10分はとうに経った。
「もうやめて!!これ以上綾野さんの身体にダメージを与えたくない!!」
息を切らす自分と対称的に、綾野さんは狂気に満ちていく。
突如伸びる捕縛布に綾野さんは拘束された。
「デク!!」
「イレイザー!?」
綾野さんの個性は解除され、糸が切れたようにその場に倒れこむ。
「綾野さんしっかり…!!」
彼女の手当てをしながら。
「さっき戦闘機が通過していきました。防衛システムが破られたんですか。」
「ああ。今松代にあるバックアップ機ミハシラノウズノミコからイザナギとイザナミに再ハッキングしている。」
「ヒルコは。」
「中でハッキングを続けている。建物中のシステムを再構築するのに手こずっててな。それが完了するまでヤツには手も足もでない。」
「私達がシステムを復旧させます!!」
「お2人がですか。」
「これで罪滅ぼししたとは言いません。私達は重大な倫理違反をしましたから…。」
「とにかく今はシステム復旧とヒルコの動きを止めること。謝罪はその後に。」
「綾野さんは休んだ方が…。」
「私は問題ない。1日に2回発動したことないけど、緑谷君がいるからいける気がするよ。」
虚ろだった彼女の表情に覇気が宿る。先生は綾野さんの両親と行動し、自分達はいつでも突入できるように構える。
開いた!!行け!!
その声ですかさず突入する。
「(また妨害されないうちに!!)」
ヒルコのもとへ急ぐ。
「兄さん!!」
イザナギとイザナミのある部屋の扉を蹴破ると、彼はたくさんの配線とモニター画面に囲まれてハッキングを続けていた。
「あの2人を仕留め損ねたあげく、そいつも始末できないなんて。どこまでお前は出来損ないなんだ。」
「なんでそんな酷い事が言えるんだ!!」
「いいの緑谷君。」
僕を制止させ、ヒルコを見据える。
「確かに私は出来損ない。1人で何でもできる兄さんとは違う。だから私はたくさんの人に支えてもらってここにいる。クローンだろうがコンピューターに劣等種だと言われようが、変わらず接してくれる人がいる。今の私はきっと兄さんより強い。」
「ボロボロの体でよく言うよ。良いよ、やってやろうじゃん。」
ヒルコも綾野さんも個性を発動する。
「ヒルコとアテナが戦闘開始しました。」
「アテナが暴走したらまた呼ぶんだ。」
「分かりました。ヒルコがここまでイザナギとイザナミにこだわるのはなぜでしょうか。」
「ヒルコは日本神話に出てくる神様のことだ。ただの神様じゃない。イザナギとイザナミの間に産まれた最初の神様なんだが、不具の子とみなされ正式な神にはなれなかったんだ。」
「だから自分を神になれなかった哀れな子だと。」
「その2人から再び産まれたが不具の子とされ、神になれなかったもう1人の神様がいる。アワシマという神様だ。」
「彼がヒルコなら、綾野さんはアワシマ??」
「そう言うことになるな。」
「彼は自分と綾野さんをヒルコとアワシマに見立て、個性に欠陥があるとみなしたイザナギとイザナミ、それを作ったあの2人に復讐するべくこの事件を起こした…。」
「クローンを作った上にAIに未来予知させるとは。あの2人の罪は相当だな。」
無線での相澤先生とのやり取りから得られた新たな情報。その時、僕の横を何かがかすめ壁にぶつかった音がした。
「兄さん。えびすって知ってる??」
綾野さんがこちらに向かってくる。
「(吹っ飛ばされたのはヒルコ!?)」
「ヒルコは海に流されるうちに海を領する神となり漂着した。その昔日本沿岸では漂着物をえびすと言ったらしいよ。ヒルコは漂着物から転じた神様として今も各地で信仰されている立派な神様よ。兄さんは哀れな子どもなんかじゃない!!」
歯を食いしばっている彼女。みた感じ個性は解除されている。うめきながら立ち上がろうとするヒルコに綾野さんは続ける。
「クローンで欠陥品でも、私達はたくさんの人に生かされてる。こんなことやめて、あの頃の兄さんに戻ってよ!!」
立ち上がったヒルコに綾野さんは渾身の頭付きをし、ヒルコは事切れた。
「ヒルコ、戦闘不能です!!」
「アテナは!?」
彼女は無言で親指を立てた。
「大丈夫です!!個性は解除されています!!」
部屋のシステムが復旧する音。大量のモニター画面が正常に戻っていく様子が目に映る。
「バックアップ機からのハッキングが成功したんだ!!」
「良かった!!人の叡知がAIを上回ったんだね。」
綾野さんは倒れたヒルコを担ぐ。それに手を貸しながら。
「最後の頭付きは個性で??」
「個性無し。私石頭なの。」
いつもの笑顔がみれて安心する。部屋を出ると、先生が救護班と共に待機していて、僕はヒルコと綾野さんを病院へと見送った。
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