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藤嗣寺は1の付く日とあって、たくさんの人で賑わっていた。

今日もベビーカステラとどんぐり飴の屋台が出ている。


「ひなちゃん!」

「こうようくん!」


すっかり仲良くなった子供たちが二人でブランコへ向かう。


「いらっしゃい。今日は大勢だな。千鶴も久しぶりじゃないか」


光希さんが出迎えてくれた。


「光希くん、こちら私の彼氏の奥田大輝」

「初めまして、千鶴の同僚の奥田大輝です。同じ医局でお付き合いさせてもらってます」

「副住職の長岡光希です。従妹の千鶴がお世話になってます」

「こちらこそ、従姉の杏子がお世話になってます」

「え? 和久井さんのいとこ?」

「あ、そうなんです。本当に偶然で」

「へぇ……偶然だね。いや、それよりひなちゃんの父親が鷹也って聞いて驚いたよ。和久井さんがシングルマザーだってことも知らなかったし、めちゃくちゃ驚いたんだけど」

「アハハハ……わざわざ言うようなことでもなかったので……」


これはどこから伝わった話だろう?

鷹也をチラッと見ると「母親だ」と渋い顔をしていた。

なるほど……。お義母さんがそこら中に話して回っているのね。

たしかに急に孫が出来た訳だから、説明が必要だわ。ここはお義母さんの実家なんだし話すのは当たり前か。


「ひなちゃんと光陽ははとこだったんだね」

「そうなんですよ。びっくりしました」

「……二人は結婚するの?」

「はい。そのつも――」

「するよ。遅くなったけど結婚式も挙げるつもりだ」

「そうか。楽しみだなぁ」


「みんな忘れてるかもしれないけど……」とそこで大輝が言いにくそうに手を挙げた。


「うち、喪中だぞ?」

「あ」


そうだよ。祖母が亡くなったところだから結婚出来ないじゃない!


「おばあ様が亡くなられたんだったね。まあ式を挙げるのはちょっと……いや、かなり先送りになるかもしれないけど、籍を入れるくらいはいいんじゃない? ひなちゃんのこともあるし……」


事情が事情だしね、と言って光希さんが気を使ってくれるけれど、鷹也はかなりショックを受けているようだ。

うーん。これはちょっと話し合わないとね。お義父さんもショックを受けそう。


そこへ立派な袈裟を来たお坊様が来られた。


「鷹也、千鶴、久しぶりだね」

「伯父さん、久しぶり」


鷹也の伯父様の長岡光司さんだ。このお寺の現住職をされている。

私と大輝はさっきと同じ挨拶を繰り返し、今回藤嗣寺を訪れた理由を説明した。


「花まつりの日……覚えているよ。和久井静子さんだね、確かに来られていたよ」


伯父様は祖母のことを覚えていた。


「静子さんは毎月一日には必ずお参りされていたんだ。熱心な方でね、どうしても融通さんにお願いしたいことがあるって仰ってたね。いつも御札を書いて奉納していたんだよ。お孫さんの名前で……たしか『和久井杏子』さんだったな」

「それ、私です!」

「本堂の右側にあなたの名前の御札があります。後でご覧になってください。お祖母さまがいつもお参りに来られていた証ですよ」


祖母は私のためにお参りに来てくれていたんだ。

生前の、私を思う祖母の気持ちがじわじわと伝わってくる。


「あの日はちょうど敦子ちゃんが出産で光陽を預かっていて、私がそこの砂場で遊ばせていたんだよ。その時にやって来られた。ここに小さな釈迦誕生仏が置かれていて、参拝者に甘茶をかけてもらっていたんだよ。花まつりのイベントだ。静子さんもその列に並んでいて、お参りを済ませた後、少しお話をしたのを覚えているよ。芙佳が生まれたことを話していたんだ。それからどんぐり飴の屋台でアメとシャボン玉のセットを二つ買われた。孫にあげるんだって言われてね。墓の方にも行っていたかな。帰る前に寺務所へ寄られて、アメとシャボン玉のセットを光陽にもくださったんだ」

「え? もしかしてあの位牌堂にあったのって……」

「あれは静子さんにいただいたものだ。せっかく頂いたけど、光陽にはまだ早いかと思ってな。シャボン玉セットだけを渡して、とりあえず飴の方は供えておいたんだ」

「あれ、鷹也にあげたんだ」


ええ? じゃあどっちのどんぐり飴もうちの祖母が買ったってこと?


「じゃあ、俺が食べたのは杏子のお祖母さんからのどんぐり飴……?」


祖母ががどんぐり飴に何かしたのかしら?

そんな力があったとは思えないけど……。

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