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「オレ、今年の生贄になった。」

唐突にそう言われた。

この村では、村で一番大きな桜の木を咲かせるために毎年、1人が生贄として捧げられる。

「えっ……?」

「オレのお陰できっといままでより綺麗な桜が咲くぞ!感謝しろ!」

彼はいつも通りの笑顔を浮かべる。その笑顔がもう少ししたら見れなくなるなんて、信じられない。

「…ゃ…ょ。」

「む?」

「だから、嫌だって言ってるの!」

僕は初めて彼に対して声を荒げた。

「なんでっ…なんで司くんなの?」

この怒りは誰にぶつければいいのだろうか?どうしようもない感情が僕の中で暴れ出す。

司くんは、困ったような悲しい声で「類は優しいんだな。」と微笑んだ。そして、「咲希に最期の挨拶をしてくる!」と、背中を向けて走り去っていった。

「…………ずっと一緒だと言ってくれたのは、他でもない司くんじゃないか。」


__________________



僕には、所謂「友だち」というものがいなかった。いたけど……全員何処かにいった。全部僕のせいだ。一番長く続いたのは、隣に住んでいた草薙寧々という女の子。だけど、僕はまた失敗した。僕が無理やり歌わせて、寧々が失敗して、寧々は歌えなくなった。僕が寧々から大好きな歌を奪ったのだ。それから友人を作る気はなくなった。

その日も僕は、一人でいつもの道を通っていた。この道を抜けると、この村で一番大きな桜の木が見えてくるんだ。春になると桜があまりにも綺麗に咲き誇るので、他の村からも花見客が来るほどだ。でも、今は冬。ここには誰もいない。

「なんか、悲しいね。」

僕は桜の幹にもたれて語りかけた。

「何が悲しいんだ?」

「うわっ」

そこには黄色い髪の少年が立っていた。誰もいないと思っていたが、誰かいたようだ。

「おっと、自己紹介がまだだったな!オレは天翔けるペガサスとかいて天馬!世界を司るとかいて司!その名も、天馬司だ!君は?」

黄色い髪の少年……天馬くんがいきなりそんな名乗り口上をしてくるものだから、僕は思わずふふ、と笑ってしまった。

「僕は、神代類だよ。」

僕も挨拶をする。自分の名前を名乗ったのはいつぶりだろうか。

「類、か!いい名前だな!」

天馬くんは満面の笑みで僕に微笑みかける。

「天馬くんも……天馬くんらしくていいね。」

「そうだろうそうだろう!」

天馬くんは誇らしそうに笑う。

「ちなみにお前は何歳なんだ?」

「ん?僕?………16歳だけど。」

僕は少しだけ戸惑いながら答える。……グイグイ来すぎじゃない?

「おお、16歳か!同い年だな!」

どうやら天馬くんも16歳らしい。

「……ちょっといいか?」

「ん?」

天馬くんは僕の方をまっすぐ見つめ、手を取った。その行動に少しビクッとする。

「オレと、友だちにならないか?」

「ふふ、僕と友だちになってくれるのかい?」

きっと冗談だ。これまでに何度もされた悪戯、もう飽きた。きっと答えはNOだ。

……そう思ったのに。

「もちろんだ!」

「えっ」

思わず声が裏返る。なんて?僕の幻聴?そんなに僕は“友人”に飢えていた?

