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◻︎礼子に報告
「…で?食事の後は何をしたの?」
秘密基地で、礼子に雪平とのことを話した。
「何もしてないよ、駅まで送ってもらって帰ってきたよ」
「個人的なお付き合いって言われたらさぁ、その先を考えちゃったよ、私は」
「実は私もちょっと考えた」
「でしょ?」
「でも、万が一そうなってもその時は断固として断った」
「なんで?」
「勝負してない下着だったから」
「そこですか!」
「そこ大事でしょうが!」
美味しい食事を食べながら、雪平の仕事の話を少し聞いた。
新聞記者になった理由とか。
正直言って私は新聞なんて読まない、だから記事を書くためにどれほどの努力をしているかなんて考えたこともなかった。
事件が起きれば、朝も夜もない、毎日配達される新聞にはきちんと記事を間に合わせないといけない。
けれど、半端な取材で憶測を足してしまうと、当事者の気持ちを傷つけることにもなるから慎重に。
「雪平さんが言ってたんだけどね…」
「なんて?」
「世の人々は何故、他人の不幸や悲劇の話の方を読みたがるのか?だって。それは多分、自分と比較して、“自分はまだマシな方だ”と安心したいからだと思うって」
「あー、そうかもね」
「けど、雪平さん、本当はね、楽しいことやうれしいことばかりの記事で埋め尽くされた新聞を書きたいんだって言ってた。世の中にひとつくらい、そんな新聞があってもいいと思いませんか?って」
「ふーん、そんな風に考えながら新聞を書いてたんだ…」
礼子は、パタンと何かを書き込んでいた手帳を閉じた。
「それで?」
「それで…なんていうか、いいなぁって思った」
「雪平さんてさ、愛妻家だって言ってなかったっけ?」
「そう!誠司がそう言ってたんだよね。で、ちょっと聞いちゃったんだよ、私」
「奥さんのこと?」
「うん、愛妻家なんですよね?とても仲がいいと誠司が言ってましたからって」
「雪平さん、なんて答えたの?」
「“えぇ、仲はいいですよ。けれど家族ですよ、男と女というわけではないです、さすがに…”だってさ」
「そうなの?じゃあ、美和子のとこと同じじゃん、よかったね」
「まぁね…」
夫婦仲良しでも、それが男と女としてではないというのは、これくらいの年齢になると当たり前なのかもしれない。
うちも仲良しだ、けれどもうずっとレスだ。
きっと、夫にも仲のいい女の友達がいる、それがどこまでの関係なのか、確認したことはない。
不安にもならないし、嫌でもない。
息子に恋人がいるかも?くらいの感覚で夫に恋人がいるかも?と思っているのだ。
「まぁ、うちは、今流行りの卒婚に近いからなぁ」
「うちも、そんなものだけどね」
結婚して20周年の頃、夫と話したことがあった。
それぞれが少し自由に暮らそうかと。
家庭に持ち込まなければ、家庭を壊さなければ、少しの自由で生きていいよね?そんな感じの話だった。
もともと価値観は似ていたので、そこの話はまとまりが早かった。