テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
6,248
「……よかった、って」
赫の声は、低かった。
怒鳴ってないのに、
部屋の空気が一気に張りつめる。
翠は、びくっと肩を揺らす。
「……それ、本気で言ってる?」
赫は一歩、前に出た。
近づきすぎない。
でも、逃げ場は残さない距離。
「俺がさ」
喉が、ぎゅっと鳴る。
「俺が苦しいって言った時」
「守られて、囲まれて、心配されて」
一瞬、言葉が詰まる。
「……その裏で」
「翠にぃが、そんなことしてたって……」
拳が、震える。
「……ふざけんなよ」
初めて、感情が剥き出しになる。
桃が息を呑む。
茈は、止めない。
「俺のため?」
「みんなのため?」
赫は、笑いそうな顔で言う。
「それで……」
「自分が壊れてもいいって?」
翠が、小さく頷きかける。
───それが、決定打だった。
「んなこと、すんなよ!!」
赫の声が、初めて大きくなる。
「そんなの……」
「そんなの、翠にぃの役目じゃねぇだろ!!」
翠の体が、強く震える。
「俺は……」
赫は、唇を噛みしめてから続けた。
「俺は……」
「翠にぃが、いなくなる方が……」
声が、裏返る。
「……よっぽど、怖いんだよ……!」
その言葉に、
翠の目が、初めて大きく揺れた。
「……命なんてどうでもいい、って」
赫の声は、怒りよりも、
後悔に近かった。
「そんなこと言われたらさ……」
「俺、どうしたらいいんだよ……」
沈黙。
黄が、そっと前に出る。
「……赫」
でも、赫は首を振る。
「……ごめん」
翠に向けて、言う。
「……俺、今すごい怒ってる」
「めちゃくちゃ、怒ってる」
でも。
「……同時に……」
声が、震える。
「……気づけなかった自分が……」
「一番、ムカつく……」
その瞬間。
翠の中で、
張りつめていた何かが、
静かに、音を立てて崩れた。
「……ごめ……」
謝ろうとして、
言葉にならない。
赫は、深く息を吸う。
「……守られたいなんて」
「一回も、言ってない」
「……一緒に、苦しめって」
「言えばよかった……」
翠は、初めて顔を歪めた。
───泣いてはいない。
でも、耐えきれない顔だった。
桃が、やっと一歩前に出る。
でも、赫の声が先だった。
「……翠にぃ」
低く、でも確かに弟の声で。
「次、同じことしたら」
間。
「……俺、絶対許さない」
それは、脅しじゃない。
繋ぎ止める言葉だった。
翠は、かすかに、頷いた。
その仕草が、
あまりにも小さくて。
黄は、静かに涙を落とした。
コメント
1件