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#コメディー
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「一千隻の船団を独断で持ち出した件。
勝手に辺境大陸に属国化を要求した件。
ここまではいい。だが―――
それが何の成果も挙げられず、
クアートル大陸の列強国に借りを作って
戻って来たとは、どういう所存かね」
大陸クアートルのさらに北にある大陸……
フラーゴル大陸。
そこのメナスミフ自由商圏同盟の一国、
ザハン国において、
同国の官僚である、黒髪をリーゼントのような
髪型にした二十代半ばの青年は―――
その国の中央、上層部と思しき連中に
問い詰められていた。
「その報告はちょーっと正確では
ありませんねぇ。
何より大きな借りを作ってしまったのは、
辺境大陸に、ですよぉ♪」
タクドルは踊るような仕草で、長テーブルに
座った面々に答える。
「状況をわかっているのか!?」
「ここはお前の釈明を聞く場だぞ!」
「少しばかり優秀だと思い上がって、
この結果を招いたというのに」
上層部の連中はそんな彼に嫌悪感を持つが、
「未知の大陸へ向けた戦略、そしてその方法が
間違っていた事については謝罪しますよぉ。
ですがそれ以上に……
有意義で貴重な情報を持ち帰ったと、
わたくしは自負しているんですがねえ」
その返答に室内はざわつき、
「クアートル大陸の四大国が―――
同盟を組みそうという情報か?」
「バカバカしい。
メナスミフ自由商圏同盟に屈しない以上、
いずれ連合なり何なり、クアートル大陸が
一体化を図るのは想定内ではないか」
「そんなものを功績と言い張るのか?」
次々と浴びせられる非難に対し、タクドルは
ポカンとした表情になる。
「……はあ?
どうもあなた方とは話がかみ合いませんねー。
クアートル大陸なんてどうでもいいんです。
辺境大陸に関する報告書はお読みに
なりましたかぁ?」
それを聞いた彼らは顔を見合わせ、
「魔法が使えなくなったというアレか?」
「フェンリル様に、緊急使用のため乗せていた
奴隷の子供たちについて咎められ―――
魔法はおろか、魔導具さえも使えなく
なったという」
「さらにはファルコン部隊のファルコンたちが
人間の姿になっただと?
あんな荒唐無稽な報告、あえて無視して
やったというのに……
わざわざ恥をかきたいというのか!?」
今度は非難めいた口調で彼を問い詰めるが、
「まあそうでしょうねえ。
自分の目で見たわけでもなければ、という
ヤツですかぁ。
そう言うと思いましてぇ。
本日はスペシャルゲストに来て頂きましたぁ!
さあ、お出でくださいませっ!!」
そうタクドルが上半身を前のめりに下げ、
片腕を体に沿え、もう片腕を水平に差し出す。
すると新たな―――
グリーンのミドルショートの髪を持つ
若い女性が入室して、
「!? 誰だ!?」
「ここは関係者以外、立ち入り禁止だぞ!」
ざわつき、中には立ち上がる上層部も
出て来る中、彼は彼女を横に立たせ、
「ご紹介いたしますわぁ♪
彼女が、人間の姿となったファルコン部隊の
1人です」
その説明に、室内は一瞬静まり返り、
「その女性が?」
「タクドルよ、それは証明出来るのだな?」
当然の事ながら疑問の声が飛ぶが、
「もちろぉん♪
お疑いの方はいらっしゃいますかぁ?」
そこで、比較的体つきのガッチリした男が、
席を立って彼と彼女の前まで迫り、
「私の目は節穴ではないぞ。
どんな手品だろうが、見破ってみせよう」
「それはようございました♪
では……」
タクドルは隣りの女性を差し出すように、
一歩後ろへと下がると、
同時に彼女の体は変化して―――
「う、うおぉおっ!?
このっ、はっ、放せっ!!
何をするかあっ!!」
威勢のいい声とは裏腹に……
一体のファルコンに襟首をクチバシで
掴まれ、ぶら下がっているあの男がいた。
ファルコン部隊のそれは、もちろん通常の
鳥類とは異なり、人一人を乗せられるほどの
体格を持つ。
そのファルコンが、天井に届きそうな身長で、
大の男一人をくわえてぶら下げている光景は、
上層部の疑念を吹き飛ばすには十分で、
「ぐあっ!?」
その男が解放され、地面に落ちると同時に、
また女性の姿に戻ったファルコンが、タクドルの
隣の位置へと帰る。
「納得して頂けたでしょうかぁ♪」
目を丸くして驚く上層部を前に、彼はまた
うやうやしくあいさつのポーズを取り、
「ま、待て」
「はて?
