コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
私は常に戦の前線に立っていた。それが嫌だという訳でもなく、私は望んでそこに居た。冒険者になる前の血気騎士団に属していた時もそうだった。それが私の夢であり、同じ過ちを繰り返したくないから………。
昔の私はどこにでも居る普通の女の子だった。たくさんの友達に囲まれてありふれた日常を送れるそんな当たり前が幸せと感じる事が出来た程に…。
ある日のこと私ともう数人でちょっとした冒険をしようと計画を立てた。子供ゆえの好奇心が抑えられなかったのだろう。今思い返せばあのメンバーで計画を止めることが出来たのは私だ。私が止めていればきっと未来は変わっていたのだろう……。もちろんそれは結果論に過ぎないが。
子供達で立てた計画は至ってシンプル。近くの森に成るとある果実を取って帰ってくる。これだけだ。その果実自体は特段珍しいものでもなく、市場にも出てるものだからお金さえあれば簡単に入手できるもの。しかし、子供達はお金なんて持ってないし、親に頼んでも別のもので我慢してと言われるだけ。なので渋々諦めることになるのだが、とある友人がその果実が近くの森で成ってると言う情報を手に入れて、買って貰えないなら自分達で取りに行こう。という流れになりその計画を立てたのだ。
近くの森と言えど町の外は危険がその辺にころがってるものだ。特に子供なんて魔物からすればラクして狩れるエサに過ぎない。それでも子供達は外に行きたいのだ。彼らの中で危険よりも好奇心がどうしても勝ってしまう年頃なのだから。
森に行く道中の魔物達はスライムなんかが多く、子供でも倒そうと思えば倒せるレベルのものが多くこれが子供達の謎の自信を増長させてしまった。
先陣を切るのはヤンチャな男の子【カルナ】彼には兄がおり、その兄は名は通ってないが騎士団の一兵士で、実力も確かなものらしくそんな兄の弟である自分もその才能があると常日頃みんなに言いふらしていた。実際剣の腕も子供にしては確かなもので、伊達に間近で本物の剣術を見ていた訳では無かったようだった。兄との特訓で使っている模擬戦用の木製の剣が今回のメンバーの中では一番の攻撃力のある武器であった。
その後ろを着いてくのが少し怖がりな男の子【イウラ】前を行くカルナとは親友らしく、私達と会う前に意地悪をしてくる子供達からカルナは守ってくれて、その後友達になりそれ以降二人は何をするにも一緒だった。
真ん中には私が居て、その後ろには気が強い女の子【ナルマ】が着いていた。
ナルマはカルナに気があるのか、何かと言い争いをしていたりしてるが、どんなに気が強くても女の子。虫などが苦手なようで見つけては悲鳴をあげて半泣きになっていたりする。そういう可愛い一面を持ってて、それでいてコミニュケーション能力も高く彼女が居れば周りが笑顔になる。そう言っても過言では無いほど中心的な人物だ。
もちろん気が強いのとセットで負けず嫌いな為、一番後ろに立っているが護身用としてちょうど良さげの木の枝を手に持っている。
目的としてはただの果実採りではあるが、子供からすれば大冒険だ。これが達成されればきっと素晴らしい思い出になっただろう。そう、上手く達成されていれば……。
森に到着し目的である果実を本格的に探し始める。お昼より少し前に出て森にたどり着く頃にはちょうどお昼ぐらいになるよう時間を調整したおかげで、木々の合間から陽の光が差し込み森の中とはいえそれなりの明るさを確保出来ていた。
本当は二手に分かれて探した方が効率はいいのだろうが、流石にそれは危ないと子供ながらに分かっており、基本的にまとまって歩くことにした。
この森に来る道中に居た魔物達は比較的見た目も怖くなくて、動物達とほとんど変わらない感じで来れたが、森の中の魔物はそうはいかない。クマやイノシシが居るのもそうだが聞く話ではアンデッド系統の魔物もごく稀に現れるとのこと。そんなもの見た日にはトラウマになりかねない。だが、アンデッド系統の魔物の弱点は陽の光で、暗い場所か負の空気が溜まる場でしか彼らは活動できない。そのため、今回はアンデッド系統の魔物に怯える必要は無いが、野生獣は昼夜問わず危険だ。
森にたどり着いて目的の果実を探すのだが、肝心の果実が成る木はどれなのか?そこまでは把握しておらず、当てずっぽうで見つけるしか他ない。 一応のヒントとして大人達の会話から推測して何となくの場を中心として探すことになった。
大人達の会話からのヒントは【比較的近場に成ってて手間暇はそれほどかからないな】【味の良いものを好むのなら奥に行くしかないな】【流石に私らだけでは危ないので念の為数名冒険者と共に行動しよう】【子供でも取れる高さのものもあるものだ】
