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俺は悪くないとでも言うように、エヘエヘとゼゲルが笑う。
このクズが奴隷魔法なしでここまでオークを従えられるとは想定外だった。
「あの、アーカードさん。イリスは」
「奴は元より連続強姦殺人鬼、人類が滅ぼすべき邪悪だ。ここで潰しておくのも悪くはない」
アーカードは奴隷兵に告げる。
「今だ! オークを殺せ! 奴らが正気に戻る前に皆殺しにしろ!!」
オークを制御できない以上、ここで数を減らさなければ形勢が逆転する。
イリスが死んで【其は願望の影】が消失すれば、次に狙われるのはオレ達だ。
……本当にそうか?
早急にゼゲルを殺し、距離をとって、皇帝の重力魔法でイリスごと圧殺すればいいのでは?
いや、皇帝陛下にそこまでの手を煩わせるわけにはいかん。
それにうまくオークの気を引ければ、イリスが生き残る可能性もゼロでは。
『おのれ』
『おのれ、おのれ、おのれ!! よくも私に汚らわしいものを見せましたね!!』
天上から降り注ぐ声にゼゲルが目を輝かせる。女神だ。
汚らわしいものというのは、イリスを貪るオークの群れのことだろう。
『神焔よ、焼き尽くせ。《オーバーフレア》』
遙か天空より、焔が降り注ぐ。
奴隷兵ではなく、オークの群れへ。
「な、何を」
煮えたぎる焔の滝がオークを焼き焦がし、肉を炭化させていく。
仲間を、しかも最後に残った戦力をなぜ殺す?
「おやめください! 女神よ! なぜオークを殺すのですか! 共に村を焼き、村人を殺して回った仲間なのに!!」
ゼゲルが太った腹を揺らして懇願するが、女神は鼻で笑っている。
『馬鹿め。むしろ、なぜ殺されないと思った』
『私は人権を広め、アーカードを殺せればそれでいいのです。愚かで醜い魔物ども、邪悪な人間どもよ。愛と平和の礎となるがいい』
蠢くオークに【神焔よ、焼き尽くせ。《オーバーフレア》】が落とされる。
ゼゲルはすでにオークを見捨てたのか、自分だけは生き延びようと奴隷魔法で虫を集めていた。
「女神、様……」
業炎の中で炭と化しながら、オークが何かを言っている。
もう無理だ。どうあってもイリスは助からないだろう。
最後にキスくらいしてやればよかったな。
奴隷商人アーカードはひとりごちる。
この世界はどうしようもない。
ゼゲルは児童売春を繰り返すし、オークは村人を手当たり次第に犯して殺すし、女神は鼻歌交じりに仲間を焼き払う。
聖堂騎士団はノリで民を拉致して殺し、民は犯罪が起きても見て見ぬふり、更に皇帝は差別を促進させる。
イリスはイリスで脳が下半身に支配されているばかりに、オレに操られて死ぬ。
そのくせ皆、自分だけは正しいと信じて疑わない。
どこまでも救いのない、邪悪な奴らだ。
なぜ、オレのように正しく生きることができないのだろう。
抜け目なく他者を支配し、尊厳を踏みにじるだけで、この世界はずっとまともになるというのに。なぜそれがわからない。
『お前が言うか! 邪悪な奴隷商人め!!』
女神は【神焔よ、焼き尽くせ。《オーバーフレア》】を唱えようとしたが、幾つもの黒点に視界を遮られた。
ゼゲルの虫が上空に集まっているのだ。
「嫌だ。死にたくない! 死にたくない!」
『小癪な』
女神は視界を確保する為に高度を下げる。
巨大な浮遊城が雲を割った。
「な、なんだあれは」
「神話にある神の城だ。文明を滅ぼす炎の槍が降るぞ!!」
『小賢しいわ!』
超質量が起こす風圧が虫を吹き飛ばす。
浮遊城内部にあるのは、どこまでも続く白い世界。
その中心、緋色の玉座で女神が哄笑を上げた。
いくつもの【神焔よ、焼き尽くせ。《オーバーフレア》】が、浮遊城下部に充填されていく。
奴隷兵が剣を振っても、矢を射ても、浮遊城には届かない。
届いたところで、城壁に阻まれるだろう。
女神は人々を睥睨し、邪悪な笑みを浮かべた。
『あははは! ゴミが! みんなまとめてここで死ね!』