「この辺に住んでるんですか」
「ご家族は?」
「いくつなんですか?」
僕がどんな質問をしても彼は答えようとしなかった。
「花が枯れたって、、どんな花ですか」
今まで顔を下に向けていた彼が僕を見た。
「すっごく綺麗な花だったんだ。濁りのない綺麗な赤色。、、もう見れないなんて残念だよ」
早口でそう言う彼の瞳はキラキラ輝いていて、まるで子供が褒められた時のようだった。
「写真はいっぱい撮ったんだけど、やっぱり実物が1番綺麗だから、」
「ドライフラワーにすればいいじゃないですか」
「、、おれの家、そんなに広くないから、笑」
「え、?」
いくら形に残るからと言って花なんだから場所は取らないだろう。壁にスペースがないという事なのか、、
「おれもう帰らなきゃ。、、名前は?」
「あ、チョン・ジョングクです」
「おれはテヒョン。じゃあね、ジョングク」
数日経っても、彼は僕の頭から離れなかった。あの綺麗な横顔、真っ白な肌が目に焼き付いている。
どこに住んでいるのかも分からない、1度しか会ったことの無い彼に惹かれていた。
「頭おかしくなったのかな、、」
先輩がいなくなって、独りになって、よく知らない人に恋をして、一体何をしているのだろう。
ソファーに横になったその時、インターホンが鳴った。立ち上がって玄関の扉を開ける。
「こんにちは」
そこに立っていたのはあの彼だった。
「テヒョン、さん、?どうして、」
「あ、別にストーカーした訳じゃないよ。歩いてたら偶然ジョングクがこの家入るの見えて」
「そうなんですね、、とりあえず入ってください。暑いでしょう」
「お邪魔します」
真夏だというのにこの前と同様、長袖を着ている。汗もかいていない。どうなってるんだ。
「どうぞ」
彼にオレンジジュースを差し出す。
「ありがとーちょうどオレンジジュース飲みたかったんだよね!」
「それは良かった、笑」
目にかかる金色の髪をいじりながら彼は僕を見た。色素の薄い茶色の瞳に吸い込まれそうで慌てて目を逸らした。
「家はここからそんなに遠くない所、家族はいない、21歳」
「え?」
「この前ジョングクがした質問の答えだよ。知りたかったんじゃないの?」
「あ、はい。知りたかったですけど、、」
変わった人だな、、。ていうか2つも年上だったんだ。
「家族がいないって、」
「死んだんだよね。中学生の時」
「あ、、そうなんですか、ごめんなさい」
「何で謝るの笑 人が死ぬのは当たり前のことでしょ?」
「、、悲しくないんですか?」
「んー、分かんない。ジョングクの家族は?」
「、、離婚して、いま連絡取れるのは母だけです。兄弟はいません。それと、」
涙が零れ落ちそうになるのを必死に堪えた。
「それと?」
「いえ、何でもないです。あ、呼び方、ヒョンの方がいいですよね」
「呼ばれ慣れないなぁ」
「テヒョンイヒョン」
「照れちゃうよ笑」
口を四角にして笑う彼を見つめる。なんて美しいのだろう。
「じゃあおれも、ジョングガって呼ぼうかな」
「ほんとですか?嬉しいです」
空になったコップを下げようと手を伸ばす。彼の手に触れた。冷たい。氷のようだ。
「ヒョン、寒いですか?」
「ううん。手が冷たかったから?これ、いつもだから大丈夫だよ。季節関係なくいつも冷たいんだ。みんな驚くよ笑」
「そう、ですか、、」
手が一年中冷たい人なんて沢山いるだろう。そんなに気にすることでもないはずだ。
「ジョングガ、最近この辺りで人が亡くなったみたいだけど、大丈夫?」
「っ、、!」
先輩のことだ。
「ごめん、もしかして知り合いだった、?」
「、、大学の、先輩だったんです。人見知りの僕とすごく仲良くしてくれて、、。未だに死んでしまったなんて信じられません」
「そっか、、ごめんね。こんな話させちゃって」
「いえ、」
お気の毒に、と呟く彼を見る。悲しげな顔をしているが、その瞳は輝いていた。
「(光の加減だよな、、)」
「じゃあ、おれそろそろ帰るね。オレンジジュースありがと」
「あ、はい。良ければまた来てくださいね」
「うん!じゃあまたね」
……To be continued
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