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#歳の差
(なんで、こんなことになってるんだろう……?)
エイルの生まれ変わりであり、結衣の教育係だった木田が結衣たちの働く支店に来てから半年後。この日、結衣は居酒屋の個室にいた。隣には類、目の前には木田が座っている。
一ヵ月前に木田が本社へ戻ることが決まって、この日は木田の送別会が行われた。一次会が終わり、木田はなぜか結衣と類にこっそりと声をかけてきたのだ。俺と三人で二次会に行かないか、と。
(すごく、いたたまれない)
隣に座る類は真顔だがやや不機嫌そうで、対照的に木田はニコニコと嬉しそうに微笑んでいる。
「いや、最後にこうして三人で飲むことができて嬉しいよ」
「俺は別に嬉しくないですけどね」
「そんなこと言うなよ、佐々木だけを誘うよりいいだろ?佐伯のことも誘ったのはむしろ誉めてほしいんだけどな」
木田の言葉に、類は木田へ視線だけを向ける。その視線には明らかに殺気が含まれていて、結衣は気が気でない。
(どうして三人で飲もうだなんて言ったんだろう)
「あの、木田さん、他の皆さんと二次会に行かなくてよかったんですか?もしかして、三人で飲もうと言ってきたのには、何か理由でもあるんですか?何か話したいことでもあるとか」
「いいんだよ、他のやつらとは結構いつも飲んでたから、今更送別会の二次会なんて行かなくても問題なし。それに、特に理由はない。ただ三人で飲みたかっただけだよ」
「な、なるほど、ソウデスカー」
にっこりと微笑む木田に、結衣は笑顔をひきつらせ目をぱちくりさせてから視線を逸らす。
「なんてな。ごめんごめん。三人で飲みたかったのは本心だけど、実際に話したいことはあったんだ。特に、ルシエルに」
木田の言葉に、類は飲んでいたビール越しに木田を見る。結衣も木田に視線を戻すと、木田は真面目な顔になった。
「なあ、俺たちがこうして出会うなんてすごい確率じゃないか?そもそも、同じ時代・同じ世界を生きた人間の生まれ変わりがまた同じ世界にいるなんて不思議だろう。あの頃の生まれ変わりは、もしかしたら俺たちだけじゃない、そう思わないか」
類は目を大きく見開いて木田を見つめる。
「それに、あの乙女ゲーム。所々違う部分はあるにしろ、あの世界のことをベースにしてるってことは確実だろう。キャラの見た目だって名前だって同じだ。不思議に思わないか?」
「……俺たち以外の、同じように転生して来た誰かが、あれを作ったってことか」
類の言葉に、木田は真面目な顔で静かに頷く。結衣は、唖然としながら二人の会話を黙って聞くしかない。
「ゲーム会社の誰かなのか、シナリオを書いた作家なのか。誰が生まれ変わりなのかはわからないが、たぶんどこかに紛れ込んでいるはずだ。きっと、他に生まれ変わりがいるなんて思いもしなかったんだろうな。もしかしたら生まれ変わりだなんて自覚していないのかもしれない。そもそも、俺たちはあのゲームの存在に気付いて、自覚したんだからな」
「確かに、あのゲームを作った人間は他のキャラに出会っていなければ自覚すらできないかもしれない」
類は顎に手をあてて考え込む。
「別に俺はその人間を特定したいわけじゃない。ただ、その人間や俺たち以外にも、もしかしたら転生者がいるかもしれないってことを頭の片隅にでも置いててほしいんだ。そして、もし出会うことがあったら、俺に連絡してほしい。俺も、佐伯に連絡するよ」
「……なぜ?」
「ただの興味本位だよ。同窓会みたいで面白いだろ?俺とお前はたまたま同じ会社の本社と支店の人間だったけど、他の人間はまた別の違う人生を歩んでいるはずだ。せっかくだから集まって、今世ではどんな感じなのか聞いてみたいじゃないか」
フフッと笑う木田は、本当に楽しそうだ。だが、類は明らかに険しい顔をする。
「俺は今世でもお前に会って心底嫌な気分だけどな。お前だってそうだろ、エイル。他にもお互いに会いたくない奴に会うことになるんだぞ。……それともお前、まさか……」
何かに気付いた類がハッとして木田に何かを言いかけるが、木田はそれを遮るように話し出す。
「まあ、いいじゃないか。会えるとも限らないんだし。あ、でもあの乙女ゲームを作った人間には会ってみたいな。やっぱりシナリオを書いた作家が一番怪しいかな?調べてファンレターに書いてみるか、俺はエイルの生まれ変わりだけど、あなたは誰の生まれ変わりですか?って。本人だったら驚くだろうし、違うなら悪質な嫌がらせで終わるだろ」
「……やめておけよ、悪質な嫌がらせだと思われたら通報されるか何かしらしかるべき対応をされるだろ。シャレにならないぞ」
「確かにな、それは困る。やめておこう」
木田は肩をすくめてフッと楽しそうに笑うと、視線を結衣に向ける。
「ごめんな、俺と佐伯だけでこんな話をして。せっかく佐々木もいるのに」
「あ、いえ!いいんです。私にとっても興味深いお話だったので。確かに、他にも転生者がいてもおかしくないですもんね」
「……結衣さん、他に気になるキャラでもいるの?」
結衣の言葉を聞いて、すかさず類が結衣に問いかける。
「え、いや、特にはいない、かな……?」
(会いたいキャラがいるというよりは、実際の世界とあのゲームの世界の違いを聞いてみたいな、とは思うんだよね。類くんに聞いてもいいのかもだけど、あのゲームでのルシエルは特殊キャラだったから、ルートが複雑で正規ルートじゃないし)
んー、と天井を見上げて結衣が考えていると、木田がクククッと楽しそうに笑った。
「もしも佐々木が他にも会ってみたいキャラがいるなんて言ったら、ルシエルはそのキャラの転生者を殺しそうな勢いだな」
「えっ!?ルシエル様、やめてくださいね!そんな物騒なこと、絶対にやめてください!」
エイルと結衣が会っていると知ったルシエルは、エイルを殺さんと言わんばかりの勢いだった。同じようなことが起こるのは困る。結衣が慌てると、類は頬杖をついてつまらなそうに吐き捨てる。
「……しないよ、そんなこと。結衣さんが推し変しないって約束してくれたんだからそれを信じてる」
類の言葉に、結衣はほっと胸をなでおろすと、にっこりと嬉しそうに微笑んだ。それを見て、類はグッと喉を詰まらせ、耳を赤くする。そんな二人を見て、木田は優しく微笑みを浮かべた。
「ルシエル、佐々木に出会えてよかったな。俺は今世のお前がうらやましいよ」
木田の言葉に類は目を一瞬大きく見開いて、すぐに視線を机に向けぼそりと呟く。
「……そんなこと言われても、結衣さんは渡せませんから」
類は机の下で、隣に座る結衣の手をそっと握る。それに気づいた結衣は静かに微笑みながら、類の手を優しく握り返した。
「ははは、そりゃそうだ」
類の返事に、木田は嬉しそうに笑ってビールを飲み干した。