テラーノベル
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22
2人が見上げた先で、屋上が派手に破壊されていた。
派手にやってるねーと呑気に言う鳴海の横を通った百鬼は、代わりに上に向かって声をかけた。
「紫苑、まだやってたか。手伝うか?」
「いやいい。…おっ、先輩も戻って来てんのね」
「大丈夫そ?」
「大丈夫よ。もうちょい待ってて」
鳴海の方へ笑みを向けた朽森は、再び銀と相対した。
百鬼が無事だったことで仲間が死んだと思った銀は、自身も捨て身の行動へと出る。
竜巻のように巻き上げたネジに紛れて朽森の背後に回ると、ある物を手に彼を拘束した。
「悪いが引き分けだ!」
「(自爆のスイッチ…!?)悪趣味な幕引きは嫌いなんだよ」
そう言いながら力を解放する朽森だったが、何故か血が形を成さず上手くいかなかった。
この現象を起こせるのは1人しかいない。
直後に体育館の方から聞こえてきた声は、百鬼が相手にしていた桃坂国領のものであった。
「銀!やれ!」
「生きてたのか…!?」
「随分しぶといね。ミキサーにかけられたのに生きてるよ。てかあの子生きてたら力使えないね」
「(国領…先に逝くぞ…)」
そこからは時間の流れがスローモーションのようだった。
血を操る国領の腕を百鬼が回転刃を飛ばして落とし、それによって血を使えるようになった朽森が能力を発動する。
と同時に銀が持っていたスイッチを躊躇なく押し……辺りに轟音が響き渡った。
「銀…」
「紫苑!お前死んでたら殺すぞぉ!」
「俺、屋上行ってくる」
「頼んます」
百鬼に送り出され、鳴海は最短ルートで上へと向かった。
一方の屋上にはバラバラになった桃鐘銀の体と、チュースティックをくわえた1匹の黒猫がいた。
黒猫はみるみるうちに形を変え、数秒で人間の姿になる。
「腕すり抜けて回避させてもらったよ。いてて…!極限まで圧縮するから体がいてぇ…
チッ…大我!そいつも爆弾持ってるはずだ!剥ぎ取って拘束しろ! ……馬鹿野郎が…真っ直ぐ過ぎてすぐ誰かのために死に急ぎやがる…だからガキは嫌いなんだよ… 死んでどうする…生きてさえすりゃいくらでも選択肢があるってことを…教えてやりたかったよ… そんなことも教えられない俺はつくづく教師に向かねぇんだな…」
自嘲気味にそう呟く朽森の表情は、普段からは想像もできないほど悲しさと苛立ちで溢れていた。
屋上のへりに座り俯いていた彼の元に鳴海が到着したのは、それから5分ほど経ってから。
すぐにこちらへ駆け寄り、自分の足の間にしゃがむ先輩を前にして、朽森の顔は少し穏やかになる。
「…大丈夫?」
飛び散っている銀の体に視線を向けた後、鳴海は朽森の顔の傷を触りながら静かに声をかける。
その声と表情から、単純に体の傷だけを心配して言っているわけではないとすぐに分かった。
最初に下から同じ言葉をかけられた時は笑顔で “大丈夫” と答えた朽森。しかし今回はそうはいかなかった。
鳴海の胸に顔を埋めると、彼をギュっと抱き締める。
「……大丈夫じゃねぇかも」
「だろうね……俺こういう時なんて声をかけたらいいか、わかんないからごめんね」
「何で謝んの?胸貸してくれてるだけで十分」
「貸すぐらいなら俺にでもできるからね。たくさん泣きなよ」
「泣いてない」
鳴海は自分がしてもらって心が落ち着いたことをしてみようと思い、朽森の頭を優しく撫でた。
「! …先輩、今のもっかいして?」
「へ?」
「分かったフリして綺麗事並べられるより、鳴海が頭撫でてくれる方が元気でる」
「紫苑…」
「……俺が羅刹の教師やってたって話、したことあったっけ?」
「聞いたことはあるよ。向いてなかったんでしょ?」
「うん…大事なこと何も教えてやれねぇうちに死なせちまった。柄じゃなかったんだろうな」
「…そんなことないんじゃない?」
「…」
「私は…紫苑の生徒じゃないし、当時のことは何も知らないけど… ここに立ち寄ったのだって、逃げ遅れた子供がいるかもしれないからって言ってたじゃん? そんな風に考えられる人が教師に向いてないとか…柄じゃないとか…そんなことないと思うよ?朽森紫苑は、ちゃんと先生だったと思うけど」
「……先輩さ、俺のこと落とそうとしてる?」
「こんな時に何言ってるの」
「だって…生まれて初めてぐらい心臓ドキドキしてんだもん」
「!」
「もう沼から抜け出せそうにねぇわ」
「え?」
「先輩、旦那と別れて俺と結婚しよ?」
「は?」
