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プロローグ
その日は、ただ映画を観に行くつもりだった。
村の近くの会場で、きっとたいした内容でもない子ども向けの映画が流れていたんだと思う。
でも、なぜかあの日の朝は、胸がそわそわしていた。理由もなく、急いで玄関へ向かう足が止まらなかった。
そして、玄関を開けてすぐのことだった。
「うああああああ!!」
突然、自分の口から甲高い叫び声が飛び出した。次の瞬間には、目の前の世界が反転し、音も光もすべてが遠ざかっていった。
僕は、倒れた。
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第一章:門の前
父は救急救命士だった。運悪く、いや、運良く、その日はちょうど当直で勤務していたらしい。
けたたましい連絡が飛び、勤務先を出て、父は迷う暇もなく、最短距離で家へ向かった。
家に着いた時、僕はすでに吐瀉物をこぼし、意識を失っていた。
あとで聞かされた話によると、父はその時、冷静なふりをしながらも内心は震えていたという。救急車の到着を待つ間、最悪の事態が頭をよぎっていたのかもしれない。
2003年。まだ「子どもの脳出血」に関する知識も治療法も、一般にはほとんど知られていなかった時代。
それでも、父や周囲の人々が尽力してくれた。専門の医師が呼ばれ、名医と呼ばれるその人が、僕の頭蓋を切開し、出血部位を取り除いてくれた。
そして——その頃だった。
僕は、雲の上にいた。