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影が一つになったまま、
時間だけがゆっくり進む。
金髪は、肩に体重を預けたまま、
しばらく何も言わなかった。
起きてるのは分かる。
でも呼吸が、意図的に静かすぎる。
「……なあ」
「ん」
「さっきさ、
“今だけ”って言ったじゃん」
「ああ」
「今って、
いつまで?」
少し困った声だった。
試すみたいでもある。
「…分からない」
正直に言う。
「分からないけど、今は今だ。 」
「おっさん。
逃げてる?」
「かもな。」
即答すると、金髪は小さく微笑んだ。
「おっさん、正直だね」
「取り繕う元気ない」
「そっか」
心配してるのか、してないのか
よく分からない。
でもまあ、悪い気はしない。
しばらくして、金髪が体を起こす。
今度はちゃんと、隣に座った。
「おっさんさ」
「なに」
「昼、なにしてんの」
「……何も」
「ほんとに?」
「ほんとに。
何もしないで、1日終わる。」
「それ、逆にすごくね」
「どこがだよ」
「俺……
なにもしないと、あたま
ぼわぼわする」
「だから寝れないのか」
「うん。
でも、こーやって隣におっさんがいるから 落ち着くんだよね」
「辛くないのか
朝起きた時、眠れなくて体調悪くなんないの?」
「そりゃあ……なるよ。」
「おっさんは、寝れんの」
「……俺はまあ、どこでも寝れる」
「なにそれ。
野生の猫じゃん。」
金髪がくすっと笑う。
「ああ、猫でいいよ。」
「……」
急に金髪が黙り始めた。
それと、やけに見つめてくる。
「なんだよ。
顔になんかついてる?」
「いやあ?
……」
不思議な感覚
「おっさん、夜何考えてるの」
「……考えないようにしてる。」
「なにそれずる。」
「生きる知恵だ」
「へえー。」
納得したのか、してないのか。
でも、追及はしなかった。
風がまた吹く。
木の葉が揺れる音。
夜は、音だけで存在を主張してくる。
「おっさん」
「ん」
「昨日のこと、覚えてる?」
「……ああ」
金髪は顔を緩ませる。
「まあ、全部とは言わないけどな。」
「あのさ、俺はさ……」
少し間が空く。
「誰かと……あんなふうに、
決めずに一緒に居たの、
久しぶりだった。」
「……そうか」
「……だからさ」
言葉を探すような沈黙。
夜は、それを許してくれる。
「おっさん、来ると思ったからまた来た 」
理由の説明は短いが、
俺にとっては分かりやすかった。
「……俺もだ」
同じ答えを返す。
金髪はそれを聞いて、少しだけ肩の力を落とした。
「……お前名前なんて言うの」
俺は金髪に無意識に話しかけた。
「え、俺?」
「お前しか居ないだろ。」
「……みい」
「え?」
「……っだから、
みい……」
「みい……? 」
まるで猫の鳴き声のようじゃないか……
「……弥生だよ!
何回言ったら伝わるんだ…」
「……っあー、
弥生、くんね」
「弥生で「みい」って読むんだな」
金髪は恥ずかしそうにそっぽ向く
「いや……あのねえ
みい って言われても…猫の鳴き声にしか、」
「……馬鹿にしてんのか」
「……可愛いじゃん」
「……そーいうとこ、今は嫌い」
金髪はまた肩に寄りかかった。
「……おっさんは?
名前」
「んあ、俺か。
俺は「京一郎」」
「えー、渋いね」
「ぶは
猫の鳴き声みたいなのには言われたくねーわ。」
「ねえ」
金髪が真剣そうな顔で見つめてくる
「苗字……は?」
「なんでだよ」
「……」
また、黙り込んでしまった。
「……橘だよ」
「……橘、きょういち…ろうさん」
「ああ。
橘 京一郎」
「……ありがと」
金髪は嬉しそうに頬を両手で抱えている。
その時、
金髪の腕に切り傷らしきものが見えた
「名前さ、もっかい呼んでいい?」
「好きにしろ」
「京一郎」
「ん」
さっきより自然だった。
「呼ばれると……ちゃんと人間みたいだな 」
「最初から人間じゃないの」
「……昼は、思えない」
「夜は?」
「……夜は」
すこし考える
「夜は……人間でもいいって考える。」
その言葉が、胸の奥に静かに堕ちる。
「……帰る時間、決めてんのか?」
「いや」
「……家は」
「ある。
でも、今日はやだ」
「そうか」
「京一郎は? 」
「……帰る場所は、ある」
「じゃあ」
金髪は少しだけ、笑って言う
「ここが、途中下車ってことで」
「変な言い方だな」
「嫌じゃないでしょ」
「まあ」
また沈黙。
でもさっきよりは、軽い
街灯の光が、2人の足元を照らしてくれる
影はまだ、一つのまま
「なあ、弥生」
「なに」
「…また……来るよな」
「……うん」
約束にしない、言い方で
「それでいい。」
夜は、まだ終わらない
そして、この時間を俺は
なかったことにしたくなかった。