会話から何とか絞り出せそうなのはこのくらいだった。まとめると、入口付近にその木はあって、子供でも取れる高さに成ってることもある。また、より美味しいものを求めると森の奥に行く必要があり、その場合は冒険者数名を護衛につかせないと危ない。こんなところだろうか。
美味しいのを求めるなら奥に行く必要があるが、別にそこまでは求めてないので入口付近に成る果実を見つけて採って帰ろうという話になった。
僅かなヒントを頼りに入口付近を探索し目的の果実を探す。幸いな事に森の入口付近の為か魔物達もまだ大人しいタイプが多く、こちらから手を出さなければ襲ってくる様子はなかった。だから、警戒こそするがほぼ安心しきっていた。
森に入り体感二時間ほど経過した頃、ようやく目的の果実がなる木を見つけ果実を採ることに。ここでひとつ問題があった、それは果実が成ってるのは子供の身長では到底届かない高さにあること。大人でも少し高いため何かしらの足場が必要になるくらいの高さだ。みんなでどうするか相談をして、出した結論は誰か一人が木を登ってその間待ってる人が辺りの警戒をする。無難な策だが、ここでわざわざ奇抜な策を出す必要もないのも事実。どうするかの計画は立てたが次は誰が木登りをするかという話になる。
カルナはこの中では唯一のアタッカー。なので、彼は辺りを見てもらう方に着いてもらい、イウラは運動があまり得意では無いので同じく警戒にあたる。残るは私とナルマの二人だが、ナルマは運動神経もいい方だが無視が苦手のため木登りした先で虫がいるとアウトと言うので、流れで私が登ることになる。この中だったら多分平均的な運動神経の持ち主なので適材適所というものなのかもしれない。
辺りの警戒をみんなに頼み私は木の上に登っていく。この木は木登りをする上で少し登りにくい木ではあったが枝がちょうどいいところに生えてるのでそれを駆使すれば余裕で登れた。登りきって例の果実を人数分見つけそれを手に取り持ってきた小さなカゴの中に入れる。あとは降りて町に戻れば私らの冒険はそれでおしまいだ。けど、そう簡単には行かなかった。
果実を採り降りようとした時、下からカルナの猛々しい声が聞こえた。葉が邪魔で下を完全には見えないが、確かなのはカルナと何かが戦闘をしているということ。
「ねぇ!?カルナ!下で何が……」
「気にすんな!!ルナベルはしばらくそこで風に当たってな!」
「じゃ、じゃあせめて何が起きてるかだけでも…」
その問いに対して言葉としての答えは返って来なかった。
聞こえたのは木刀で何かを力強く叩く音や聞いた事のない悲鳴にも似た声。イウラの初めて聞く大きな声、ナルマの必死に抵抗してるような声と棒を振り回し風を切る音。明らかに下で戦闘が起きてる。けど、それに対して私は何も出来ない。ただ下で行われている何かをほぼ聴覚だけで把握するしかない。私は何も出来ずただ上で待つだけ。
みんなが心配なのは確かな気持ちだけど、それと同時に恐怖もあった。だから、動けなかった。下では仲のいい友人たちが自分を守るために、心配させないために戦ってくれてるのに、守られてる私は怖くて身動きが取れなくて……。
私が怖くて上で怖気付いて絶望していた時。下から友人以外の声が聞こえてきた、町の大人たちだ。下で何かと戦闘していた友人達は安堵の声を上げて泣きじゃくっていた。その後もちろん大人達の怒号が響き渡る。そして怒号は安堵の声に変わり大人もみんな涙していた。私らは助かったのだ。大人達が代わりに何かを倒してくれて、助かったのだ。木の上にいた私にカルナが降りてくるように声をかけてくれ、それに従い私は地上に降りた。
木の上からでは見えなかった景色が今初めて見えた。前線で体張って戦っていたカルナは左腕に大きな傷を付けて、それでも泣き言言わず戦い続け、弱音をいつも吐いていたイウラも傷ついて泥まみれだけど自分の手を見て少し嬉しそうに笑っていた。ナルマはカルナと同様その木の枝で一生懸命戦っていたのかカルナ程では無いが傷付いてそれでいて、偶然拾ってきた枝にしてはだいぶ強固なようで折れることは無かったみたいだ。
そんな彼らを見て私も涙を流した。彼らがこんな姿になりながらも私を守ってくれたこと。そして、みんなが助かったこと。
けれどそれと同時に自分の無力さを痛感した。私はあの場で守られる立場だった。何も出来ず、木の上で怖気付いて丸くなって…。助けたいのに足は動かない。でも、みんなの無事は祈りたくて。そんな無力で保身的でわがままな自分がこの時の私は大っ嫌いだった。だから私はこんなふうに大切な人を失う可能性があるならそれを排除したくなった。せめて私の周りにいる人達だけは何があっても守ろう、と。失うことの恐怖を私はもう感じたくないから……。