何か不審なところでも?」
その質問にタクドルは聞き返す。
「いや、そうではない。
その女性がファルコンである事は確認した。
それで―――
どのくらいの割合で人間の姿となったのだ?」
「クアートル大陸へ戻された時点では、まだ
数名ほどといったところでしたが……
その後、人間の姿になれる個体が増え続け、
今では全員がこのように♪」
それでもまだ……
目の前の光景を見て半信半疑といった面々に、
「この程度で驚いてもらっては困りますよぉ?
何せ辺境大陸では―――
フェンリル様を始め、ドラゴンにワイバーン、
魔狼、羽狐、ロック・タートル……
様々な種族が人間の姿で共存しておりました
からねぇ。
さらにラミア族、人魚族、獣人族、ハーピー、
ゴーレム、精霊様と……
普通の人間と結婚して子供がいるのも、
当然の事のように受け入れられております」
彼の返答に、眉間をつまんだり天井を見たり、
ため息をする者、資料に慌てて目を通す者が
続出し、
「それで、魔法が使えなくなったとも報告には
あるが―――
今は大丈夫なのか?
もしそうならば、どうやって回復した?」
「それはもちろぉん、誠心誠意謝ってですよぉ♪
フェンリル様に、二度と子供にあのような
扱いはいたしません、って……
頭を下げまくって、部下ともども魔法を返して
頂きましたですよぉ、ハイ」
そこで上層部の一人が片手を挙げ、
「謝って―――
それでどうしたのだ?
まさかそれだけで『ハイそうですか』と
帰してくれたのか?」
「それだ!」
「何か約束させられて来たのでは
あるまいな!?」
と、口々にタクドルを責めるような声が
蔓延するも、
それに対して彼は、懐から一通の書状を
取り出す。
そしてそれを彼らが座るテーブルに差し出すと、
一番近くの者から順にそれに目を通していき、
「これ、は……」
「『辺境大陸各国の利権の引き渡し』
『これまでの技術・権利は全て
ザハン国に帰属』
『今後の新技術もザハン国所有に』
『国家・個人問わず金融資産は
ザハン国へ移管』―――」
「辺境大陸への要求?
これはお前が?」
それは、かつてタクドルがウィンベル王国の
国王、ラーシュ陛下に提出した書面で、
(■274話 はじめての ようきゅう)
「はぁい。
あちらの辺境大陸の中心国と思われる、
ウィンベル王国へ出したものなんですけどぉ、
丁寧に突き返されましたよ。
“いくつか『書き間違い』があるようだ”
ですって♪」
ガタガタとイスが揺れる音が室内に響き、
「そうそう、フェンリル様ですけど……
『人間の争いに興味は無い』そうで。
クアートル大陸でも確認したんですけどぉ、
結構フェンリル様の怒りを買った人って、
多いみたいなんですよねぇ。
なのでわたくしからは―――
今後の行動は慎重に♪
としか言えないですわぁ」
おどける彼に、情報量の多さか、それとも
荒唐無稽だと思っていた事が現実だと
突き付けられた疲れか……
誰からともなくため息が漏れる。
「つまり攻め込んだ後―――
適当にあしらわれ、丁寧に扱われて
帰してもらったわけか」
「ま、それについては弁明のしようも
ございませぇん♪
わたくしとしましてはぁ、1人として、
そして1隻残らず無事に帰国させるだけで
精一杯だったんですからねぇ」
その報告に、上層部はさらに書面を読み進め、
「魔物からの緊急退避用として用意した、
奴隷の子供たちは全て取り上げられたと
あるが?」
「決して少なくない損失だぞ?」
「当然、これについての抗議は行ったの
だろうな?」
するとタクドルはハー、と息を吐いて、
「いったい何を聞いていらっしゃんですか?
