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5月14日 20:05 武蔵野線新座貨物ターミナル駅南側発着線。
EF210型電気機関車に連結されたチキ7200型貨車に、陸上自衛隊61式戦車7両が各台車にワイヤーで繋げられた形で出発の合図を待っていた。
Jーnet鉄道貨物が所有するターミナル駅は、武蔵野線には他にも2駅が存在していた。
神奈川の梶が谷と埼玉の越谷にあるターミナルの職員らは、既に国からの退避指示に従って現場を離れていた。
東京ジェノサイドは、もはや東京都だけの問題ではなく、近隣の自治体にも多大な影響を与えていた。
不測の事態と想定外の事象に備えての措置ではあるが、東京区以外の住民の中には指示に従わない者も数多くいた。
作業員の小松も、避難しない住民のひとりで、隣の部下である山田も同じ考えだった。
夕刻からけたたましく鳴り響いていた国民保護サイレンは今では聞こえなくなっていて、その代わりに時折バチバチと鳴る高架線の微かな閃光音が不気味なリズムを刻んでいる。
上空に揺れる死のオーロラが瞬くと同時に、高架線も火花を散らした。
不安に駆られた山田は泣きそうな顔で呟いた。
「小松さんは避難しないんですか? 俺、やっぱ逃げよっかな」
小松は滑舌の悪い治療中の義歯を見せながら笑って答えた。
「なあに逃げんの? 逃げちゃえ逃げちゃえ」
「小松さんは逃げないんですか? てか避難は?」
「俺はそんなんじゃないから。いつ死んでも良い様に生きて来たつもりだし」
「小松さんかっちょいいっス」
「そうでもないよ。ふふふ」
その瞬間、上空で大きな音がした。
死のオーロラは、膨張と収縮を繰り返している。
その度に周囲の空はアメジスト色に変化した。
小松と山田は思わず抱き合いながら尻もちをついた。
砂利を踏み締める足音が近付いてくる。
ふたりが顔を上げると、制服姿の5人自衛官がそこに立っていた。
隊長らしき男がやさしい笑顔で言った。
「あとは我々に任せて下さい。おふたりとも、運転士を連れて直ちに避難してください」
小松と山田は頷いた。
断る理由はなかった。