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翌朝。
まどかは、
いつもと同じ道を通って学校へ向かった。
角のパン屋。
信号待ちの交差点。
少し欠けた歩道のタイル。
全部、変わっていない。
なのに、
どこか距離があった。
教室に入ると、
いつものざわめき。
「おはよー」
「宿題やった?」
「今日の体育、めんどくさくない?」
聞き慣れた声。
まどかは、
笑って返事をした。
ちゃんと。
いつも通りに。
席に座る。
机に刻まれた小さな傷。
消しゴムのかす。
少し斜めになった椅子。
今まで、
気にも留めなかったもの。
それが、
急に目に入る。
黒板の前で、
先生が話している。
クラスメイトが、
手を挙げる。
誰かが、
小さく笑う。
その全部が、
「自由」だった。
声の大きさも、
姿勢も、
表情も。
揃っていないことが、
当たり前。
休み時間。
友だちが、
机に肘をついて言った。
「ねえ、
中学終わったらどうする?」
「高校?」
「うん。
なんとなく、近いとこかな」
まどかは、
一瞬だけ言葉に詰まる。
「……まだ、分かんない」
そう答えた。
嘘ではなかった。
ただ、
今までとは違う
“分からなさ”だった。
窓の外を見る。
校庭では、
部活の準備をしている生徒がいる。
走っている子。
ふざけている子。
怒られている子。
バラバラで、
雑然としていて。
それが、
なぜか少し、
愛おしく見えた。
鈴蘭学院なら、
きっと、
こうはならない。
整えられる。
揃えられる。
正しく、なる。
それは、
悪いことじゃない。
でも――
チャイムが鳴る。
まどかは、
ノートを閉じた。
いつもの学校。
いつもの日常。
それが、
いつか終わるかもしれない。
そう思っただけで、
胸の奥が、
少しだけきゅっとなった。
選ばれる前の日常。
それは、
もう戻れないものに
なりつつあった。