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#廃校past complex
ユメミリ@夏の絶不調祭り
315
るる
74
#闇
ruruha
1,447
◇
父が亡くなってから数日。
窓から差し込む柔らかな朝日が、部屋の中を淡く照らしていた。
小鳥のさえずりが聞こえ、庭には穏やかな風が吹いている。
そんな、いつもと変わらない朝。
「……ふわぁ……。」
プリムローズは眠そうに目をこすりながら廊下へ出る。
まだ少し寝癖のついた髪を手で整え、小さく欠伸をした。
「お母様〜……おはようございます……。」
返事はない。
「……?」
少し首を傾げる。
いつもなら、この時間には朝食の準備をしているはずだった。
「お母様……?」
静かな廊下を歩く。
胸の奥に、小さな不安が芽生えた。
すると遠くから、慌ただしい足音が聞こえてくる。
「急いでください!」
「こちらです!」
使用人たちの焦った声。
普段なら決して聞くことのない切迫した空気に、プリムローズは思わず立ち止まった。
「……。」
何が起きたのだろう。
胸がざわつく。
気付けば、その声のする方へ走り出していた。
母の部屋の前には、数少ない使用人たちが集まっていた。
誰もが不安そうな表情を浮かべている。
「……プリム様…!」
一人のメイドが気付き、慌てて前へ出る。
「申し訳ございません、今は……。」
「…お母様に何かあったのですか?」
プリムローズは真っ直ぐメイドを見る。
その瞳には、不安と恐怖が入り混じっていた。
メイドは返事ができなかった。
その沈黙だけで、十分だった。
プリムローズは小さく肩を震わせる。
その時だった。
部屋の扉が静かに開く。
白衣姿の医師が、ゆっくりと姿を現した。
誰もがその言葉を待っていた。
医師は静かに目を伏せる。
「……おそらく。」
重苦しい空気の中、その声だけが響く。
「倒れた際に頭を強く打ったことが原因でしょう。」
「命に別状はありません。」
その言葉に、周囲は一瞬だけ安堵する。
しかし、 医師は苦しそうに続けた。
「……ですが。」
「……このまま目を覚まさない可能性があります。」
その場の空気が凍りついた。
「目覚めたとしても……。」
「記憶の混濁や、後遺症が残る恐れがあります。」
誰も言葉を発せなかった。
メイドは唇を噛み締め、肩を震わせる。
「……そう、ですか。」
医師は静かに一礼する。
「私どもも全力を尽くします。」
「ですが……どうか覚悟だけは。」
その言葉を残し、部屋を後にした。
廊下には、重苦しい静寂だけが残る。
◇
プリムローズは何も言わなかった。
泣くことも。
叫ぶことも。
ただ、閉ざされた扉を見つめ続けていた。
「……プリム様。」
隣へメイドが静かに歩み寄る。
震える小さな肩を、そっと抱き寄せた。
「大丈夫です。」
優しい声だった。
けれど、その声も少し震えていた。
「私がいます。」
「私は……必ず貴方様のお側におります。」
その言葉を聞いた瞬間。
張り詰めていた心が、少しだけほどける。
プリムローズは俯いたまま、小さく呟いた。
「……ありがとう、ございます。」
その声は、とても小さかった。
窓の外では、雲がゆっくりと太陽を覆い始める。
屋敷全体が薄暗くなり、静かな風だけが廊下を吹き抜けていった。
◇
その日の夜。
屋敷は、しんと静まり返っていた。
広い廊下を歩く足音さえ、どこか寂しげに響く。
プリムローズは、自室の窓際に腰掛けていた。
膝の上には、一通の封筒。
まだ封は切っていない。
「……お父様。」
ぽつりと呟く。
返事はない。
それでも、どこかで「大丈夫だよ」と笑ってくれる気がしてしまう。
少しだけ悲しかった。
窓の外では、虫たちが静かに鳴いている。
幼い頃、両親と一緒に眺めた夜空。
「……。」
小さく微笑む。
そして、ゆっくりと封を開いた。
便箋からは、ほんのりとインクと紙の匂いが漂う。
見慣れた筆跡だった。
幼い頃から何度も見てきた、大好きな父の字。
その瞬間。
張り詰めていた心が大きく揺れた。
『私の愛しいプリムへ。
プリムローズは震える声で手紙を読み進めた。
お前がこの手紙を読んでいるということは、母から私の死を告げられた後なのだろう。突然の別れになってしまい、本当にすまない。驚かせ、悲しませてしまったことを許してくれ。
私の身体を蝕んだ病は、思ったよりも早く私から体力を奪っていった。けれど、お前の健やかな成長を見守ることができた日々は、私にとって何にも代えがたい幸福な時間だった。
お前は我が家の血筋や身分の重み、そして私の体調のことを、子供ながらにずっと気遣ってくれていた。その優しい心根に、私はどれほど救われ、生きる力を貰ったか分からない。
私がいなくなった後、我が家の身分や境遇のせいで、お前とお母さんの身に何か不測の事態が起きたり、生活に困ったりすることがあるかもしれない。
だが、決して生きることを諦めずに、前を向いて、お前自身の人生を歩んでくれ。お前の進む未来は、きっと明るい。自分を信じて、一歩ずつ歩んでいきなさい。
生まれてきてくれて、本当にありがとう。
永遠の愛を込めて。』
堪えていた涙が溢れ出す。
「……お父様…。」
声を押し殺しながら、肩を震わせて泣いた。
どれほど時間が経ったのか。
ようやく落ち着きを取り戻し、便箋に手紙をそっとしまおうとする。
「……?」
手紙とは別に、1つの紙切れが入っている。
『もし、お前たちの暮らしが苦しくなった時。 もし、どうしても行き詰まり、助けが必要だと思った時。 迷わず、この場所を訪ねなさい。
そこには、一つの住所が書かれていた。
見たことのない土地。
そこの管理人は、私が若い頃から信頼している友人だ。 事情はすべて伝えてある。 お前が助けを求めた時、必ず力になってくれるはずだ。』
読み終えた瞬間。
プリムローズは便箋を大切に抱き締めた。
そして。
ゆっくりと立ち上がり、前を向いた。
コメント
2件
作者コメント┊︎ プリムちゃんはもう立派な子供です。
プリムローズが父の手紙を開く場面、すごく胸に響きました。短い別れの言葉だけど、父がどれだけ娘を想っていたかがひしひしと伝わってきて…。メイドの「必ずお側に」という言葉にも温かさを感じました。最後に出てきた住所、これからどう物語に絡んでくるのか気になります。続きも楽しみにしていますね。