それでフェンリル様の怒りを買い、
その奴隷の子供たちを差し出すのが、
魔法を再び使えるようになる条件―――
取り引きだったようなものなんですよ。
それなくしてわたくしたちが全員、無傷で
戻れたなんて事はあり得なかったでしょう」
すると彼らはそう言う官僚の答えにも、
「ではこのフェンリルとやら……
その所属する国はチエゴ国、とあるが」
「この国への損害賠償、及び謝罪要求は
当たり前であろう?」
「これを盾に、再び属国化交渉を
再開しても―――」
上層部の言葉にタクドルはガシガシと
頭をかいて、
「あー、えーとぉ~……
先ほども申し上げましたが、フェンリル様は
『人間の争いに興味は無い』んですよぉ。
チエゴ国所属という事にはなっていますけど、
それはあくまでも人間の物差しの話です。
正確には、その国に自分の夫となる獣人族が
いるから―――
その故郷及び同盟諸国を、自分の意志で守って
いるだけに過ぎないんです。
チエゴ国側も、フェンリル様を制御なんて
出来ないと言っておられましたしねぇ」
彼の話に、ざわざわと室内は困惑の波紋が
広がって行く。
「わかりますかぁ?
一千隻の大船団を単独で無力化出来る、
そういう戦力があちらにはいるんですよぉ。
しかも行動は気分次第、と来たもんです。
さらに言えば、魔力反応無しで気付いた時には
沖合にいる船に飛び乗って来たと……
飛んで来たのか、はたまた陸から跳躍して
来たのかはわかりませんが―――
逃ゲラレナーイ♪ って事です」
もはや説明を聞いているだけで、疲れたという
表情をする面々を前にタクドルは続け、
「一応、警戒していたのか他の国の水中部隊?
として……
人魚族やロック・タートルもおりました
けどねぇ。
どちらにしろフェンリル様が出て来た時点で
お終い♪ でしたよ」
すると、先ほどファルコンに持ち上げられた
ガタイのいい男性が、
「フン!
しょせん、一千隻は一千隻に過ぎん!
いくらフェンリルとて、こちらには
十万を超える艦隊があるのだ!
数で押せばいいだろうが!」
「あ、ちなみに―――
フェンリル様の他、魔王に魔界王、
グリフォン、ワイバーンの女王まで
控えていたそうですけど?」
間髪入れずに返って来た答えに、室内は
一瞬沈黙した後、
「……それが、事実だと?」
その疑問にタクドルは人間の姿になった
ファルコンの女性を差して、
「もちろん、それらの情報は未確認ですが、
ファルコンが人間の姿になった事は
事実だったでしょう?
それに今回は無傷で優しく♪
何とか帰して頂きましたけどぉ、
確認もしないまま―――
総力戦を仕掛けていいような相手では
無いと思われるんですけどねぇ♪」
上層部はそれぞれ顔を見合わせ、やがて
その中の一人が意を決したように、
「では、貴殿は今後どう動くべきだと
思うのかね」
するとタクドルは真顔になって、
「少なくとも、好戦的な国ではないと
わたくしは感じました。
戦争するにしろ、友好を結ぶにしろ……
情報が足りないと思われます。
ただクアートル大陸とは交易を盛んに
行っているようですので、こちらからも
何か持ち掛ければ交流自体は可能でしょう。
幸い、ザハン国及びメナスミフ自由商圏同盟は
クアートル大陸との交易路もあり、今回、
身元引受けもしてもらいました。
なので彼らを通じ、まずは交易を開始。
それに紛れて調査を行う事を進言します」
つまり事前の情報収集を行い―――
その間は様子見しろとの事。
ありきたりな意見だが、それ以上の提案も
出せず……
タクドルの意見を持って会議は収束に
向かおうとしていたが、
「ああ、そうそう♪」
いつものような、にやけた表情になった
彼は続けて、
「もし辺境大陸を属国化しようとする、
わたくしのようなおバカさんがまた
出て来ましたら、
わたくし、辺境大陸に亡命させて頂きまぁす♪
クアートル大陸にではなく、辺境大陸にです。
ハァイ♪」
突然の亡命宣言に―――
上層部は戸惑い、またある者は怒り、
「どういう事だ?」
「クアートル大陸ではなく、辺境大陸にだと?」
「貴様、正気か!?」
そこで彼は笑いを顔に張り付けたまま、
そして目だけは笑わず、
「あの大陸はですねぇ、ちょーっと底が
知れません。
単純な戦力の比較では計り知れない、
何かがあります。
それがわかるまで、決して手を出すべきでは
ありません……!」
タクドルはザハン国の一官僚であったが、
若手の中では『やり手』であり、そして
出世頭でもあった。
その彼の意見に上層部は互いに顔を見合わせ、
「(タクドルがこうまで言うのであれば、
相当なリスクがあるという事か?)」
「(今まで失敗らしい失敗が無かった彼の
言う事だ。
どうやら、これまでの相手とは異なる
ようだな)」
「(最重要案件として―――
同盟の賢人会議に議題を提出しておこう)」
こうしてフラーゴル大陸における、ザハン国での
会議は終わり……
さらに上の決定機関に委ねられる事となった。
「いやあ、ムサシ君のあの攻撃はスゴイね!
