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「じゃああの時の杏子ちゃんはお兄ちゃんだったってこと?」
「にわかに信じ難いが……」
ゴールデンウィーク中の平日夜、仕事を終えた大輝と千鶴ちゃんが来てくれた。
ちなみに私はこのゴールデンウイークの間は全て有給で埋めて11連休を取っていた。
これもカスタマーにいるからできることだった。
鷹也の会社は元から11連休。ホント、医療系商社の人って休日に恵まれているわ。
二人は森勢の義母から大体の話を聞いていたみたいで、私たちから話すことはほとんどなかった。
ただ、私たちにはどうしても謎に思っている部分があった。それはあの入れ替わりだ。
鷹也と何度も話し合ったが、入れ替わりがなぜ起こったのかは謎のままだった。
頭のいい二人なら、何か知恵を授けてくれるのではと思い、大輝と千鶴ちゃんに思い切って話してみることにしたのだ。
「どんぐり飴かー。これだろう?」
「ごく普通の飴よね? これで変身出来るなんてアニメの世界じゃない?」
「変身じゃない。入れ替わりだ」
「どっちでもいいじゃない。お兄ちゃんは杏子ちゃんになっていたわけでしょ?」
「まあそうだけど……」
変身って言ったら、仮面ライダーとか思い浮かべちゃうからちょっと違うんだけどなー。……ということは言わないでおいた。
「これ、2つあるけどどっちがどっち?」
テーブルに並んだ2つの瓶を持ち上げて大輝が問う。
「こっちの数が少ないのが私。たくさん入ってるのが鷹也」
「てことは杏子の方が沢山食べてるんだな」
「私が食べたのは最初の入れ替わりの時と2回目の入れ替わりの時。あと1つ悠太が食べたわ」
「悠太が?」
「うん。目の前で食べていたけど何ともなかったのよ。だから大丈夫なんだと思って2つ目を食べたのよね。それがあの時よ、大輝がひなをお風呂に入れてくれてた時」
「ああ、大きな飴食べてて喋らなかった時な……え? あの時の中身って――」
「中身は俺だった。ひなが風呂から飛び出してきて、シャボン玉セットを取って行っただろう?」
「……マジか。俺、入れ替わりの現場に居たのか」
大輝が気味悪そうにしている。
たしかにあとから聞かされたら気味が悪いよね。
「3回目は鷹也がどんぐり飴を食べたのよ」
「ええっ? お兄ちゃんが? お兄ちゃん甘いもの嫌いじゃない」
「……たまには食べる」
鷹也が少し赤くなって言い返した。
あの時は私を思い出しながら食べた、と聞いていたので、きっと初めて行った縁日のことを思い出したのだろう。さすがに千鶴ちゃんには言えないわよね。
「俺たちが動物園から出てきた時は入れ替わり中だったんだな?」
「だからあの時、杏子ちゃんが私に『千鶴っ!』って言ったのね。あれお兄ちゃんだったんだ。やっと納得した」
「鷹也もコレを食べて入れ替わった。だから入れ替わりアイテムはどんぐり飴だと思うんだけど、悠太のことがあるからなんとも言えないのよね」
「うーん」
4人で頭を抱えた。
やっぱりこんなファンタジー現象については誰も答えが出ないのかもしれない。
「それ、藤嗣寺でもらったのよね?」
「うん。でもおばあちゃんが花まつりの日に縁日で買ったんだと思うの。幼馴染に会ったとか、いろいろ話してくれていたんだけど、あの時バタバタしていてあまり覚えていないのよ。おばあちゃんと話す最後の時だったのに、後で後悔した……」
「杏子ちゃん……」
「その幼馴染っていうのが藤嗣寺の住職なんだろう? 母さんが言ってた――」
「それ、うちのおじいちゃんのことよ」
「は?」
あ、そっか。大輝はまだそこまで知らなかったんだ。
「大輝、藤嗣寺は森勢のお義母さんのご実家なのよ。だからうちのおばあちゃんの幼馴染っていうのは鷹也と千鶴ちゃんのおじい様ね。ただ……」
「長岡の祖父は6年前に亡くなっている。祖母も2年前に」
「そうなのよね……。長岡さん、あ、光希さんね。光希さんにもそのことは聞いたのよ。亡くなっていたとは思わなくて。でもおばあちゃん、たしかに幼馴染に会ったって言ってたの」
「亡くなっているのにか?」
「うん……。おかしいよね? ひょっとしたらお墓参りに来て、心の中で話したんじゃないかっていうのが光希さんの見解だった」
「墓参りかー」
「……伯父に聞いてみようか?」
「ああ! それだ。お兄ちゃん、伯父さんに聞きに行こう!」
「伯父さんって、光希さんのお父様?」
「ああ、藤嗣寺の現住職だ。伯父なら何か分かるかもしれない」
「でも私たちは明日休みだけど、二人は仕事なんじゃないの?」
「明日から休みよ。ゴールデンウィーク後半の二日間は二人とも当直なの。だから早めに休みを取って、明日からグアムに行くつもり」
「グアム⁉ いいなぁー!」
独身カップルの自由さを目の当たりにして、思わず羨望の声が漏れてしまった。
「夜便だから日中は大丈夫。一緒にいくわよ、藤嗣寺」