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ベッドの上で仰向けになった圓治に、美緒は絡まるようにして胸に顔を寄せた。
お互いの汗で濡れた肌が、磁石のS極とN極のように吸い付く。
細い腕を逞しい胸に回し、滑らかな足を圓治の足に絡める。
口は圓治の小さな乳首を吸い付き、舌で刺激を与える。
園児の手が、優しく美緒の髪を撫でる。
「どうかしたか?」
問われ、美緒は乳首から口を離す。
「ううん……。何もないわよ。どうして?」
「子供の嘘は分かりやすいんだよ」
「なによ、子供って」
圓治の言い方に、美緒はムッと肩眉を吊り上げた。
そんな美緒を見て、圓治は笑う。
圓治にとって、美緒はまだまだ子供なのだろう。それもそうだ。高校生と言っても、何も決められない。背伸びをしたところで、親の庇護になっているのだ。
「学校の悩み事か? 相談に乗るぞ?」
「ん? ん~、悩みって程じゃないの」
美緒は、絡めた手足から伝わってくる圓治の温もりを確かめる。
落ち着く一時だ。この瞬間が、永遠に続けば良いのに。脇腹に鼻をつけた美緒は、胸いっぱいに圓治の香りを吸い込む。少し汗臭い、成人男性の匂い。嫌いではない。むしろ、何処か懐かしい香り。遠い昔に忘れてきた、懐かしい香りだ。
こうして目を閉じるだけで、美緒は童心に返ったような、温かい気持ちになる。
嘘も虚構も、ここには存在しない。ありのままの自分で居られる数少ない空間だ。
圓治に頭を撫でられながら、美緒は小さな寝息を立てた。
聞こえてくる心臓の鼓動。そして、温もり。それら全てが美緒を優しく包み込んだ。
「美緒、そろそろ時間だ。先にシャワー浴びておいで」
少しウトウトしてしまった。圓治の声に目を覚ました美緒は、驚いて時計を見た。時刻は、まだ午後三時。いつもよりも一時間以上早い。
「え? もう? まだ二時間も経ってないよ?」
「悪いな。これから用事があるんだ」
「そんな……、折角のんびりできると思ったのに」
「お前も子供じゃないだろう? 駄々をこねるな」
「さっきは、まだまだ子供だっていったのに」
「そうだったか? まあ、肉体的には大人だよ」
そう言って、圓治は美緒の乳首を口に含み、甘噛みした。
「本当に、これから用事があるんだ。済まないな」
「……奥さんと?」
美緒の問いに、圓治は一瞬固まるが、すぐに「ああ、そうだよ」と答える。
「たまには家族サービスをしないとな……」
「……そうよね」
上半身を起こした美緒は、乱れた髪を整えると、仕方なくシャワールームへ向かった。
熱いお湯を浴び、うっすらとベールのように纏わり付いた汗を洗い流す。
どう足掻いても、美緒はただの不倫相手。いや、不倫相手にもならない。ただの遊び相手、性欲のはけ口でしかない。
それは分かっている。この関係がいつまでも続くとは思えない。いつかは、この関係を清算するときが来る。それは、そう遠くない未来だと言うことも分かる。
圓治との繋がりが切れたら、美緒はどうなるのだろうか。
シャワーの湯気で曇ったガラスを、美緒は手で拭く。水滴の向こうに現れたのは、子供の様に泣きそうな表情を浮かべた美緒だ。
「私、どうなるんだろう」
美緒がどう思おうと、圓治は美緒の事をなんとも思っていない。都合の良いセックスフレンド。金を払って股を開く、娼婦だと思っているのだろう。
だけど、美緒は違う。美緒は圓治に父親を重ねていた。
遙か昔、離婚して家から出て行った父親。
今となっては、どんな顔だったのか、声だったのか、良く覚えていない。
ただ、寂しい思いをしたのは確かだ。そして、父親が出て行ってから、美緒の生活が激変したのも事実だ。
美緒は、心の何処かで父親を求めていた。だから、圓治の中に、都合の良い父親の姿を見ているのかも知れない。
「…………」
自分が間違っていることは、分かっている。こんな、売春まがいの行為は、いずれ身を滅ぼすことは分かっている。だけど、美緒は止められない。圓治に抱きしめられると、心の中の欠損した部分が埋められるように思えるのだ。
白い陶器の様な肌を優しく撫で、そして、先ほどまで圓治のペニスが入っていた陰部を丁寧に洗う。
少し濡れてしまった髪を乾かしながら、部屋に戻ると圓治が入れ替わりにシャワールームへと入った。
部屋に満ちるタバコの臭い。嫌いではない。美緒の父親も、タバコを吸っていた。
霞のように漂う紫煙が、エアコンの風によって霧散していく。