⚠バトエン
誰も幸せになりません。俺得作品です。
赤い糸は外れないようしっかりと
突然だが、俺には運命の赤い糸とやらが見える。
「おはようございます。フェリシアーノ君」
「チャオ!菊!」
日本の化身。本田菊は30年前から付き合っている恋人だ。
WW2や冷戦の頃。糸は出会った時から見えていたものの、その時代は殺伐としていたからお互いの好意を明かさずにいた。でもそれが落ち着いた今、思い切って告白してみたらなんと返事はOK。もしかしたら、赤い糸が無くたって俺と菊は繋がる運命だったのかもしれない。それなら糸なんかに頼らずもっとロマンチックに付き合いたかったなぁ、なんて思う。だけど一方通行な思いじゃなかったことに安心したあの頃が懐かしく思えた。
「おい。会議は真面目に聞けフェリシアーノ」
「聞いてるよ〜?俺が起きてるだけでも褒めてほしいなぁ」
聞いてるはずがない。頭の中はさっきの回想とこれからの菊との結婚生活でいっぱいなのだから。溜息をつくルートを他所にフェリシアーノは頬杖をつき愛おしげに恋人を見つめる。彼のくるんの先はいつの間にかハートへと変わっていた。
濡れ羽のような綺麗な髪。ぷるんとした唇。綺麗に整えられた自然体の指先。宝石のような瞳。全部が愛おしくて食べちゃいたいと思うほど彼は本田菊を愛している。
だけど最近は都合が悪い。菊の空いてる日は俺の用事があるし、俺が休みの日は菊の用事がある。如何せん仕方のないことだが、大好きな恋人とこういう仕事上の場所でしか会えないことに不満を持たないはずもなかった。
それに最近、菊と疎開になってる気がする。
「昨日ピンクの薔薇が咲いたんだ。綺麗だろ?」
「えぇ、とっても可愛らしいです」
会議中にも関わらずアーサーのスマホを覗き込む2人。菊からアーサーに視線を移すと、あからさまに彼のくるんがハートから丸に変わった。
不満の原因は他にもある。お察しの通りこのアーサー・カークランドという男だ。俺と菊が頻繁に会う事が無くなった近頃、アーサーは菊とよく喋るようになった。元同盟国と言うだけあって2人は仲が良いし、そんな2人に嫉妬してしまう。菊のお友達として目をつぶっていたけど最近は2人だけで会ったりと、こうも言っていられない状況になっていた。
自分の小指の糸を見れば赤い糸がリボン結びで纏われていた。それは菊も同様に。繋がっていると分かっていても不安は消えず、久しぶりに2人だけで会おうとEUの会議は欠席した。
「今日はEUの会議では?」
「菊に会いたくて休んで来ちゃった〜」
「おやまぁ、」
縁側に腰掛け懐かしの湯呑みに入ったお茶を口につける。体の中がぽわぽわして、それはまるで菊を抱きしめてるあの時のよう。
「ねぇ菊。ハグしていい?」
既視感を感じる感覚に流されるまま横にいる菊の顔を覗き込み、そう言った。
彼がコクリと頷いたのを見てにっこりと笑う。自分より背丈が小さい、 くびれた彼の胴のあたりを横から抱くように引き寄せて優しく抱きしめた。ほのかに香るお茶の匂いと日本特有の匂い。そんな彼の匂いが大好きで。
「……長いです…フェリシアーノ君、」
「ん〜、もうちょっとぉ」
「だって俺達、最近こうやって会えること少なかったでしょ?」
納得したのか、彼は頬を赤らめ口をつぐんだ。彼の後頭部を自分の胸にしまうよう優しく手繰り寄せ、心地いい感覚に身を任せた。
「ん、ありがとう菊。お陰で充電満タンであります〜!」
「ふふ、私も充電満タンです」
ずっと抱きしめていたいところだが今日はそうもいかない。せっかく2人きりになれた休日。どうせなら菊ともっと喋って1日を終えたい。手を離し用意されたお茶に口をつけたら、菊が口を開いた。
「そういえば、昨日アーサーさん家に行ったんです」
「……え」
「桃色の薔薇が咲いたと、それで伺ったのですが、それがとっても綺麗で…。写真見ます?たくさん写真撮ってきて… 」
その撮った写真とやらを俺に見せようと、立ち上がろうとする彼を俺は引き止めた。いつも彼が着ている着物の裾を掴んだ俺に驚いた彼は、どうしましたか?と言うような表情を見せた。
「…………なんで」
「え?」
「なんでだよ。なんでアイツの話するの?俺菊に何かした?俺たち恋人だよね?」
「ふぇ、フェリシアーノ君…?」
「アイツ最低だよ。元ヤンだし三枚舌だし口悪いしメシマズだし。俺は確かにヘタレで頼りないかもしれないけど、だけど断然菊を愛してるのは俺だから!」
今まで溜まりに溜まっていた本音が洪水のように口からあふれ出た。急な俺の言葉に目をぱちくりさせた菊の顔を見ていたら、なぜか涙腺が緩む。
「俺たち、繋がってるんだよね…?」
涙が出てくるのを耐えながら発したため、震えたままの声でそう言った。当然ながら、赤い糸なんて見えてるわけもない菊は首を傾げるだけ。虚しい気持ちのまま、自分の問いを自分で確かめるため彼の小指に視点を移す。しかし、自己解決しようとしたその行動は解決には至らなかった。
