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凛の入院は一週間ほどで終わった。
検査では何の異常も見つからず、医師は”ストレスかもしれないですね”と曖昧に微笑んだ。
でも凛自身には、分かっていた。
あの発作は、ただの体調不良ではなかった。
ベッドの上で、ふと目を覚ましたとき。
夢の中で、誰かに鍵を渡された。
“これで終わりじゃない、これでまた始まるの”
そう言った声が、確かに聞こえた。
夢の中で泣いていた自分。
誰かに縋っていた自分。
胸の奥がずっと、痛かった。
退院してすぐ、凛は敬太を公園に呼び出した。
あの日、ふたりが初めて出会った場所。
「ねえ、敬太くん……」
凛はぎゅっと手を握りしめて言った。
「私、本当は“凛”って名前じゃない気がするの」
敬太は静かに、でも確信を持って言った。
『うん。俺も、自分のことを“敬太”じゃないって思う時がある』
風が吹く。
木々の葉がざわめく音が、ふたりの沈黙を包む。
『“美咲”って……名前、聞いたことある?』
凛の瞳が大きく見開かれた。
「……ある。ずっと、誰かがその名前を呼んでる夢を見るの。それに……“良規くん”って、声も……。」
敬太は小さく頷いた
「俺も。君を見たときから、ずっと心の中で“美咲さん”って呼んでた」
『敬太くん……。』
「いや、違う。多分……俺は、“良規”って名前だった……。」
2人は、そっと手を重ね合った。
その手の温もりは、初めて触れたはずなのに、どうしようもなく懐かしかった。