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「―――『何がなんでも全力で叩き斬る!』」


本物の魔術師である”沙夜乃”とその補佐役の”羽枝”。 “東京大規模魔法事件”を起こした人物達と”未熟な妖術師”、二人と僕の実力差は一目瞭然。実力差が丸分かりなこの状況でも、”戦う理由”がそこにはある。

そして、この”狂刀神ノ加護”はあの時と少し違う。刀に術を付与するのでは無く、”自分の身体”に憑依させる事で更なる力を得る。

だが、狂刀神を自らの身体に憑依させるのは”ほぼ自殺行為”と言っても過言では無い。本来は刀に付与する為の術が故に、その威力と妖力は通常の術に比べて桁違い。それを身体に移すとなると、妖力と精神の混合に耐えきれず、死に至る可能性が高い。

協力者を呼びに行った惣一郎が帰ってくるまで、時間を稼ぐ予定だったが―――戦友が目の前で殺されたんだ、戦うしかないだろう。


『その通りだ、お前―――否、俺は戦う事だけを考えろ。なァに、満足すると言うまで力は貸してやる。いざとなった時は最大級の手助けもしてやる。だから”戦え”、この狂刀神に敗北は無いとその身を以て体験しろ』


心の奥底から、何者かが語り掛けてくる。その声は何処か安心感がある様な、懐かしい気分になる。


「”俺”が来たからには容赦せん。『空間転移魔法』だろうが何だろう全て俺が斬り伏せてやる」


影から『太刀 鑢』とは別物の、ドス黒い色をした刀が姿を現す。それは全ての『最悪』と言う概念を重ね合わせた様な代物。扱える人間がこの世にいるならそいつは―――最高に狂った神、くらいだろう。


「”無銘・永訣”。これが俺の刀だ、『太刀 鑢』よりも過去に創られた名刀。お前達は200年振りに拝めた人間として、神の歴史で語り継がれる事になるだろうな」


刀の柄を強く握り込み、沙夜乃と羽枝に見せ付ける様に手に取る。見ていた沙夜乃と羽枝はその場から動こうとしない。威力と能力が分からない以上、攻撃するのは無謀だと思っての行動だろう―――が、それは完全な間違いである。


「………その錆刀が何だって?それに200年振り?貴方は何を言っているのかしら。全く、最近の若い男と言うのは虚言癖が多くて困っちゃうわね」


扇子で口元を隠しながら女は言う。喋り方からして、あの扇子の下は笑いを堪えるのに必死な表情をしているのだろう。


「フッ…フフフッ…クハハハハハハハッ!!この刀を錆刀と言ったか、ある程度の実力者ならば強さを見抜いて戦慄しているぞ!」

「それが分からんとは、やはりこの刀を使うまでもない―――が、折角200年振りに顕現させたのだ!一度だけでも使ってやらねば可哀想というものよ!」


「さぁ、存分に足掻け!この狂刀神の前に跪くが良い!」


何かを感じた沙夜乃と羽枝が、深刻そうな顔をしながら僕に攻撃を仕掛ける。

沙夜乃は”転移魔法”を使用し、全方位から車やコンクリートの壁などを、僕の居る方向に向かって転移。羽枝はそれよりも速い動きで僕に近づいて、渾身の一撃を喰らわせようとしている。

だが、全て遅い。

一つの破壊漏れも許さず、周囲に有った物体が全て切り刻まれる。転移魔法で放たれた物体も全て真っ二つにされ、僕を避けて飛んで行く。沙夜乃は驚いた表情をしている。


「次」


僕の声と同時にコンマ数秒遅れて、羽枝の打撃が顔面目掛けて飛んで来る。恐ろしく速く、一撃で全てを終わらせようとしている拳だ。だが、それも無意味。

羽枝の肘から下が一瞬にして消失し、僕は羽枝の頭を持って地面に叩きつける。ゴシャと鈍い音が鳴り、羽枝はピクリとも動かなくなる。

―――この間、約3秒。

相手の攻撃を全て受け流した挙句、相手を一人行動不能にした。これは人間が出来る業じゃない。


「………………悪いわね。羽枝無しで戦いを挑むほど、私は馬鹿じゃないのよ。その子を回収して一度退くことにするわ」


沙夜乃が転移魔法で羽枝を回収しようとした瞬間が、一番油断しているタイミングだ。

一歩踏み出す音が豪快に鳴り響き、『無銘・永訣』の先端が沙夜乃に触れる。少し遅れて羽枝を抱えた沙夜乃が僕から距離を取り、焦った表情で僕に向かって物体を沢山転移させる。

