テラーノベル
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「では――早速。先日のご提案のお返事をお聞かせ願えますか?」
その一言に、瑠璃香の胸が小さく鳴る。
何度も何度も練習した言葉を、一度深呼吸をして気持ちを落ち着けてから、ゆっくりと発した。
「……お返事の前に、ひとつだけ確認させてください」
「はい」
「どうして……私なんでしょうか?」
藤代は黙って続きを促す。
「私、秘書のお仕事は経験したことがありません。そんな私に、本当に務まるんでしょうか?」
胸の奥にしまっていた不安を、そのまま言葉にする。
「もちろん! お話をいただけたことは本当に嬉しかったです。でも……」
一度唇を結ぶ。
「私と新沼社長補佐の関係をご存知だから、お声を掛けてくださったんじゃないかって……」
太ももの上に載せた両手にギュッと力を込め、思わず言いよどむ。
そんな瑠璃香に、
「恋人だから選ばれたのではないか、と懸念していらっしゃるということですね?」
藤代が静かに言葉を継いだ。
瑠璃香は、小さく頷いた。
「もしそうなら……私には、お受けする資格はありません」
***
藤代は、ゆっくりと首を横へ振った。
「違います」
その声音には迷いがなかった。
「あなたが新沼社長補佐の恋人だからではありません」
その一言だけで、胸の奥の何かが少し軽くなる。
「小笹さんは、ご自分をあまり評価なさらない方ですね」
優しく笑われ、瑠璃香は少しだけ恥ずかしくなる。
「ですが、私たちはちゃんと見ています」
藤代はひとつずつ指を折るように話し始めた。
「まず、仕事がとても丁寧です。それに口が堅い。報告・連絡・相談も正確です。どなたに対しても誠実で、相手を立てることができる。社内外を問わず、信頼も厚い」
ひとつひとつが、瑠璃香自身は社会人として当たり前だと思っていたことばかりだった。
だからこそ、胸が熱くなる。
「社長も、副社長も、私も」
藤代は穏やかに微笑んだ。
「三人一致で、新沼社長補佐の専属秘書を任せるなら、小笹さんが適任だという結論になりました」
瑠璃香は言葉を失った。
そんな彼女へ、藤代がさらに続ける。
「以前も申し上げましたが、この件について新沼社長補佐にはまだ何も伝えておりません」
「……はい」
それは、瑠璃香も分かっていた。
毎晩のように声を聞いているのだ。
もし晴永がこの話を知っているのなら、何も言わずにいるとは思えない。
「そして、当然ながら、小笹さんをご自分のそばへ……と推薦なさったのも新沼社長補佐ではありません」
その言葉に、瑠璃香は顔を上げた。
「社長と副社長、そして私が、一社員としての小笹さんを見て決めた人事です。新沼社長補佐には、正式決定後に伝える予定です」
つまり、本当にこの人事は――。
「小笹さんが新沼社長補佐の恋人だからではなく、純粋にあなた自身の能力を買われて選ばれたということです」
胸がいっぱいになる。
認めてもらえた。
晴永の恋人だからではなく、小笹瑠璃香という、一人の社員として。
***
しばらく言葉が出なかった。
企画宣伝課へ配属された日。
失敗ばかりだった頃。
課長時代の晴永に叱られつつも助けてもらった日々。
皆に支えられて、ここまで来た。
今度は自分が――。
(晴永さんを支えたい)
その気持ちと同じくらい、自分自身を見て、この仕事を任せたいと言ってもらえたことが嬉しかった。
その期待に、応えたい。
瑠璃香はゆっくりと顔を上げると、
「……よろしくお願いいたします」
まっすぐに藤代を見つめてそう言ってから、深々と頭を下げた。
藤代はそんな瑠璃香に穏やかな声音で
「こちらこそ、よろしくお願いします」
と返してくれる。
顔を上げると、藤代は柔らかな笑顔で瑠璃香を見つめていた。その笑顔を見た瞬間、不思議なくらい瑠璃香は清々しい気持ちになった。
***
「では、今後についてご説明しますね」
そう言って、藤代は手元に置いていたファイルを開いた。
コメント
2件
自分が認められたって思えるの、嬉しいね!
わあああ瑠璃香ちゃんが自分の力で認められたの尊すぎる😭💕「恋人だからじゃない」って藤代さんがきっちり否定してくれたところ、涙腺やばかったよ…自分で不安を言葉にして確認する強さも、それに真摯に答える周りの大人たちも、全員尊いんだけど!?✨ 晴永さんを支えたい気持ちと、自分の評価を素直に受け取った決意、すごく響きました…!これからの展開が待ちきれないよ🌸
鷹槻れん

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#極道
鷹槻れん

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latte
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latte
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