初めて、だった。糸の先の色が変わるなんて。
「……え、」
当惑顔を浮かべる俺に菊は心配の言葉を投げかけるだけ。それもそうだ、菊には自分の小指に結われた青にかけ、俺の小指に結われた赤いグラデーションになった糸が見えていないのだから。昔に聞いた事があった。赤以外の……色の意味。青って…それって…。
「き、きく、菊は、俺のこと、好き…だよね?」
不安がどっと押し寄せてくる。恐る恐るとさっきよりも震えた声で問えば、菊は戸惑いながら言ってくれた。
「好きですよ。フェリシアーノ君だけです。今日はもう休みましょう?」
本当は引き止めて抱きしめたかったけど、今の自分のために便を手配してくれる菊の背中を見たら、そんなわがままは言えるはずもなかった。 胸に大きな塊がつっかえたように、気持ちがスッキリとしない。あの糸はなんだったのか。彼にのびた糸をもう一度辿れば、色は元通り真っ赤な色へと変わっていた。疲れているのだろうか。
(…友達だなんて、そんなね…)
最悪な可能性に目を背け、晴れた空を見あげた休日だった。
その後も菊とは予定が合わず、会ったのは結局6ヶ月後の世界会議だった。いつもの面々が顔を合わせ世間話を始める中、いつも会議開始後に来るはずのフェリシアーノは誰よりも早く出席していた。不自然に辺りをキョロキョロと見るあたり、人を探しているのだと誰もが察する。
しかし、いつもなら30分前に席についているであろう菊が、15分前になっても会議室に入ってこない。違和感を覚え会議室を出て廊下、食堂、仮眠室をてんで探し回った。これで最後にしよう。もしかしたらすれ違ったのかもしれない。そう思い、玄関前の大広間を見渡した。ギリシャ、ポーランド、インド、カナダ…… 菊。
愛らしい笑みを浮かべる彼の姿を目にし、嬉しさの衝動で彼に駆け寄った時だった。前にいる国で菊の隣が見えなかったんだ。菊の隣で彼と笑い合っていたのはあのアーサーだった。
うそ、うそうそうそ。
もしかして。糸を目で辿れば、俺と菊を繋がた糸は真っ青に染め上がっていた。
なんで、なんで。いらない。こんな糸いらない。ほしいのはこんな糸じゃない。
アーサーに手を振る菊に早足で駆け寄り、前のめりに菊の両手を掴んだ。
「きく、菊。なんで?好きって言ってくれたよね?嘘だったの?俺達、恋人なんじゃないの?そうだよね、?」
冷静さを失った自分は菊を問い詰める言い方しかできないし、無理に作った青ざめた笑顔しかできない。何のことだが理解できない菊は、1つだけ。確かに自覚したことを言った。
「……別れましょう。フェリシアーノ君」
その1言に、まるで床から生えた根っこに纏われつかれたように、俺は立ちすくんだ。菊と俺の指先には赤い糸、青い糸はおろか、糸すら繋がっていなかった。
「私、考えたんです。フェリシアーノ君、私といるたびに人が変わってって…」
いやだ。
「だから、貴方のためでもあるんです。少し…距離をおいた方がいいのではと、」
いやだ、いやだ。
新たに菊の小指から繋がっていた赤い糸が垣間見えた。その先の人物なんて、たかが知れてる。
「…うん、」
知れてるけど、悲しいけど、悔しいけど。菊が悲しんだらもっと嫌だから。大きい感情は胸の奥へしまった。 それだけ返事をすれば菊はにこりと笑う。
彼が会議室方面へ向かってしまうと、俺はしばらく動くことができなかった。どうしていいのかよくわかんなくて。体のずうっと奥のほうから心臓の鼓動がコトッコトッて鈍い音が聞こえて、手足がいやに重くて、口が蛾でも食べたみたいにかさかさして。駄目な考えが脳裏に浮かんで。
「…この糸、切ったらどうなるんだろう…」
長く伸びた菊とアーサーと繋いだ糸は、自分の前で弧を描いて徐々に離れていっているが、確かに自分の前にある。 駄目なのに、駄目なのに。 分かっているけど、本能には逆らえなかった。俺だけが知ってる菊の顔を誰かに知られるのが嫌で、考えるだけで癪に障るから。
俺は床に落ちている糸を優しく拾った。10センチぐらいの幅をあけて引っ張れば、赤い糸はプツンと音をたてて千切れた。
「ごめんね、菊」
ポツリと呟き、千切れた赤い糸を自分の小指に結んだフェリシアーノは、会議室へと向かった。その糸が青く染まり始めたのも知らずに。
「もしかしたら、赤い糸が無くたって俺と菊は繋がる運命だったのかもしれない。それなら糸なんかに頼らずもっとロマンチックに付き合いたかったなぁ、」
とか言ってたフェリだけど、最終的には赤い糸に頼ってんのが最高に萌えだと思います。
ちなみに青い糸の意味は安らぎを与える友人みたいな感じです。
コメント
7件
好きぃいいいいいいいいい!!すぎます!
あがあがががrfはううういあhfr(尊死) 恵んでくださってありがとう、、、!!🙃(๑•̀ㅂ•́)و✧
あぁぁぁぁぁ!こういうフェリ菊がタイプなんです!ありがとうございます!本当に!