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2 - 第2話 笑えるようになって欲しい

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2025年10月15日

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最初の数週間、エレノオールはほとんど口を開かなかった。

呼びかけても、ただ静かに会釈するばかり。

眠るときも起きるときも、まるで存在を隠そうとするように静かだった。


けれどある日、私はこらえきれずに尋ねてしまったの。


「ねぇ、あなたはどうして笑わないの?」


私の問いに、彼女は少しだけ驚いた顔をした。

まるで、そんな質問を受けたことがないような表情だった。


……笑ってはいけないと、思っていました」

「どうして?」

……売られた身の者が、幸福な顔をしては罰が当たる、と」


その言葉を聞いて、幼い私は胸の奥がちくりと痛んだ。

罰。幸福。そんな言葉を、彼女のような年の子が知っていること自体が、哀しかった。


私は机の上にあったリンゴを手に取り、二つに割る。

それを片方、彼女の手に押しつけるように渡した。


「笑って。リンゴを食べるときは、笑うものですわ」


そう言って無理に笑ってみせると、エレノオールはほんの少し戸惑ったように私を見た。

そして——その唇が、かすかに震え、

まるで初めて光を受けた花のように、ゆっくりと笑ったの。


あの日の彼女の微笑みは、幼い私の胸に焼きついたまま、消えない。

たとえこの先どれほどの闇に沈もうとも、あの瞬間だけは——確かに美しかった。

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