「きっとお前と友だちになれば毎日が楽しくなる!」

おや、きっとこれは幻聴ではないらしい……この天馬くんの目の輝きは嘘だとは思えない。

「もちろんさ。」

まだ少し、怖かったけど……天馬くんなら良いと思えたんだ。

「よろしくね、天馬くん。」

僕はなれない笑顔を作る。

すると、天馬くんが「ちょっといいか?」と言いたげに手を挙げた。

「ん?どうしたんだい?」

「その……“天馬くん”という呼び方はなんだかむず痒い。お前には下の名前で呼んでほしい。」

「あ………」

なんだろう、温かい。今まで感じたことのないふわふわとした甘い感情………

「ふふ、分かったよ。司くん。それなら、司くんにも、類って呼んでほしいな。」

「ああ!勿論だ!類!」

その、「類」と呼ぶ声は、懐かしい寧々との思い出を蘇らせた。初めて僕を認めてくれた寧々。はたして、司くんともそんな関係になれるのだろうか。



「凄いな!とっても美しい!」

今日は司くんとお花見に来ている。今年も生贄を捧げられた桜は美しく咲き誇っている。

「………どれだけ今が美しくても、いつか散ってしまうのは寂しいね。」

そうだ、生贄を捧げても一生は続かない。いずれ散り果てる。それはまるで小さな頃の僕を表していた。

……どれだけ“自分”を投げ捨てて、人に合わせていても、いずれ離れてゆく。

「……類、顔色悪いぞ……?」

司くんが心配そうに顔を覗き込んだ。その距離の近さに一瞬ドキッとする。

「あぁ、ごめんね。少し、嫌なことを思い出してしまってね。」

「………そうか。」

……司くんもそうなのだろうか。いずれ、僕から離れてゆくのだろうか?次はなんだろう。

喧嘩かな?僕がきっと司くんを苦しめたんだ。そうだ、違いない。じきにきっと司くんは僕を罵って逃げる。きっと、いつか………


「類!」

司くんの大きな声で、我に返る。

「ん……どうしたんだい?」

「なんで、泣いてるんだ?」

「えっ?」

司くんに言われて、頬に触れると確かに湿っていた。僕は泣いていたのか、とやっと自覚する。

「どうした?どこか痛いか?」

おろおろと司くんがお腹をさすってくる。その行為にさえ心臓が早くなってしまう僕は、確かにどこかおかしいのかもしれない。

「ううん、ちょっとね……司くんが、僕から離れてゆく想像をしてしまって………」

情けないが、正直に伝える。僕はなんて寂しがりやなのだろうか。司くんは一瞬目を見開いたあと、静かな微笑みを漏らした。

「類」

「ん?」

「オレは、類からは離れんぞ。ずーっと一緒だ!」

「……約束してくれる?」

「ああ!もちろんだ!」

そのまっすぐな瞳と声に僕はどれだけ救われたのだろう。司くんは、僕から離れていかない、そう誓ってくれたのだ。……………え、今、ずっと一緒って言った?

チラリと司くんの方を向くと、自分で言ったことを思い出してしまったのか、顔が真っ赤になっていた。つられて僕も照れてしまう。

「司くん、顔真っ赤。」

「そういう類だって。」

笑いがこらえきれなくなって、僕たちは大笑いをした。周りの人に怪訝な目で見られたけど、楽しかったからよしとしよう。


__________________


「最後の晩餐は類と食べたい。」

まぁ、そんな事言われて冷静でいられる人は多分いない。大切な人から“最後の晩餐”なんて単語、冗談でも聞きたくもない。でもこれは、冗談でもなんでもないんだよなぁ………

「もちろんさ、何を食べたい?」

僕はできるだけ笑顔で問いかけた。

「……類の作った生姜焼きが食べたいな。」

………そんな事言われたら、野菜を買っていくしかないじゃないか。



「美味い、美味い!」

司くんは幸せそうに僕の作った生姜焼きをぱくぱくと食べ進めていく。

「それはよかったよ」

僕も生姜焼きを口に含む。……野菜が入っていると言えど、美味しくないな、しょっぱい。

「最期に類の料理を食えてよかったぞ!ありがとう!」

あっという間に全てを平らげ、司くんは満面の笑みで感謝を伝えてくれた。……明日にはこの鈴を転がしたような笑い声は聞こえないのか……

「……類。」

「ん?どうしたんだい?」

まさか、顔に出てたのだろうか。あまりにも恥ずかしい。それとも、夜逃げの提案?見つかったら僕も殺されちゃうけど、司くんと一緒にいれるならそれでいい。それくらい、司くんは、大切な人なのだ。

