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放課後の校庭は、夕日の赤に染まり、昨日より少し冷たい風が吹いていた。
翔はベンチに座り、手のひらで落ち葉を軽く揉む。
「今日も…紬は来るかな…?」
心の中で問いかける。
学校では互いに名字で呼び、仮面をかぶらなければならない。
人気者の翔、クールな紬。
外では近づけない二人だが、21:29の時間だけは心が繋がる。
紬がやってくる。白いシャツの袖をまくり、少し汗をかいた髪を耳にかけながら座る。
「遅くなっちゃった…ごめん」
「大丈夫。待ってる間、少し考え事してた」
翔の瞳には、外では見せられない真剣な光が宿る。
「ねぇ翔…」紬は少し照れた声で言った。「私…昨日からずっと思ってたんだけど」
翔は紬の手をそっと取る。二人だけの時間は、言葉にならない感情も包み込む。
「何を思ったんだ?」
紬は目を伏せる。「私、翔のことが…」
言葉に詰まる紬を、翔は優しく見つめる。
心の奥で感じる切なさと温もり。外では決して言えない感情が、ここでは正直に流れる。
翔は軽く笑い、少し照れくさそうに言った。「21:29…この時間だけは、誰にも邪魔されない、俺たちの時間だな」
紬も微笑む。
ふと、歌詞の一節が心に浮かぶ――
“This is for you, you’re my dream, always be my side”
_これはあなたのために。あなたは私の夢。いつも私の側にいて。_
翔といるときの自分は、まさにこの歌詞の通りだ。誰にも邪魔されない、二人だけの時間。
「翔…私、怖くて言えなかった。でも、ここでは本当の私でいられる」
「俺もだ。外では人気者の顔を作らなきゃいけない。でも、紬といるときだけは素の自分でいられる」
二人の指が絡む。小さな勇気――それは、互いに本音を見せることだった。
紬は静かに息をつく。「翔、私…少しだけ勇気を出してみる」
翔も頷き、「俺もだよ」と返す。
夕陽が沈み、空は藍色に変わる。街灯が一つ、また一つ灯り始める。
21:29――二人だけの秘密の時間。学校では不可能な距離の近さ、互いの呼吸、触れた手の温もり。
紬は翔の手をぎゅっと握り返す。
「翔、私…本当はもっとそばにいたい」
「俺もだ。21:29の時間だけじゃなく、いつか学校でも、ここにいるみたいに自然に近づけたらいいな」
夜風が髪を揺らし、葉のざわめきが二人の心に溶け込む。
二人の21:29は、小さな勇気を積み重ね、少しずつ学校の世界での距離をも縮める準備をしているようだった。
翔は心の中で歌詞を反芻する。
“I just wanna be with you, no more lies, only truth”
_ただ君と一緒に居たい。もう嘘はなし、真実だけ。_
二人だけの時間にしか出せない真実。学校では嘘を重ねる毎日でも、ここでは本音でいられる。
この瞬間が、二人にとっての希望だった。
そして二人は、そっと手を握ったまま夜空を見上げる。
星が一つ、また一つと瞬き、21:29の時間が二人の心を包み込む。
「翔、私…ここでなら、怖くない」
「俺もだ。ここでは、何もかも本当だ」
校庭では仮面をかぶる二人も、この時間だけは確かに互いの心に触れていた。
二人の21:29――切なくも温かい、二人だけの小さな勇気の物語が今日も始まった。