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「これ、契約書ね。君は僕を愛するフリをすればいい。簡単だろう?」
差し出された金縁の羊皮紙を、私は震える指先で受け取った。
目の前で人懐っこい笑みを浮かべているのは
この国の第二皇子、レオ・フォン・ホーエンツォレルン。
金の刺繍が施された軍服を完璧に着こなし、緩く波打つ茶髪の間から覗くのは
社交界で「陽だまりの皇子」と称えられる輝かしい微笑みだ。
誰に対しても分け隔てなく接し、その場にいるだけで周囲を明るく照らす
まさに物語から抜け出してきたようなヒーロー。
……けれど、至近距離で見つめ合う私だけは知っている。
私を射抜くその琥珀色の瞳は、少しも笑っていない。
冷徹な計算機のように、私の価値を品定めしているのだ。
「……ハルデンベルク公爵家の借金をすべて肩代わりしてくださるというのは、本当ですか?」
掠れた声で問い返すと、彼は満足げに喉を鳴らした。
「もちろん。その代わり、条件は一つ。僕が次期皇帝の座を手にするまで、君は世界一幸せな僕の『おしどり夫婦』を演じること。……簡単だろう?君の家も、病弱な弟も、すべて僕が守ってあげるよ」
没落寸前の我が家を救うには、この悪魔の誘いに乗るしかなかった。
冷たい沈黙の中、ペンが紙を走る音だけが室内に響く。
私は震える手で、自らを売る契約書に署名した。
数日後
初めて二人で出席した夜会。
会場となった大広間は、シャンデリアの光と貴族たちの好奇の視線で溢れかえっていた。
レオ様は、不安に強張る私の腰を、逃がさないと言わんばかりの力強さでぐいと引き寄せた。
「みんな、紹介するよ。僕の運命の人──ローラだ」
朗らかな、けれど確かな独占欲を含んだ宣言。
耳元で囁かれる甘い声に、心臓が跳ねる。
鼻をくすぐる、彼の清潔でどこか高貴なシトラスの香水の匂い。
レオ様は、信じられないことに私の頬に触れると
まるでお宝でも扱うような手つきで髪をかき上げ、そこに熱いキスを落とした。
(……えっ、こっ…ここまで演技するの!?)
あまりに自然で、あまりに情熱的なその仕草に
周囲からはため息と割れんばかりの拍手が湧き起こる。
「なんてお似合いな」「皇子があんなに熱を上げるなんて」……
そんな囁きが聞こえるけれど、私の心臓は壊れた鐘みたいに激しく鳴り響いて、それどころではない。
レオ様は、顔を真っ赤に染めて固まる私を見つめると、人懐っこく
でもどこか挑発するように目を細めた