数が多すぎて『無銘・永訣』だけでは捌ききれないと判断した僕は『太刀 鑢』と同時に、刀を2本使って迫り来る物体を切り刻む。切り刻んだ物体は、周囲に隠れていた偽・魔術師達に当たって行く。


「クハハハハハハハハハハッ!!面白い、面白いぞ!」


高らかに笑う声とは別に、物体が放たれる位置から呻き声が聞こえる。負傷者一人を担ぎながら後ろに移動しつつ魔法を使用しているのだ、相応の負担が掛かっているに違いない。だからと言って、益々見逃す訳には行かない。


「その身体が限界を迎えるまで、幾らでも追い掛けてやる!精々攻撃に励む事だな!」


沙夜乃が手を翳した瞬間、二人の姿が消える。一瞬の出来事に脳が混乱するが、僕とは別の人物がほぼ強制的に理解する。沙夜乃が手を翳した先、この都市部の中で一際目立つ”ビルの側面”。


「ふむ、あの一瞬で離れた場所に転移出来るのは便利なモノだ。しかし、俺には無意味だと言う事が何故分からん!」


重力に逆らいながら、沙夜乃がビルの側面を駆け上がる。恐らく、空間支配の能力を使用しているのだろう。

だが、狂刀神は”狙った獲物を逃さない”。

沙夜乃と同じように、ビルの側面を僕は駆け上がる。足のつま先から影で鉤爪の様なものを生成し、一歩踏み出す事に食い込むのを利用する。空間支配より難しく、難易度が高い方法だが今の狂刀神ならこの程度、朝飯前だ。

それでも、沙夜乃は攻撃を続ける。転移先から放たれるのは近くにあった歩道橋の一部、今度は重力に従いながら落下してくる。歩道橋から分離した瓦礫がビルのガラスと接触し、ガラスの破片が歩道橋と同じ速度で降り注ぐ。

全てを刀で捌き切るのは不可能。なら、


「―――月封!!」


複数の敵を一箇所に集めて封印する術、発動。これは妖の男を倒した後始末に使用した術。まさか此処で再び使う事になるとは。

降り注ぐ物体の全てが一箇所に集まり、お寺の鐘と同じ大きさの丸い球体が完成。『無銘・永訣』でソレを一刀両断。半球(2個)はそのまま僕を避けて落下して行く。と同時に、再び物体が迫り来る。そしてまた同じ方法で破壊する。これを何度も何度も繰り返す。

沙夜乃がビルの頂上付近に到達したのを確認し、僕は最後の術を展開する。


「余興はここまでだ、この一撃で終いにしてやろう!何、生死を彷徨う時間など与えん。俺を楽しませた褒美として有難く頂戴しろ」


ドス黒い色をしていた『無銘・永訣』が、本来の色を取り戻す。まるで透き通る様な、一枚のガラス細工で創られた刀身が姿を現す。

“ソレ”は選ばれた神のみが保有出来る神器であり、保有者自身に多大な影響を及ぼすとして恐れられていた凶器。しかし、現在の無銘・永訣は模造品。レプリカに過ぎない。だが、威力や能力は受け継がれ、200年の時を渡った。


「陰と陽が分かつ時、終局点に至る数多の神が再び顕現する。”陰”は無銘・永訣。”陽”は太刀 鑢なり。狂刀神の名において、我の前に姿を現す事を赦す!」


無銘・永訣と太刀 鑢。

二本の刀が重なり混ざり合い、一本の神器が現れる。それはかつて狂刀神が所持していた、模造品とは比にならない『原初(オリジナル)』。その名は誰も知らない。神々が保有する神器の名を知ればその身が崩壊し、神に裁かれると言い伝えられている。


「―――久しいな、原初オリジナルを手に取るのは何千年振りだろうか。あの頃とは少しだけ姿形は違えど、中身は変わらんな。……そうだな、今は余韻に浸っている場合では無いな」


