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#廃校past complex
ユメミリ@夏の絶不調祭り
315
るる
74
#闇
ruruha
1,447
◇
翌朝。
窓から差し込む朝日が、静かな部屋を優しく照らしていた。
プリムローズは昨夜読んだ手紙を、何度も何度も読み返していた。
涙の跡が乾いた便箋。
けれど、その文字は昨日よりも少しだけ温かく感じられた。
「……お父様。」
便箋を胸へ抱き寄せる。
その温もりは、本物ではない。
それでも、不思議と父がすぐそばで見守ってくれているような気がした。
視線を最後の一文へ落とす。
『もし、どうしても困った時は、この屋敷を訪ねなさい。』
「……。」
プリムローズは静かに立ち上がった。
その瞳には、迷いはもう残っていなかった。
◇
食堂では、メイドが帳簿を見つめながら深いため息をついていた。
机の上には、残りの資金を書き記した紙。
何枚もの請求書。
「このままだと…食事さえ1ヶ月後には……。」
誰に聞かせるでもない独り言だった。
その言葉を、廊下にいたプリムローズは静かに聞いていた。
ぎゅっと、お父様の手紙を握りしめる。
大きく息を吸う。
そして、食堂へ足を踏み入れた。
「あの…」
「わたくし。」
メイドが顔を上げる。
「プリム様?」
プリムローズは真っ直ぐ前を向いた。
まだ幼い少女だった。
けれど、その瞳には昨日までにはなかった強い意志が宿っている。
父の紙切れを机に置いた。
「わたくし、この屋敷で働きますわ!!」
「……え?」
「……えぇ!?」
メイドは目を丸くした。
思わず手にしていた帳簿を落としそうになる。
「ぷ、プリム様……突然、何を……。」
「わたくし、全部知っていますの。」
その声は震えていた。
「お父様が亡くなられてから、市民の皆様に批難されていることも。」
「使用人の皆様が、次々と屋敷を去っていることも。」
「お家のお金が、このままだと苦しいことも。」
一つひとつ言葉にするたび、胸が痛んだ。
それでも、目を逸らさなかった。
「……お父様のお手紙を読みましたの。」
胸元から便箋を取り出し、大切そうに抱き締める。
「今までわたくしは…お母様にも、お父様にも、守られてばかりでした。」
「何も…返すことができませんでしたわ。」
「で、でもそれは……。」
プリムローズは小さく笑った。
泣きそうなくらい優しい笑顔だった。
「ですから…今度は、わたくしが皆様を支えたいのです。」
「だから。」
「どうか、わたくしを頼ってくださいませ。」
その一言に。
メイドの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「……プリム様。」
震える声で名前を呼ぶ。
長年幼い頃から見守ってきた少女が、今、自分の足で前へ進もうとしている。
誇らしくて。
切なくて。
愛おしかった。
メイドは涙を拭い、小さく微笑んだ。
「……ええ。」
「立派になられましたね。」
その言葉に、プリムローズは少しだけ照れくさそうに笑った。
◇
数日後。
旅立ちの日。
屋敷の玄関前には、小さな旅行鞄が一つ置かれていた。
「プリム様、準備はよろしいでしょうか?」
「はいっ!」
プリムローズは元気よく頷く。
「お気に入りのブランケットも!」
「ぬいぐるみも!」
「お父様のお手紙も、ちゃんと持ちましたわ!」
その最後の一言に、メイドは優しく微笑む。
「……もう私が確認することはありませんね。」
プリムローズは少しだけ寂しそうに屋敷を見上げた。
幼い頃から過ごした、大好きな家。
笑い声が響いていた庭。
家族で食事をした食堂。
父に肩車をしてもらった中庭。
母と花を飾った廊下。
どれも、大切な思い出だった。
「……お母様のことは、お任せしましたわ。」
「はい。」
メイドは力強く頷く。
「命に代えても、お守りいたします。」
プリムローズは安心したように微笑んだ。
そして、屋敷へ向かって深く一礼する。
「お父様。 お母様。」
「行ってまいります。」
返事はない。
けれど、風が優しく吹き抜けた。
庭に咲くガーベラが、小さく揺れる。
まるで二人が「行ってらっしゃい」と微笑んでくれているようだった。
プリムローズは涙を拭う。
もう後ろは向かない。
「……では、行ってきますわ!」
そう言って、一歩踏み出した。
その一歩は小さかった。
けれど。
その一歩が、小さな少女の人生を大きく変えていく。
◆
プリムローズ「……。」
