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あれは、まだ春が幼かった頃。
庭の梅が咲きはじめ、礼拝堂の窓から差し込む光が、まるで天使の羽のように白く揺れていた。
私は聖書を読むふりをしながら、隣に立つエレノオールを見ていた。
祈りの姿勢を取る彼女の横顔は、まるで聖母像のように静かで、美しかった。
けれど——その美しさを言葉にしてしまうことは、罪に思えた。
「……お嬢様?」
彼女が私の視線に気づき、小さく首を傾げる。
私は慌ててページをめくった。
「な、なんでもありませんわ。ただ——あなたの髪が陽に照らされて綺麗だと……」
言い終えた瞬間、顔が熱くなるのを感じた。
エレノオールは少しだけ驚いたように目を瞬かせ、それから穏やかに微笑んだ。
「ありがとうございます。ジェーン様は、いつも優しい」
優しい——。
それは、友に向けられる最も平凡な言葉。
なのにどうしてだろう、その瞬間、胸の奥がひどく締めつけられた。
私は祈りのポーズを崩さぬまま、そっと目を閉じた。
願うのはただ一つ。
——もし神が本当にいるのなら、この想いを罰としてではなく、祝福として赦してほしい。