テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
設楽理沙
1,530
「いたた……頭が痛いわ……」私は痛む頭を押さえながら身を起こす。
なんだか周りが騒がしい……
(……記憶がない……)
私は愕然とした気分で必死に昨夜の記憶を思い出そうと手で顔を覆った。
「お嬢様!よかった……!」
「は?」
私は握られた手を思わず振り払いそうになり顔を上げる。誰……?
思わず目を見開いて辺りを見渡すと……天蓋付きベッドの周りにたくさんの人が自分を囲って立っていた。
「え?」
「あ、お嬢様。急に起き上がっては……!」
女性……50代位の女性が自分を支える。
私は思わず「あの……どちら様ですか?すみません、私多分間違えてここにいるかもしれません」と言った。
——————————————
「どういうこと……?」
「ジョセフィーヌ様、本当に本当に思い出せませんか?私ミラでございますよ?ずっとお傍に……うっ……すみません」
鏡の向こう側ではジョセフィーヌという女性がぽかんと口を開けている。その後ろでミラという女性が口元を押さえ、涙を流していた。
「ジョセフィーヌ?お母様はわかる?」
ジョセフィーヌと良く似た女性がジョセフィーヌの肩に優しく触れると顔を覗き込む。女性の目は不安感でなのかユラユラ揺れていた。
「お母様……?」
ジョセフィーヌの言葉に女性は顔を覆って泣き出し、同じ年頃の男性がその肩を優しく抱いているのを見て……
(どうやらこの人たちが私の両親……?)とジョセフィーヌは察した。
「ごめんなさい、もう少し休んでみます……」
ジョセフィーヌは絶望感の中、額に手を当てて静かにそう告げる。父と母が頷き合って部屋を出て行くとミラがジョセフィーヌの手を優しく握り「お嬢様、いつでも呼んでくださいましね?ミラは今日は一日中起きておりますので」と目を潤ませた。
「……ふふ、気持ちは嬉しいけれど睡眠はしっかりとってくださいな」
————————————
「でも困ったわ……何にも思い出せない」
ジョセフィーヌはベッドの上で一人……頭を抱えてしまった。
「……もう一度寝てみる?」
独り言を呟きながら枕に頭を乗せると、なんだか違和感がありその下に手を入れる。すると指の先に何やら……本のようなものが触れたのでそれを取り出し、ジョセフィーヌは思わず声を洩らす。
「……え?」
表紙には可愛らしい茶色の髪の女性と、高貴な身分であろう男性が描かれていて……更にその背後には悔しそうに顔を歪める女性が描かれていた。
その背後に描かれた女性が————なんともジョセフィーヌにソックリなのだ。
「……何これ、気持ち悪いわ」
ジョセフィーヌは眉を顰めながら本を放ろうとしたけれど……少し考えてページを開く。
————————————
「いたた……」
「大丈夫か?」
痛みに頭を抱えていると手が差し伸べられた。
「へ?」
見上げるとそこには……端正な顔立ちの男性が立っていて、私は思わず目を見開く。
「手を」
男性は私の手を取るとじっとそれを見つめた。
私が戸惑っていると彼は安堵のため息をついた。
「よかった……跡は残らなさそうだ」
「ちょ……ちょっと待って?あの……まさかここって……」
「ん?土地のことか?アレンシア国だが……?外国から来たのか?」
彼の言葉に私は口元を押さえた。
なぜなら……この男性の見た目、服装そしてアレンシア国。
(『アレンシア国に花束を』のギルフォード殿下にソックリだわ!)
「あの……失礼ですがあなたもしかして……」
「ふ、まさか俺を知らんのか?アレンシア国第二王子の俺を?」
(やっ……やっぱりー!)