「……オレは、類のことが…………」

え?もしかしてこれって………………

「……いいや、類。」

「…………?」

「親友になってくれてありがとう。」

嗚呼、なんて儚い声なんだろう。なんて美しいんだろう。……僕はなんて司くんのことが好きなのだろう。この数秒で自覚してしまった。明日司くんは消えるというのに。あの心臓の鼓動も、甘い感情も、さっきの淡い期待も、全てこの気持ちが原因だったわけか。

「うん、僕も。……ありがとう。」

すると、司くんは「ははっ」と笑った。

「……類、最後にオレの名前呼んでくれるか?」

悲しそうな表情、いくらだって君の名を呼ぶよ。

「司くん」

「もう一回」

「司くん、司くん司くん」

「もっと……」

「司くん司くん司くん司くん司くん司くん…………」

何度君の名を呼んだだろう。これだけで僕の心はあり得ないほど満たされていた。でも、司くんは何やら不服そうで………

「……呼び捨てで呼んでくれないか?」

こんなことを言い出してきた。僕が呼び捨てしたことあるのは、寧々ともう一人の後輩くらいしかいなかった。流石に少し恥ずかしいな。

「わかった………」

「つかさ。」

すると司くんは幸せそうに笑った。自分の鼓動が速くなるのがわかる。これは、呼び捨てしたことによるものか、それとも、彼の朗らかな笑顔よるものか。

「………ありがとう、類。」

「うん、僕もありがとう。」

「なんで類がお礼を言うんだ?」

「なんとなく、かな。」

「なんだそれ」

僕らはあの日のように大笑いした。でも、何処か悲しい雰囲気が漂っていた。

こういうときは、どうすればいいんだろう?こんな別れ方、したことがない。いつもなら、一方的に相手が離れていくから……別れに立ち会ったことなんて…………

「類」

「ん?」

「泣くな。」

「あ……」

また僕は、泣いてしまっていたのか。おかしく思ってしまい思わず笑ってしまう。

「僕は……司くんのことになると泣いてしまうようだね。」

「そうだな。……じゃあ、さようなら」

「あ………うん……」

司くんは背中を向けて歩きだした。もう、この広い背中も見ることができない。そう思うととてもつらくて……

「うわっ、類?」

僕は背中に飛び込んだ。

「いやっ……司くんっ……置いていかないでっ……一緒に逃げよう?」

僕の悲痛な問いかけに、司くんは見たことないほど顔を歪めていた。

「あ……ごめんっ……なんでもないよ。」

僕は急いで手を離す。

「……司くん?」

司くんがあまりにもなにも言わないので、心配になって声を掛ける。すると、

「うわっ」

僕は思いっきり抱きしめられた。これまでで一番近い距離。また心臓の鼓動が速くなる。顔はきっと真っ赤だ。当の司くんも、顔が真っ赤になっていた。そして……

「司くん、泣いてる?」

目からは大量の涙が溢れたしていた。

「ごめんなぁ……ずっと一緒にいてやれなくて……ごめんなぁ……」

司くんはこれでもかというほど謝罪を繰り返す。覚えていてくれたんだ……

「ううん……きっと、来世ではずっと一緒にいられるよ。」

“来世”なんて、きっとないけれど、今だけは信じさせてくれませんか?

「ああ、そうだな、きっと……オレたちはいつかまた会える。」

そうだきっといつかあえる。だってこのセカイはつながっているのだから。想いがあれば、なんだってできるのだ。

「……じゃあね、司くん。」

「ああ、また会おう。」

司くんは走り去っていく、涙が見えないように。

隠さなくていいんだよ、だって………

「うわああああああああ!!」

僕だって大泣きしているんだから。


_________________


……今日は儀式の日か。

最後に会いたかった。司くんにも、「最後に会いたい」と言われたが、きっと立ち会ってしまえば僕は立ち直れなくなる。だから……

「ん?これは……?」

見知らぬ封筒。そこには、“最愛なる類へ”とかかれていた。

「つかさ……くん?」

僕は中身を開く。そこには司くんらしい字で紙にびっしりと書き綴られていた。



最愛なる類へ

この手紙を見ているということは、オレはもう、この世にはいないのだろう。………って一度は言ってみたかったんだ。言う、というより、書く、だな!

