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「じゃあ、また」最後にマチコを降ろした。彼女は飲んだ割には平気な顔をしている。
健太はシフトノブをリアに入れると、エンジンが逆回転を始めた。ヘッドライトは同じところを照らしたまま、車体が後退を始める。
「道、違うんじゃない?」
振りかけた手を止めて、マチコがフェスティバに駆け寄ってきた。
「ツヨシ君ち行くんなら、そっちじゃなくてこの道真っ直ぐだよ」学校へ行くときのバス停がこの先にあるから、間違いないという。
健太はクラッチを切って、ギアを一旦ニュートラルに入れた。
「そのためには、やっぱり一旦後ろへ下がんなきゃなんないんだよ」
「どうして?」マチコは健太のいる運転席の目線へ身をかがめた。
前へ進もうともがいたら、行き止まり道ばかりだったんだ。風の吹くほうに流れてね。一旦バックしないと進めない道もあるんだよ。俺、この一ヶ月で痛いほどわかった。ほら、ここへ来るときも丘を一つ越えただろ。そしたら、やっとここまで来れたんだ。今回よく分かったんだ。
「頭の中、大丈夫?」
マチコは半窓から手を伸ばし、健太の額に置いた。奈々の手よりもひんやりしている。
彼女は手を離そうとしない。
「じゃ、また明日」健太はギアをもう一度リアに入れた。マチコはようやく手を離した。
大通りのガソリンスタンドで満タンにすると、エンジン音に高音が効いて、タイヤの回転が別物のようにシャープになった。すいている道の上を、街灯がやってきては消えて、消えてはやってくる。三度目の携帯に、健太はフェスティバを路肩に寄せた。電話の主はミンだった。
「マッチャンから連絡があったんだよ。君の様子が少し変だって」
「でもさっきの俺、変に見えたか?」
「別に」
「そういうミンこそ、もう酔いは醒めたのか?」
「それを言わないでよ。さっき送ってもらったとき家の前まで出てきた僕のおじさんいたでしょ? あのあとピシャッと言われたんだから」
未成年に酒はやっぱりまずかったな。
「みんなと飲むなら、家から韓国のソジューくらい持ってけって。あの様子だとそのうちおじさんも顔出すよ」
ミンの呂律はまだ定まっていない