私は慌てて傍にある水たまりを覗き込む。
そこには……アレンシア国に花束をの主人公、アイリスがユラユラと水面に揺れていた。
「キャー!わ、私……小説の中に入り込んじゃった!?」
そう……これはまるで、夢中で読んだ大好きな小説アレンシア国に花束をの世界そのものだ。私は主人公のアイリス。
「……ふ、面白え女。大丈夫か?送ってやる」
ギルフォードはそう言って笑うとアイリスの手を握った。
————————————————————
(…………)
あれからジョセフィーヌは両親に呼び出され、自分の生い立ちを説明されており……
内心倒れそうになっていた。
「いい?ジョセちゃん。あなたの名前はジョセフィーヌ・フィラディス、婚約者は第二王子のギルフォード・アルベリヒ様」母は目をウルウルさせながらジョセフィーヌの手を握る。その横で父が深刻そうに眉を顰めた。
(待って……)
「来年結婚式をすることになっているんだぞ?ほら、殿下の写真を拝見しろジョセフィーヌ、私のかわいい子猫ちゃん」父は厳格そうな様子でそう言うと、一枚の写真をジョセフィーヌの前に出す。
「…………!」
それを見たジョセフィーヌは後ろにひっくり返りそうになってしまった————なぜならそこにはあの小説の表紙に描かれた男性とそっくりな男性が写っていたからだ。
(こ……ここは小説の世界なの?)
ジョセフィーヌは軍服仕様の正装姿でこちらを見つめる冷たい視線に射抜かれながら愕然とした。
(…………じゃあ私死んじゃうじゃない!)
先ほどの小説……悪役であり第二王子の婚約者であるジョセフィーヌは最終的に第二王子の手によって処刑されるのだ。そしてアイリスと第二王子は結ばれめでたしめでたし。
(…………いや!人が死んでんねんで!?)
ジョセフィーヌは顔を上げる。
父と母は心配そうな眼差しをジョセフィーヌに向けた。
「お父様お母様、私全然思い出せませんが……絶対に絶対に最後まで生き抜きます!」
ジョセフィーヌが泣きそうな気分でそう言うと両親はホッとしたような顔をしている。
(第二王子なんかアイリス様に差し上げるわ……!処刑なんて絶対に嫌でございますぅ!)
——————————————
「殿下……本日はわざわざこちらに足をお運びいただき、この歓びはどのように表現したらよいことか」
ジョセフィーヌは突然訪問したギルフォードに心にもないことを述べながら膝を折る。初対面だ。
「ふん、別によい。近くを通ったから立ち寄っただけだ。わざわざ来たわけではない」
ギルフォードはつまらなさそうにそう言うと腕を組み、椅子にギシリと寄りかかった。その様子は本気で面倒くさそうに見えてジョセフィーヌは(じゃあ立ち寄らなければいいのに)と思う。
王族に立ち寄られてはおもてなしをしなければならないではないか。まだ痛む頭を抱えてジョセフィーヌはイライラが顔に出ないように気を付けて口角を上げた。
「左様でございましたか。本日はどのようなご用で外出を?」ジョセフィーヌは話を広げようと彼に尋ねる。
「…………お前には関係なかろう」
「おほほ、左様でございますね。失礼いたしました」
————————殺意……ジョセフィーヌの中に殺意が芽生えた瞬間であったが、相手は王族。不敬を働いては今すぐ結末を迎えてしまう可能性がある。
「体調はどうだ?」
「はい、いつもと変わりございません」
ジョセフィーヌはニッコリ笑いながら嘘をつく。
わざわざ本当のことをギルフォードに伝える必要はないと判断したのだ。どうせこの男はアイリスを好きになるのだから。
「倒れたと聞いたが?」
「……恐らく貧血だったかと。今はもう大丈夫でございます」ジョセフィーヌはギクリと胸が跳ねる気分になった。事前に誰かが話していたのか。
「……ならそう報告しろ」
(そうよ!この男に伝えたことを報告しておいてよ!誰!?報告を怠ったのは!もー!)
