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「大丈夫だよ、いつものことだから。」そう言って、笑顔を取り繕う、、取り繕ったつもりだった。だが、兄の瞳に映る僕は【泣いていた】。
自分でも何で泣いているのかわからない。、、、分かりたくもない。
必死に涙を抑え、「お母さんがさっき呼んでたよ」精いっぱい口角を上げて。
今はとにかく、兄を僕から遠ざけたかった。
この人が近くにいると、眩しくて眩しくて仕方がない。
僕なんかを助けようとしてしまう彼が、憎くて憎くてたまらないのに、突き放せない。
そんな彼の太陽みたいな光に照らされていると、自分がいかに、惨めで、汚くて、醜くて、醜悪かが、身に染みて分かってしまう。
ナツメの指先が雪の腕の包帯に触れた。
冷たい指先が、血の匂いを纏った肌に触れると、雪は小さく震えた。
「いつものことって…」ナツメは低い声で呟いた。「雪が泣いてる顔、初めて見た」
雪の目から零れる涙を、ナツメは無言で見つめた。彼の瞳には、冷酷なはずの表情に似合わぬ温もりが宿っていた。
「母さんが呼んでたって?…あいつらはお前のことなんて考えてない、ほっといていいんだよ」
ナツメは雪の髪を軽く撫でた。「俺が…ここにいる。いいか?」
「にいちゃん、、」安心したのか視界がぼやけて行く、何でだろう、あたまが回らない、、もういい、考えるのもめんどう、、だ。視界が完全に真っ暗になる。暗い海の底に体が沈んでいくような感覚だ。、、、誰か僕を呼んでる?、、気のせいか、、。
ナツメは雪の名前を呼んだが、返事はない。意識を失った弟の体を抱きかかえ、冷たい床に膝をついた。
「…にいちゃん?」
雪の唇から漏れた小さな声に、ナツメは胸が締め付けられるような感覚を覚えた。彼の手首にはまだ血が滲み、薄暗い部屋に漂う鉄の匂いが鼻を刺す。
ナツメは雪の髪を撫でながら呟いた。「こんなところで一人で死ぬつもりか」
彼の声は冷たく聞こえるかもしれないが、その手は優しく雪の体を支えていた。
「…俺がここにいる」ナツメは雪の耳元で囁くように言った。「目を開けてくれ」
彼の指先が震えていた。普段は感情を見せないはずのナツメの瞳には、初めて見せる揺らぎがあった。
目を開けると、天井が白い。頭の横で鳴る心電図の音。
ようやく自分の位置を認識した。あの両親が病院まで運んだのか。
珍しいと思ったそれと同時に少し、、少しだけど嬉しかった。
だが、次の母親の一言で、現実へ引き戻される。
「迷惑かけないでよね。あんたがいなくなったら、家の掃除誰がすんのよ、入院費くらい自分で払ってよね」
母の隣でゴミを見るような目で僕を見る父。そうだ、こういう家族だった。
なに、夢物語を想像してるんだろうと自分でも馬鹿馬鹿しくなってきた。
「すみません、すぐ治します。入院費もお支払いします」
母を怒らせないよう、精いっぱい心を込めて伝える。医者が戻ってくると表情を変え、「お大事に」と笑顔で去る母が、恐ろしく感じた。