便箋を見つめたまま、プリムローズの手が小さく震える。
瞳はみるみる潤み、文字が滲んでいく。
肩もわずかに震え始めていた。
「プリムさん…!?大丈夫ですか……?」
異変に気付いたイリアが慌てて駆け寄る。
プリムローズは慌てて涙を拭い、ぎこちなく笑った。
「だ、だいじょうぶ……ですわっ……。」
そう答える声は震えていて、とても「大丈夫」には聞こえなかった。
ローラはポケットからハンカチを取り出し、そっと差し出す。
「……はい。」
「…大丈夫よ、プリムちゃん。」
「ありがとうございます……。」
プリムローズは両手で受け取り、涙を優しく拭った。
その隣では、ナターシャがおろおろと辺りを見回し、手元のオレンジジュースを差し出す。
「……お、オレンジジュース……いる……?」
思わずプリムローズの頬が少しだけ緩む。
「あ…!ありがとうございます……。」
「うぅ……申し訳ありませんわ……!」
イリアはプリムローズが落ち着くのを待ってから、静かに尋ねた。
「……誰からだったんですか?」
プリムローズは便箋を胸へ抱き締める。
まるで、大切な宝物を抱くように。
「……わたくしの、お母様から……。」
「えっ!?」
イリアが思わず声を上げる。
「……お、お母さん……?」
ナターシャも目を丸くする。
その時、二階から降りてきたであろうラグドールがこの光景に目を丸くする。
「……え。プリムさん?」
「……ちょっと静かに。」
ララビットが小さく制すると、ラグドールは
「あっ……はい……、?」
と慌てて口を閉じた。
部屋には静かな空気が流れる。
ローラが穏やかに問い掛けた。
「少し落ち着いたかしら?」
「……はいっ。」
プリムローズはゆっくり頷く。
涙を拭っても、目元はまだ赤かった。
ミシェルは少しだけ首を傾げる。
「……。悲しいの?」
その問いに、プリムローズは首を横へ振った。
そして、涙を浮かべたまま笑う。
それは今まで誰も見たことがないくらい、嬉しさに満ちた笑顔だった。
「……悲しくありませんわ。」
「とっても……とっても嬉しくて……!」
便箋を胸へ抱き寄せる。
震える声で、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「……その……。」
「わたくしのお母様が……。」
一度息を吸う。
涙がまた一粒、頬を伝った。
「目を覚ましたそうなのです……!」
プリムローズはもう一度、手紙へ目を落とした。
そこには、母の想いが綴られていた。
『私たちの愛するプリムへ。
文字が震えていて、ごめんなさいね。まだうまく手が動かないのです。でも、どうしてもあなたに伝えたくて、使用人に手伝ってもらいながら、この手紙を書いています。
私は、お父さんが亡くなったあと、私は精神的に参ってしまったのか、長い長い眠りについてしまったらしいです。
数日前に目を覚ました時、あなたが私たちのために、お父さんが遺してくれた屋敷で健気に働きながら、1年もの間、私の目覚めを待っていてくれたのだと聞きました。
あなたに、どれほど寂しく、心細い思いをさせてしまったことか。母親でありながら、あなたを一人にしてしまったこと、本当にごめんなさい。
まだ起き上がることも難しいけれど、お医者様が言うには、少しずつ良く進んでいるそうです。
あなたがたくさん頑張ってくれているから、私はもう一度、この世界で目を覚ますことができたのね。ありがとう。
会いたいです。あなたの顔が見たい。でも、お仕事や色々な都合もあるでしょうから、無理はしないでね。時間のある時、少しだけで十分です。
あなたが無事でいてくれること、それが今の私の一番の幸せです。
どうか、身体にだけは気をつけて。
あなたを心から愛しています。
あなたのお母さんより。』
コメント
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作者コメント┊︎ いま(いま)別れの時ー。飛び立とー。未来信じてー。
ちょっと白夜ゑぬ。さん!😭💕 この回、胸がぎゅーってなったよ…!プリムローズが「わたくし、この屋敷で働きますわ!!」って自分から前に進むシーン、もう完全に泣いた…。お父様の手紙を抱きしめて、迷いなく言い切る姿が尊すぎる🥺 そして最後の母からの手紙…「ありがとう」って、そんな一言に全部の想いが詰まってるじゃんか…!眠ってたお母さんが目を覚ましたって、嘘みたいな奇跡だけど、プリムローズの頑張りがちゃんと届いたんだね…。風に揺れるガーベラの描写もエモすぎて、もう一回読み返すね…!🌸✨