狂刀神と現在進行形で一体化している僕でさえも、この刀の名前を知らない。知る事は許されない。そうだな、『狂想刀・黒鶫』とでも呼んでおこう。

そして、全てを終わらせる為に。”狂想刀・黒鶫”を沙夜乃に向けた状態で、詠唱する。これは妖の男を倒した時と同じ、


「「―――氷解銘卿。」」


“狂想刀・黒鶫”の刀身から黒いモヤが大量に放出され、上空200m半径170mの範囲にある全てが氷結する。一瞬にして辺りが冷気に包まれ、ビルが限界を迎えて崩壊し始める。

沙夜乃は僕の氷解銘卿が完全に展開する寸前で『空間支配』を使用し、範囲外へと回避する。


「今のを回避するか!俺からの褒美を受け取らぬとは、不敬な奴め!」


「私だってまだ死にたくないのよ!それに羽枝をここで死なせない為にも―――っね!!」


崩壊したビルの瓦礫や鉄筋が僕を中心に、大きな円を描きながら辺りを囲む。

ソレは完全に僕を取り囲んだ後に、中心部に向けて一斉に移動を開始する。だが僕もこの程度で倒される程貧弱では無い。


「―――強制肉体強化」


今の僕は狂刀神のお陰で妖力が無制限と行っても過言では無い。故に、術を連発する事が可能だ。

強化された体が放たれる物体を”狂想刀・黒鶫”で斬り落とす。僕の体に命中するよりも、物体がその場から移動するよりも速く。この世の理を超える速さで。


「クハハハハハハハハハハッ!この程度か、魔術師ィ!! 」


切り刻んだ瓦礫を足場に、沙夜乃までの距離を一気に詰める。”狂想刀・黒鶫”を構え、沙夜乃から放たれる攻撃に対応しつつ、僕は沙夜乃の首を狙う。ここで仕留めなければ、正智の死も惣一郎の協力も全て無駄になる。

殺す、絶対に。僕の手で終わらせる。

斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ斬れ!! 斬―――


「あ……。」




ブツンも音を立てて、何かがちぎれた。

体に力が入らない。刀を握っていた手も、沙夜乃を殺さんと動いていた脚にも。 僕の身体は限界を迎えていた。

狂刀神の憑依による疲労、重ねて妖術の連発に、強制肉体強化。これら全ての反動が、突然訪れた。

空中でバランスを崩し、僕は地面に向かって落下して行く。態勢を整えようと体に力を入れるが、やはり動かない。やっとここまで来れたのに、あと一歩の所まで行けたのに。


「……………」


声も出ない、声帯にも力が入らない。だが、 辛うじて目だけは開いている。

その目に映った景色は絶望だった。

沙夜乃が満面の笑みで此方に手を翳している。力を失った僕にトドメを刺そうとしているのだろう。転移させられた大型トラックが、僕より速く落下する。避けるのは不可能。

妖術を展開しようにも妖力が足りない。狂刀神の残滓は何処からも感じられない。

迫り来るトラックを僕はただ呆然と見る事しか出来ない。

そう言えば、一回目の遡行と時もトラックが原因だったな。あの時の痛みとこのトラックに潰される痛みは、どの位違うのだろうか。

そんな事を考えながら、僕の体とトラックが接触し、そのまま地面と衝突する。苦しむ事無く、即死の状態で僕はまた”死んだ”。













「クハハハハハハハハハハッ!この程度か、魔術師ィ!!」


自分の声で、意識が覚醒する。

切り刻んだ瓦礫を足場に、沙夜乃までの距離を一気に詰める。”狂想刀・黒鶫”を構え、沙夜乃から放たれる攻撃に対応しつつ、僕は沙夜乃の首を狙う。

―――ターニングポイントの更新、予想よりも死ぬ時間と近い。 死んだ事に対しての不快感等はある。だが今はそれ所では無い。

今僕がするべき事は、



「身体を返して貰うぞ、狂刀神」


身体の所有権を狂刀神から奪い取る。

予想外の出来事に狂刀神が困惑し、今にも怒り出しそうだ。身体から切り離され、意識だけの状態になった彼を無視して僕は沙夜乃から距離を取る。逃げられてしまう可能性があるが、沙夜乃より先に相手をしなければならない相手が―――


