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「あと、1年も生きられないでしょう」
物心ついた頃からお世話になっていた先生から、そう告げられたのは今年の夏でした。
18歳で結婚してから2年間、お菓子屋を2人で営んでいた夫のオリバーにも、一緒に死の宣告を聞いてもらいました。
「どうにかなりませんか?」
オリバーは泣き叫びながら医師に尋ねましたが、医師はただ黙って、首を振るだけでした。
「そんな……!」
オリバーは、ただじっと静かにその宣告を受け入れていた私を、強く抱きしめてくれました。
「シャルロット……!君が居なくなったら、僕はどうすればいいんだ……!」
私は、愛する夫の気持ちが何よりも嬉しくて、そして悲しく思っていました。
女として、そこまで男性に強く求められる喜びと、そんな人を置いて逝ってしまう申し訳なさで、心がどうにかなりそうでした。
(ごめんなさい、オリバー……)
ただただ、心の中で謝るしかできません。
涙なんか、とうに昔に枯れてしまった私の代わりに、彼が激しく泣いてくれました。
私は、彼の涙の味を覚えておくために、そっと彼の目元にキスをしました。
悲しみの涙は、とてもしょっぱい味がしました。
「先生」
私は、ずっと考えていたことを尋ねてみました。
「赤ちゃんを産むことは、できませんか?」
せめて、この命が尽きるのが早いのならば、生物として存在した証として……そしてオリバーへの最後の置き土産として、可愛い赤ちゃんを遺していきたいと考えました。
ですが医者は、決して許そうとしません。
「お前さんが1番、分かっておるだろう。普通の女でも、産むのは命懸け。お前さんの場合は……」
医者はちらと、オリバーを見てからこう言いました。
「子供を作る行為をするだけで……死ぬかもしれないのだぞ」