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◻︎アンチエイジング
雪平さんと個人的なお付き合いをすることになってから、私はお洒落がしたくなった。
ネットを見たり、雑誌を買い込んだりして年相応のお洒落とやらを研究(?)している。
白髪染めも忘れちゃダメだし、楽な服ばかりでもだらしなく見えちゃうし、ちょっと買い物くらいでもメイクは必要だとか。
_____若い頃なら、眉を書いて色付きリップくらいでもよかったのになぁ…
それでも、雪平のファンを思い出すと、どこからか負けたくないという気持ちが出てくる。
お金をかけずに、そこそこ綺麗になる方法はないかなぁと考える。
パラパラと雑誌を見ていたら、とあるエッセイが目にとまった。
【人生100年時代の女性の生き方って?】
“戦後間もなくは、平均寿命が50そこそこだったし、バブル期あたりでも60を過ぎればあとはもう、孫の面倒を見たり老人会でゲートボールをしたりが普通だった。
なのに、だんだんと平均寿命が伸びてヘタをすると100年生きるかもしれない時代になった。
これは、悲劇かもしれない。
特に女は、体は50くらいでガラッと変わってしまうのに、その後も50年近く生きなければならないのだ”
_____ふむふむ、悲劇かも?か
“何故悲劇かというと、自分たちより先人にロールモデルが少ないからだ。
あの人みたいに歳を取りたいとか、あんな風に生きたいとか、目標とすべき人が少ないのだ。
なので、人生の迷子になりそうな人たちのために次々にそういう大人の女性向けの雑誌が作られていき、そこに美魔女だとかアンチエイジングだとか若い頃よりもずっと努力しなければいけないことをやらせようと記事に仕立て上げた。
私くらいの女は『自分磨き』『女磨き』という言葉に弱い。
よく考えれば、世間にもまれてそれなりに磨かれていくものなのに、自分から磨くなんて骨を折らなくても。
宝石だって、貴金属だって、磨かれて光るものなんだけど。
人間だってきっと、世間の荒波とやらにもまれているうちにキラッと光るようになるはずだ。
人生100年と言われて慌てた人たちが、こぞって雑誌を買い、またはネットで検索して、そこに写されているモデルのように生きようとしている。
(かく言う私もその1人なのは否めないのだが)
そういう雑誌やネット記事が『自分らしく!』なんて掲げながら、ある一定の方向にみんなを引っ張っているように見えるのは私だけだろうか?
せっかく100年まで延びた寿命を、最期のその時まで自分らしく謳歌しなきゃもったいない。
そこで提案だ。
今すぐこの雑誌を閉じて、スマホの電源を切って。
色んな雑念を払って。
目を閉じて深く深呼吸して…
瞑想はあなたの心を軽くします。
女性専用ホットヨガは、こちらですー”
「は?はぁ?!なんだ、これは!なんかいいこと書いてあると思ったのに!ホットヨガの広告じゃんかっ!」
思わず雑誌を放った。
スマホが鳴ってメッセージ受信を告げる。
《美和子さん、こんにちは。美味しいイタリアンを見つけましたよ。またご一緒しましょう》
雪平さんからのメッセージを確認すると、ドキドキしてふわっと心があったかくなる。
今の私には、この人の存在そのものが、アンチエイジングサプリかもしれないと思った。