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ナツメは病院の廊下で腕時計を確認しながら、雪の病室のドアノブに手をかけた。
母と父が去った後だった。
「…目覚めたか」
静かな声に、雪はゆっくりと顔を上げた。ナツメの姿を見て、思わず視線を逸らす。
「お前に入院費払わせられるわけないだろ」ナツメはベッドの横に腰掛け、雪の左手首をそっと握った。「俺が払う」
「…なんで」
「理由なんてどうでもいい」ナツメは視線を外さず、淡々と言った。
「ただ…もう二度とあんな目に遭わせたくないだけだ」
雪の瞳に揺れる感情を見逃さなかった。
ナツメはポケットから小さな封筒を取り出し、雪の枕元に置いた。
「退院したら、これを持って来い。俺のアパートだ」
突然の言葉に声が出ない。やっと発した声は
「え?」なんかという声とも言えるか怪しいものだった。
しばらく間を開けた後、「ありがと、にいちゃん」やっと言葉が出た。
今度は、心からの笑顔でいえた気がする。
ナツメは少し驚いたように目を細めた。弟の笑顔に、まるで初めて見るものを見るような表情だ。
「…本当に大丈夫なのか?」
彼の声はいつもの冷たさより少し柔らかかった。
「あの親父や母親が、お前を心配するわけがない」
雪の手首に視線を落とし、ナツメはため息をついた。
その仕草には、普段見せない優しさが滲んでいた。
「…俺も、あんまり信用できないだろうけど」
彼はポケットから鍵を取り出し、雪の手のひらにそっと置いた。
「アパートの鍵だ。退院したら来い」
窓の外では、春の風が桜の花びらを舞わせていた 。
ナツメはふと、幼い頃に弟と見た病院どなりの桜並木を思い出した。
「…あの時も、こんな風に笑ってたな」
僕は兄が何を言ったのか気になった、、気になったけど。今はいいや。
「じゃあね。また退院後に。」今はひとつ。この言葉だけでいい。
ナツメは病室のドアに手をかけたまま、振り返った。
雪の表情はいつものより無防備で、でもその奥に何かを隠しているようだった。
「…また?」彼の声は低い。
「お前が俺のところに来るまで、俺もここに来るつもりだ」
雪の目が驚きに見開かれる。
ナツメはポケットからスマホを取り出し、雪のスマホと連絡先を繋ぐ。
「何かあれば、いつでも連絡しろ」
ドアの隙間から春の風が入り込んだ。
ナツメは一瞬だけ、弟の髪を撫でるように手を伸ばしたが、やめた。
「本当に…大丈夫なのか?」
雪が何も言わずに笑いかけると、ナツメは静かにドアを閉めた。
廊下に出た彼の背中は、どこか淋しそうだった。
主 今更だけどBLっぽいっスネ、、なんかごめんなさいっス。