「ま………」
飛び出る前にきんときの声がハッキリと聞こえたが、ドアを勢いよく閉め、聞こえないふりをした。
飛び出したはいいものの、何処に行くべきか。昼休みは幸い、校庭や図書室、中庭など行ける場所が多い。
きんときが僕にあの言葉を発した理由は分かる気がする。きんときは共感生が高い。人が苦しんでいたら自分も苦しそうな顔が出来るのだ。父親が目の前で轢かれたことに感じてしまったのだろう。
「自分が轢かれれば良かった…って。……そしてそれを僕が止めた。恨むところは僕しかないよね。」
何故だか僕はいつも通り。いや、いつも以上に冷静だった。自分が救うつもりでいた人に、ああやって言われても。
…今日は帰ろう。きんときも僕とは顔を合わせたく無いだろうし。
行く場所を決め、保健室に向かって歩き出す。
「誰かを傷つける人にならないで……か。…僕には無理だったみたいだよ。」
僕の願い……彼の願いを僕は叶えられなかった。誰かを傷つけてしまった。
その事が頭にずっと響き渡っていた。
ずっと考えていたって状況は動かない。僕はいつのまにか着いていた保健室の扉を開く。
「…誰、お前。」
「…っ!?え、あ、居たんだ……。」
声をかけてきた人こちらを向く。紫のつり目。片手には本が収まってたが栞を挟み、机に置いている。
その人はシャーペンを取り出していた。
「質問の答えになってないんだが。」
「あ、ごめん。僕はBroooock。」
「何年。」
「さ、3年です。」
「なんで最高学年なのに敬語になってんだよ…。」
「あ…。というかそれで君はタメだから3年?」
「想像の通り。で、来た理由は?」
「あれ、保健委員じゃないよね?」
「今日担当の委員が休みなんだよ。俺が先生に代わり頼まれてる。」
「あれ、先生は?」
「入口の扉見てないのか?職員室だよ。」
「見てなかった……。あ、頭痛なんだ。出来れば早退したい。」
「…ほんとか?」
「っ……!?」
目の前の相手が顔を上げ、僕の視線と視線をぶつける。なんで分かったのだろう。ただ、ここでクラスに戻る訳にはいかない。話した方がいいか?いや…それだときんときのことも話してしまうし………
「…なんでもない。」
「え…。」
言及せず、紙に『早退』の文字を刻んでいくその顔は、少し雰囲気が重くなった気がする。
直ぐに先生が来て、早退の準備が進められた。彼には目すら合わせられなかった。
「Broooock君支度はしてある?」
「はい。」
「じゃあ、教室に荷物取りに行ける?」
「え……。」
…そうだ荷物クラスに置いたままだった。僕にはクラスに戻れる勇気なんてない。
「先生。俺が荷物取りに行きましょうか?」
「スマイル君じゃあ………いいえ、先生と二人で残るのは気使うでしょう。先生が行くわ。」
「分かりました。」
「あ…ありがとうございます!」
先生はにこりと微笑み、保健室を出た。
「先生気使うの上手いんだよ。」
「え、あ…。」
「そういえば言ってなかったな、俺の名前はスマイル。」
「スマイル…?」
スマイルといえば、隣のクラスの不登校…いや保健室登校の……
「…想像してる通りだと思うよ。」
「………ねぇ。」
「…なに?」
何を思ったのだろう。何を言おうとしているんだろう。ただ咄嗟に声が出た。
「分かってるの…?僕の悩み。」
さっきまでの行動が、分かってるようにしか思えなかったのだ。
「分かる訳ないだろ。なんとなくだよ。」
「…そっか。」
分かる訳も無いのは、承知していた。スマイルは察しが良いのだろうか。
スマイルに悩みがあることはいつからか…察していた。
話しかけられることも話すことも無く、会話は途絶え、荷物を持った先生が来た。
「Broooock君。親御さんに渡すプリントが入ってるからね。忘れないでね。」
「はい。ありがとうございました。」
先生に軽くお辞儀をしたあと、スマイルに近づく。
「スマイル。」
「………」
「また…来るね。」
「…ああ。」
彼の悩みこそは救ってあげたいな。
そんな思いは胸に秘め、保健室を出た。
「Broooock君と仲良くなったの?」
「…まぁ。」
「…そう。」
例え嘘でも、俺にはそれを指摘する権利なんてない。あいつが何を抱えていても、追及する権利はない。
また来るね………か。
「ここは…来ない方が健康なんだけどな…。」
この呟きが、聴こえるわけがないのに。
コメント
11件
楽しみや泣きそう
体調不良のフリ!1、2年の時よくしてた!(ダメだろw)
..........保健室.....勝手に何も用事ないのに行くと怒られる((当たり前