「そっか。じゃあさ、愛人とかどう?…鳴海のもんになりたい」
言いながら顔を上げた朽森は、元の調子を取り戻していた。
しかし目の前の鳴海へ向ける微笑みは、いつものチャラい雰囲気ではなく…
彼のある意味本気の笑みであった。
そんなものを向けられれば、当然鳴海の心臓は大騒ぎ…する訳もなく、卍固めを食らう羽目になった
と、その時。
「先輩!紫苑の方はどうですか!?」
「あ、だ、大丈夫。大きな怪我は無いよ」
「了解!こっちも拘束し終わったからそろそろ出発します!…紫苑、聞いてっか!?」
「聞いてる~今行きま~す。…あ、そうだ先輩」
「うん?」
「俺とのやり取りは旦那さんに…?」
「ま、いいもの見せてもらったから秘密にしとくかな」
「あざーす。でも考えててね?……俺マジだからな?」
最後の言葉を耳元で囁くと、呆れる鳴海を置いて朽森は屋上を後にするのだった。
2人の護衛を伴い、鳴海はようやく救護所へ到着する。
後輩たちにお礼を伝え別れると、早速彼を求めてあちこちから声がかかった。
また同じようにホワイトボードで状況を整理しながら、重症度別に対応していく鳴海。
最小限の休憩を入れながら動き続けること1時間…
治療が進むのに合わせて、場は徐々に落ち着いていく。
だがそこへ良くない知らせが飛び込んで来た。
「おい!ここに桃が何人か向かってるぞ!」
「クソッ…どこで嗅ぎつけてくんだよ!」
「重症な方や小さい子優先で移動して!余裕ある人は周りの方に手貸して!八咫烏は護衛!」
鳴海の言葉にそれぞれが返事をし、助け合いながら移動を開始した。
自分は最終確認をしてから行くと伝え、鳴海は他の鬼たちを先に避難させていく。
的確な指示と連携の取れた動きで、15分もしないうちに移動はほぼ完了しつつあった。
すっかり静かになった救護所を、逃げ遅れた人や動けない人がいないか確認していたその時…
入口をぶち破るような大きな音が響き渡る。
咄嗟に物影に身を潜めた鳴海は、足音から人数を割り出そうとする。
正確なところは分からないが、3人以上いることは確実だった。
しかもその全員が、あの少し様子のおかしい桃太郎なのだ。
「(血を解放してもいいけど相手の自爆射程範囲内×3にまだ入る距離にいそうだからどうしよっかなぁ…)」
一度間近で見ているからこそ、相手の強さは十分知っている。
このままここでやり過ごそうと小さくなっていた鳴海だったが、彼らの口から驚くべき内容が発せられた。
「本当にここなのか?」
「あぁ。ここで救護活動をしている斑鳩鳴海を目撃したという情報が入ってる」
「ということはどこかに隠れていると…」
「(俺のこと捜してる?…替え玉には釣られなかったか…)」
となるとそう簡単には出て行かないだろう。
扉という扉を全て開けるか、片っ端から破壊していくか…何にしても強硬手段をとることは容易に想像できた。
見つかった後のことを考えると、鳴海は自分の体が震えてくるのを感じる。
この状況での最善策は応戦するか助けを呼ぶことだ。だが戦闘部隊の端くれとして、それをするには抵抗があった。
こうしてる間にも、桃の足音は少しずつ彼の元へ近づいていた。
「(どうしよう…戦うか、助けを呼ぶか…決めないと…)」
恐怖と不安で押しつぶされそうになる鳴海の頭に、ある人物から言ってもらった言葉が浮かぶ。
“何かあった時、誰かに頼るのを躊躇わないこと”
彼はそう言って穏やかな表情を向けてくれていた。
1つ大きく息を吐いた鳴海は、震える手で耳の通信装置を操作する。
相手はすぐに応答し、安心する声で彼の名前を呼んだ。
『鳴海?どうした?』
「無人くん……俺、囲まれてる」
コメント
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読み終わりました!第92話、めちゃくちゃ熱かったです…! まず、銀との決着の仕方、まさか自爆スイッチとは思わなかったけど、その後の朽森先生の“生きてさえすりゃいくらでも選択肢がある”っていう台詞が胸に刺さりました。教師としての後悔と本音が滲んでて、普段のチャラい雰囲気とのギャップにやられましたね。 それから鳴海さんの「大丈夫?」が二度出てくる構成、好きです。一回目は軽く流せたのに二回目で弱音を吐ける関係性、ちゃんと積み重ねてきたからこそだなと。最後の「無人くん……囲まれてる」で終わる余韻も、続きが気になりすぎます! 設定の伏線やキャラの心情描写、どれも丁寧で引き込まれました。次話も楽しみにしてます!