もしオレが生贄として選ばれなかったら、もしこの村にそんな風習が残っていなかったら、この村じゃないところで類と出会えたら。と何度も思った。

でも、もうどうしようもないんだよな。

……類

仲良くしてくれて、ありがとう。またいつか、会おう。


大好き


天馬司


「グスン………」

気がつくと僕は泣いていた。最後の方なんて、涙でほぼ見えなかった。

……こんなことしてる暇はない。

司くんのところに、行かなくては。



「司くん!」

ここで合ってるはずだ、お母さんに教えてもらった。何処、司くん……神様、司くんに会わせて。

「あの、すいません!天馬司は何処にいますか?」

いつもは絶対にしない、“他人に自分から声をかける”という行為。司くんのためなら僕はなんだってできるよ。

「あー、あの生贄の人?そこの角曲がって……」

「ありがとうございます!」

僕は走った。これまでないほどに。司くんに会いたい、その一心で。

「司くん!司っ……くん!」

「……!」

あれ、この声何処かで……

「…ぃ!」

僕の大好きな……

「るい!」

黄色い髪の少年……

「類!」

気がつくと目の前に司くんがいた。儀式のあの服を着ている司くんを見て、ああ、本当に消えてしまうんだな、と実感する。

「類、来てくれたんだな、会いたかった。」

司くんの目は真っ赤に腫れていた。たくさん泣いたんだろう。まぁ……とか言う僕もそうだけど。

「司くん」

「ん?」

「ごめんね、僕。今からとても卑怯なことする。」

前もって忠告をして。

「司くん、僕は君のことを愛してるよ。」

昨日司くんが最後まで言えなかった、愛の告白をする。

「だから………振って。」

「え?」

そして……振ってもらう。嗚呼、なんて卑怯でずる賢いんだろう。

司くんも何処か悩んでいるように見えた。何処までも期待させてくるんだから。

「類、ごめんな。オレは……」

司くん、君は本当に罪な人間だ。

降ってって言ってるのに期待させて、期待通り振ってくれる。

「オレは、君を愛せない。」

僕は振られた。この恋は失恋さ。もう、終わったこと。

「ありがとう、司くん。おかげで次のステップに進めるよ。」

「そうか、良かった。」

きっと、司くんも僕も、とても苦しいだろうな。好きなのに振られて、好きなのに振った。全部、僕のせいだね。

「……あ、もう行かねば。」

司くんは時計を見て思い出したようにそう言った。そして、僕の手を取って。

「!?」

唇を落とした。

「今世は、これで我慢してくれ。」

そう言って、背中を向けて歩きだした。僕は何も言えない。じっと、唇の落とされた箇所を見つめることしかできない。

「……司くんのばか。」

その声は、震えていて、掠れていて、涙ぐんでいて……でもどこか嬉しそうだった。


__________________


今日も花見客が多いな。今年は花がいつもより早く咲いて、いつもより長く続いているそう。……これも司くんのおかげかな?

「……司くん、綺麗だよ。」

僕はひっそりと空に語りかけた。ああ、涙が溢れそう。未だに、君のことを思い出すと泣けてくるよ。そして手の甲がヒリヒリするんだ。



そして桜がやっと散り果てた今日この頃。あんなに人がいた幹のそばも今日は誰もいなかった。

「本当に、なんて悲しいんだろう。」

僕は持ってきたそれを木の枝に吊り下げる。

「待っててね、司くん。」

そして作られた輪の中に首を入れてぶら下がる。



___これは桜とともにあの世へ咲いた少年と散り果てた少年の、来世へと続く物語。

桜とともに君の為。

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