ギルフォードは腕を組み俯くと面倒くさそうにため息をついた。
(小説通り……殿下はジョセフィーヌを好いていなさそうね)
ジョセフィーヌはギルフォードに謝罪をしつつ……小説の内容を思い出す。わがままで意地悪で欲張りで承認欲求のつよつよ女性ジョセフィーヌ。彼女は婚約者のギルフォードにとてつもなく嫌われていた。
しかし彼は第二王子。
公爵家の一人娘で跡継ぎのジョセフィーヌを手放すわけにはいかなかったのだ。
(でも——そこに愛する女性が出来て、真実の愛を選ぶのよね。殿下は……ご苦労さま。ハッピーエンドの後、二人はどうなったのかしら?お金と地位は大事だと思うけど?)
ジョセフィーヌと小説の中のジョセフィーヌ、違いは一つ。小説の中の彼女はギルフォードを愛していたけれど、今の自分にそのような感情はない。
「お向かい失礼しても?」
いつまでも着席の指示を出さないギルフォードにジョセフィーヌはにこやかに尋ねた。コイツ本当ゴミ糞虫だなと思いながら。
「……好きにしろ」
「ありがとうございます」
ジョセフィーヌはこめかみをピクピクさせながら着席した。(私を良く思ってないからか……扱いが非常に雑だわ)
ジョセフィーヌはなんだかムカムカしてくる。
今でこそ王族と公爵家、立場はこちらの方が下であるが……ジョセフィーヌの公爵家という地位に救われる予定なのも事実なのでは?
(それなのにこの扱い……なんだか素直にアイリス様とのご関係を祝福するのも癪に障るかもしれない気分になってまいりましたことよ?)
ジョセフィーヌは自分の考えに思わず笑い出しそうになった。やはり自分は小説に描かれているように性が悪いらしい。
「……何がおかしい」
「いいえ、殿下が訪問してくださったのが嬉しくて……少し浮足立ってしまいました♡」
「…………」
ギルフォードはそんなジョセフィーヌの言葉を聞いて一瞬目を見開くと眉を寄せて俯いた。
よほど不気味に感じたのか彼は腕を組むだけではなく、ガタガタと貧乏ゆすりをしている。
(かなりストレスになっていそうね……)
ジョセフィーヌは小説によるとかなり高飛車で性悪な……いわゆる悪役令嬢だったようだ。
なので小説ではいとも簡単にギルフォードに捨てられる。悪役だから、二人は気分よく正義の鉄槌を下しジョセフィーヌを捨てるのだ。
(そんな簡単に済ませない……尽くして尽くして……捨てにくくしてやるわ!)
ジョセフィーヌは内心ギラギラと闘志を燃やしつつ、それを表には出さないようにおっとりと微笑む。
「殿下、お茶のおかわりを注ぎます♡」
ジョセフィーヌはいそいそと立ち上がるとギルフォードの隣に寄り添うようにポットを持った。
「……いや、いい。もう帰る」
「そんなそんな……殿下?もう少しだけ……♡」
ジョセフィーヌは上目遣いで甘えるように身体をくねらせる。
「……ち、近寄るな!」ギルフォードはそんなジョセフィーヌに嫌悪感を抱いたのか、強めの口調でそう言った。
仮にも来年結婚式を挙げる婚約者に言うセリフだろうか?酷すぎるだろ!アホか!
「あ、すみません……」
ジョセフィーヌはしょんぼりしながら悲しそうな様子を見せて、内心大爆笑していた。
(おほほほほほほ!嫌がっているわ!大嫌いな私にこんなに傍に寄り添われて……気の毒な殿下!ふふふ……これからも続けます!)
コメント
1件
うわあ、第1話からすごく引き込まれた……! 悪役令嬢に転生しちゃったのに、原作知ってるから「私、処刑されるじゃん!」って即座に気づくところ、めっちゃ好きです。それで「尽くして捨てにくくしてやる」ってギラギラし始めるのが最高でした。ギルフォード殿下への表面上は優雅なのに内心「ゴミ糞虫」呼ばわりしてるところ、笑った。 アイリスに処刑される運命をどう変えるんだろう…続きすごく気になります!✨