っていたより、回復が遅いですね。」
(……遅い。)
(退院、延びるのかな。)
(施設のみんな……。)
ベッドの上で膝を抱える。
退院が延びれば、その分だけ先生たちの負担は増える。
下の子たちも、不安になる。
(早く帰らなきゃ。)
(俺がいないと。)
そう考えれば考えるほど、胸が苦しくなった。
コンコン。
病室のドアがノックされる。
『入るよ。』
ひでだった。
紙袋を持ち、いつものように笑っている。
『今日はゼリーじゃなくてプリン。』
「……ありがとう。」
『体調どう?』
「普通。」
短い返事。
ひでは少し違和感を覚えた。
『何かあった?』
「別に。」
『先生に何か言われた?』
愁斗は答えない。
窓の外を見つめたままだった。
少し考えたあと、ひでは静かに口を開く。
『焦らなくていいよ。』
「……。」
『施設のみんなも待ってるだろうけど。』
『先生たちもいるし。』
『今は安心して休もう。』
その言葉だった。
愁斗の肩が、小さく震えた。
「……分かんないよ。」
『え?』
「施設じゃない人には。」
病室が静まり返る。
愁斗はゆっくりひで を見る。
怒っているわけじゃない。
泣いているわけでもない。
ただ、どこか諦めたような目だった。
「施設の人間だから。」
『愁斗……。』
「施設の子しか分かんない。」
「先生は優しいよ。」
「でも。」
「18歳になったら、出て行かなきゃいけない。」
「帰る場所がなくなるかもしれない。」
「働けなかったらどうするの。」
「下の子たちに会えなくなったらどうするの。」
一つひとつの言葉は静かだった。
だからこそ、胸に刺さる。
『分からない。』
ひでは正直に答えた。
『俺は施設で暮らしたことがない。』
『だから全部は分からない。』
愁斗は少し目を伏せる。
『でも。』
『分からないからこそ、知りたいんだ。』
『愁斗が何を考えて、何が怖いのか。』
『知りたい。』
『一緒に考えたい。』
愁斗は小さく首を横に振った。
「……もういい。」
『愁斗。』
「今日は。」
少しだけ間が空く。
そして。
「帰って。」
『……。』
「お願い。」
「今日は、帰って。」
その声は震えていた。
怒りじゃない。
拒絶でもない。
自分を守るための、精一杯の距離だった。
ひでは何も言えなかった。
ゆっくり立ち上がる。
『……分かった。』
病室のドアを開ける。
閉まる直前。
『また来る。』
そう言いかけて、飲み込んだ。
静かに病室を出る。
廊下を歩きながら、ひでは拳を握った。
(俺……。)
(何か間違えた。)
(励ましたかっただけなのに。)
エレベーターの扉が閉まる。
初めて病院へ行く足取りよりも、重かった。
一方、病室。
ドアが閉まった音を聞いた瞬間。
愁斗は布団を強く握りしめた。
「……最低。」
ぽつりと呟く。
「また。」
「当たっちゃった。」
何も悪くない人に。
一番優しくしてくれる人に。
傷つけるつもりなんてなかった。
でも。
止められなかった。
「……ごめん。」
その言葉は誰にも届かない。
病室に一人、静かに消えていった。
その夜。
家へ帰ったひでは、何度もスマートフォンを手に取った。
「大丈夫?」
そう打っては消す。
「ごめん。」
それも違う気がした。
結局、何も送れなかった。
(少しだけ。)
(少しだけ距離を置いた方がいいのかな。)
そう思って眠りにつく。
けれど翌日の放課後。
気が付けば、足は病院へ向かっていた。
会わないと決めたはずなのに。
どうしても。
会いたかった。
コメント
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みぅです🖤 第12話、読ませてもらいました。 愁斗の「施設の子しか分かんない」って言葉、すごく重かった。一緒に知りたいって言ってくれたひでに「帰って」って言うしかなかった切なさが、胸に刺さる。最後、距離を置こうと思ったのに病院へ向かうひでの気持ち、分かるなあ。会いたくてたまらなくなる瞬間、あるよね。続きが気になる。