コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「父さん。結婚認めてくれてありがとう」
樹は、ゆっくり落ち着いて、その言葉を社長に改めて伝えた。
「ありがとうございます」
私も同じように伝えて頭を下げる。
「あぁ」
社長は、たったその一言だけの返事だけれど。
優しく穏やかに微笑んで、その言葉で、その温かさで、私たちを包んでくれた。
「でもまさか、副社長まで言われるなんて思ってなくてビックリした。まだまだオレはそのポジションにも行けないと思っていたから」
「仕事では私が思っている以上に功績を残してくれてるようだし、母さんとこの新しいブランドの方では、代表として頑張っているんだろ?それなら、そろそろこっちの副社長も任せてみるのもいいかと思ってな」
「まぁ、そっちはまだそこまで大きくない会社だし、オレのやりたいように出来る会社だから」
「なんだ?お前はうちの会社の方では自信ないのか?」
「いや!そうじゃないよ。今のオレだからこそ、その立場にいて出来ることや広がることがあるだろうし」
うん。きっと今の樹なら副社長としても立派にやっていけるよ。
「今ならお前には支えてくれる人がいるだろう。その人を今度はお前が全力で守らなければならん。そういう存在がいるということは、きっとお前にとって頑張る力になるはずだ」
「そうだね。彼女がいてくれるからこそ、オレはどんなことも頑張れるし、もっと上を目指して頑張れる。きっと彼女はどんな時もオレの力になってくれると思うから」
そう言って隣の私に優しく微笑む樹。
直接私に言ってるワケでもないのに、その見つめる視線で、その言葉や想いもしっかり伝わって来る。
うん。
いつでも樹の力になる。
私も樹がいれば、これからまたどんなこともきっと頑張れるから。
そんな想いを今はまだ胸に秘めたまま、だけど樹に伝わるようにと、私も同じように優しく微笑んで樹へ視線を返す。
「樹。これから頼んだぞ」
そして、この一言にいろんな社長の想いもきっと詰まっていて。
穏やかなのに、その言葉はとても深く心に響いて。
「あぁ」
樹が返すたった一言だけのその言葉。
きっと樹もその一言に、今までの想いもこれからの想いも全部詰め込んで。
この瞬間。
また樹の自信と決意がきっと強くなった。
「望月さん・・・。あっ、もう透子さんってお呼びした方がいいかしらね?これからは早瀬の名前を名乗って頂くことになるのだから。透子さん。うちの家族はこんな感じですが、どうぞよろしくお願いしますね」
すると、REIKA社長が今度は私まで気にかけて優しい言葉をかけてくれる。
「あっ、はい。いえ、こちらこそ。すいません、なんか私まで胸いっぱいになっちゃって・・・」
「ごめんなさいね。ずっと放っておいて、うちの家族のくだらないとこ見せちゃって」
「いえ。とんでもない。樹さんずっとご両親のこと気にかけてらしたので、私も他人事とは思えなくて・・・。でも嬉しいです。私もこの場にいれることが」
「心配かけたみたいで申し訳なかったわね。うちは少し他と違う家庭環境だから、透子さんにもこれから苦労かけちゃうかもしれないけれど」
「素敵です。とても。お互いがお互いを想い合って幸せを願い合っている姿が本当に。私も両親との幸せだった時間ちょっと思い出しちゃいました」
私がこの場にいてよかったのかなと思うくらい、家族の絆と温かさを一緒に感じられて。
だから、自然に懐かしくなった。
両親と一緒に笑い合っていた時間が。
いつも温かかった家族との時間が。
「透子さんもご両親との素敵な想い出おありになるんでしょ?」
「はい。年の離れた弟と両親と一緒に過ごせた時間は今でもホントに幸せな想い出です」
「そう。じゃあ今度そちらのご両親にもぜひお会いさせて頂かないとね」
「あっ・・・ハイ・・」
REIKA社長に尋ねられて、なぜかそこですぐに言えなかった。
今は父親が側にいないこと。
それは、昔を思い出して、父が恋しくなって側にいない寂しい現実を今はなんとなく認めたくなかったからなのか、それとも片親ということを言ってこの雰囲気を壊したくなかったからなのか、なぜだかわからないけれど。
何も後ろめたさも後悔もないはずないのに。
自分も同じように家族との幸せな時間を想い出していたはずなのに。
だけど、今は。
ようやく樹が家族の絆を取り戻せたのが嬉しくて、ただその幸せな気持ちのままでいたくて。
自分はもう今の家族のカタチを受け入れて、寂しさとかも随分少なくなったから。
両親二人一緒にいた時も、今それぞれがお互いの場所で頑張っているのも、どちらも私は力をもらえて満たされているから。
今、父親が側にいなくても、私は充分すぎるほどの愛情をもらえてたから。
そして今は、樹がいる。
樹の家族がいる。
今はただその幸せを一緒に感じていたいから。