「桐 〜〜!!♡♡」
気持ち悪い声で私を呼ぶのはイギリスの化身、オリバーというイカレ野郎だ。今日も今日とて日本刀を彼に突き刺す。
「あっ♡強いのも好きだよ♡このニホントーは俺へのプレゼントかなにか?」
そんな戯言を抜かしている彼に突き刺さった愛刀を乱暴に抜き血を振り払った。ぴゅ、ぴゅ、と傷口から血が溢れ散っているが当本人は顔色も変えず、性懲りもなく私に話しかけてくる。
「気持ち悪いです」
「はは♡そんな桐も好き♡」
彼の態度には怒りさえも上書きするほどの呆れた感情がクツクツと自分を染める。出会いは900年ほど前だろうか。突然ナイフを持って襲い掛かってきた彼のみぞおちを蹴ったのが最初の出来事だった。そのウザったらしい行為は最初から今まで続いている。
「桐、俺と心中しよ?♡ 」
そんな彼の決まり文句は毎回決まってコレだ。会うたびに心中、心中と私を殺そうとしてくる。返り討ちにあうのがオチなのによくめげないな。その根性に逆に感心してしまう。
「くたばれください」
「いやだ♡」
そんな2人の会話は世界会議の風物詩だった
はずだ。恒例の世界会議でルチアーノとルッツの言葉の売り買いを高みの見物と見ていた時。いつものごとくあの男は私の近くへやってきた。またか、これから安易に予想できる出来事にいつでも刀を抜く準備を整えた。
「おはよう桐 」
突如として聞こえたありもしない声に動揺した。そのせいで手にかけていた刀がカチャリと音を鳴らす。不気味なほど落ち着いた彼は私の隣に腰掛け、なにやら袋をガサゴソと漁っている。それに疑いと困惑の眼差しを向けるのは私だけではない。さっきまで罵倒を重ねていたルチアーノとルッツ、さっきまでつまんなそうに黙りとしていたアレンでさえ目をパチクリさせ眉を上げながら絶句している。驚きというより気味が悪いという方が合っているかもしれない。そんな視線を向けられた彼が袋から取り出したのは美味しそうなカップケーキだった。
だがいつものゲテモノカップケーキなどではない。ピンクを中心にした柄の型にかわいくデコレーションされたカップケーキが詰め込まれている。ふっくら焼かれたその匂いにゴクリと唾を飲み込んだ。
「桐のために作ったんだ。食べてくれるか? 」
いつもなら当たり前に断っているだろう。だがしかし、今までに見たことがないくらい美味しそうなカップケーキを目の前にしてそんな誘いをきっぱりと断れるほど私は、食に我慢という耐性はなかった。
迷っている私を見て焦った3人は急いで駆け寄り、ルチアーノは私の首に腕を回し抱き寄せた。
「駄目だよ桐!こんなやつが作ったモン食べる気!?
「確かに見た目は良いけど…オリバーが作ったやつだよ?きっと得体のしれないモン入れてるに違いないんだぞ、」
「うむ。今回ばかりはコイツらの意見に賛成だ」
酷いな〜と笑いながら彼は言うがカップケーキが机から下げられることはない。最近糖分を控えていたこともあり、一層目の前のそれが美味しそうに見えてしまう。私は止めに入った3人の言葉を無視しカップケーキをパクリと口につけた。
まさか本当に食べるとは思ってなかったのか、3人は私の方を見るなり顔を青く染めた。案の定オリバーは眉を上げ、食べてくれた様子にこれでもかと喜んでいる。口元についたカスをペロリと舌で拭き取りはしゃぐ彼を見た。
「勘違いしないでくださいね。たまたまお腹を空かせていただけです」
「……うん!嬉しい!食べてくれてありがとうな!桐!! 」
あんなに憎たらしくてたまらなかったコイツが、悔しくも今は純粋無垢に喜ぶ少年のように見えた。
「桐、俺と心中しよ?」
そんな純粋な目で訴えかけられた。私はその誘いに、いつの間にか肯定の言葉を口にしていた。
頭が妙にクラクラする。頭は真っ白で、目の前は真っ暗で。体に力が入らず、まず動かそうともしなかった。頭もまともに機能しないまま呆然とシーツを撫でる。
そんな薄暗い部屋の中、ガチャリという音と共に光が差し込んだ。それに目を向けるとショックピンクの髪色が目に入り、彼の付けているヘアピンが光に反射してキラリと光った。
「あ、起きた?」
軽くそう言った彼はドアを閉め、鍵をかける。一緒なベッド彼は腰を下ろし、抵抗一つしない私と距離をつめた。優しく頬や頭を撫でられればさっきよりも思考が働かない。
「はは、かわいいよ桐♡押してだめなら引いてみろっていう桐のとこの言葉、本当に効果あったんだ 」
「俺嬉しかったんだよ。桐が俺を受け入れてくれて。やっと俺達両思いだね♡」
根も葉もないない勘違いに反論したいが言葉が出てこなかった。感情的なものではない。体が彼の否定を拒んでいるかのように言うことを聞いてくれないような感覚だ。
「あのカップケーキね。俺が作ったんだ。見た目を桐が好きそうなのに変えて、 ちょっと俺好みに隠し味を入れたカップケーキ♡桐専用だよ?桐のためだけに作ったんだ 」
不穏なセリフもこんな頭では危機を知らせてくれない。いや、多分そのまま伝えられても体は動いてくれないだろう。ベッドに座っていた私を押し倒し、組み敷かれると彼の頬が一層赤くなった気がした。
「両思いなんだから、いいよね?」
無言は了承とみなす。そんな理不尽な考えを尊重するオリバーはにんまりと笑い桐の唇に噛み付いた。
えちは……気力があったら書きます
コメント
6件
絶対見たいです!お願いします!
この先がすっごい気になります...!!オリバーさん...もっとやれ...()