『―――貴様。何故俺を身体から切り離した。あのまま攻撃を続行していれば確実に殺せた。なのに何故だ』


「何故も何も、気づかないのか?神ともあろう人物が異変に気づかないのか?」


『貴様ッ!この俺を愚弄するか!良い、ならば貴様諸共―――』


「―――あのまま戦いを続行していたら、僕の体は限界点を越えて死んでいた。今のお前なら分かるだろ、この体が悲鳴を上げてる事を」


『何を言う!俺は常に万全な状態で挑んで………………っ!?』


「……だから、言っただろ?」


狂刀神は黙り込む。少し落ち着いて冷静になった彼は、僕の身体の異変に気づいたのだろう。妖力は万全だがそれに追いつく体が容量上限いっぱいの状態なのだ。

あの時死んだのも、莫大な妖力に耐えきれなくなった筋肉と心が一気に崩壊したのが原因だ。恐らくその際に、狂刀神の精神も消失した。

だから、限界点を越える手前で僕はブレーキを強く押し込んだ。狂刀神と言う暴走車を止める為に。


「………なんだか良く分からないけど、チャンスって奴ね。悪いけど私はここから逃げさせて貰うわ」


沙夜乃が真横に手を伸ばした瞬間、姿が消える。僕からなるべく距離が取れるかつ、羽枝に応急処置を施せる場所へ移動したのだろう。

今すぐ追ってあの首を斬り落としてやりたい。だがその為には―――


「これ以上の妖力摂取は死に関わる。………と言ってもお前がこの体に憑依している間は妖力が大量に流れ込んでくるけどな」


『ならばどうする。俺をこの体から取り除くか?それも一つの手だが、貴様一人で沙夜乃に勝てるのか?』


「―――取り除くなんて事はしない。それよりももっと簡単で単純な事をすれば良い」


今、話しをしているこのタイミング、現在進行形で妖力は増え続けて、上限を突破しようとしている。増え続けるモノを減らすにはどうすればいい?


「―――増えるより早く妖力を消費すれば良いんだよ。さっきまでの僕は妖力枯渇を恐れて術展開を控えていたが、有り余ってると聞いたからには手加減しない」


『俺と交代しなくて良いのか?』


「お前に渡すとまたいつ崩壊するか分からないし、”狂想刀・黒鶫”を持っていても俺の体に異変は無い。それに戦闘途中途中とは言え、もう満足した……このままで行く」


『………”満足するまで手を貸す”だったな。俺の出る幕はここまでと言う事か。もう少し堪能したかったが、まぁ良い』


「―――さて、死の原因も突き止めて対策も出来た。出し惜しみは無しだ、2度目の”フルスロットル”で行くぞ」


上限いっぱいの妖力を全開放して、術を連発する。無意味な術さえも使用しながら沙夜乃を追う。

死因のひとつに、妖術の使い過ぎも含まれていたが、”疲労と重なった”事で僕の体は動かなくなった。つまり、”疲労状態”にならなかったら良い。


「体全体に”治癒の術”を施す!妖力無視の自由攻撃なんざ1回もやった事ないけど、遠慮なく!」


狂刀神ノ加護。神霊能力付与。心眼。治癒の術。視野拡大。直感。回避の術。 氷解銘卿(障害物破壊用)。焼炙。鑢・魔獣。身体強制強化。月封(障害物収集用)。周囲探査。感覚共有(鑢・魔獣)。

最早、説明不要の狂刀神ノ加護+神霊能力付与。

人がなにかをしようとする時、魔力の流れとなって現れる術、心眼。

死因の一つでもある”疲労状態”を回復し続ける為の治癒の術に、 捜索範囲を広げる為の視野拡大。

攻撃を受けた際に直ぐ回避出来る直感、回避の術。

移動中に邪魔な障害物を凍結させ破壊する、氷解銘卿。

空中移動の際の加速に必要な焼炙に、地上に群がる偽・魔術師討伐及び沙夜乃の捜索用の鑢・魔獣。

移動速度を上げる身体強制強化、破壊した障害物を邪魔にならない場所へ集める月封。

沙夜乃を探す為の周囲探査、鑢・魔獣から送られてくる情報を処理する為の感覚共有。


「―――魔術師は、僕の手で確実に殺す」


狂刀神の力とは言え、この場において最も力を持つ者はただ一人。日本最強の妖術師と呼ばれるこの男。

ラウンド3、開幕。


第一章 7 ③ に続く

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『遡行禍殃』第一章 7 ②を読んで頂きありがとうございます。タイトルは前話同様『vs魔術師戦:序』です。

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