私の雷魔法すら貫通するとは思わなかったよ」
「あれが『始祖』の力なんですね。
一度、じっくり研究してみたいものです」
夫婦でシルバーとホワイトシルバーの長髪を
した、パックさんとシャンタルさんが、
青みがかった短髪を持つ少年と、パープルの
ウェービーヘアーの少女……
ワイバーンのムサシ君(人間Ver)と
アンナ・ミエリツィア伯爵令嬢を前に語る。
「無理を言って申し訳ありません。
お忙しいところを―――」
薬師であり、恐らくこの世界で最高の
治癒魔法使いであるパックさんを呼び出して
実験に協力してもらったのだが、
「何を仰いますか!
あれだけのお礼をもらっておきながら、
さらにこんな心躍る実験に参加させて
頂くなんて!」
「研究者冥利に尽きますわ~!」
二人の言葉に、はて? と私は首を傾げると、
「あー、シン。
あれだよ。
ホラ、大ライラック国から持ち帰った
お土産」
「調理器具の他に、実験器具などももらって、
シャンタルたちに渡したであろう?」
童顔のアジアンチックな顔立ちの妻と、
それとは対照的な西洋風の顔の妻が説明する。
あー、確か行く先々でそういうのがあったら、
彼らにお土産として購入するのが半ば習慣化
していたから……
「何かいいのがありましたか?
私には何が何やらで」
「もちろん!!
いろいろと応用に使えそうな物が―――」
そうパックさんが言い出したところで、
「あの、そろそろお時間ですが」
「大丈夫か?」
淡い紫色の短髪を持つ青年……
エンレイン王子様と、
赤い長髪の外国人モデルのような抜群の
プロポーションのヒミコ様がやって来て、
「もうそんな時間ですか」
「じゃあ行くよ、パック君!」
二人は駆けだすと、シャンタルさんはドラゴンの
姿に変化して、
パックさんを背に、そのまま公都『ヤマト』へと
飛び立って行った。
「あれ?
もうあの2人帰ったの?」
そこに赤い瞳と黒いセミショートの髪の娘、
ラッチがやって来て、
「今やパックさんはこの大陸だけでなく、
海の向こうからも患者さんがやって来るほどの
治癒師だからね。
来てくれただけでも御の字だよ」
私が娘と話していると、
「あのう、それで結果は」
エンレイン王子様がたずねて来たので、
「そうですね―――
メルやアルテリーゼにも協力して
もらいましたが、
確かにムサシ君の攻撃は、何もかも
貫通するような性質を持つようです。
『始祖』と言って差し支えないかと」
「ふむ。ならば……
私の名代としても、その責を果たせるか」
私の答えに、ヒミコ様が満足そうにうなずく。
パックさんの時は、さすがに全身ゴム製の例の
完全空調服を着こんでの実験となったが、
雷すらものともせず、ムサシ君の攻撃は
突っ込んで来たので―――
私も驚いたものだ。
「そ、それでは」
ワイバーンの少年がヒミコ女王に視線を
向けると、
「クアートル大陸……
ランドルフ帝国のワイバーンのとりまとめを
お前に任せる。
まあすぐにではないが、心しておくがよい」
「やったあ、ムサシ君!!」
その言葉にアンナ令嬢がムサシ君に飛びつき、
ワイバーンの実質№2が決まった瞬間に
立ち会ったのであった。
「これが今回集められた商品ですか」
「はい。
すでに鑑定はヴォルドさんにしてもらい、
安全性は確認してあります」
そして数日後―――
私は、ドーン伯爵様の御用商人のお屋敷にいた。
白髪混じりの六十代ほどの老紳士、
カーマンさんが目録を私に渡して来て、
「今回は12種類の品物を持ち込んだようです。
さて、シン殿のお目にかなうものがあるか
どうか」
「しかしサンチョさんも定期的に送って来て
もらえるのは助かりますけど……
律儀といいますか、よく時間があると
いうか」
そう、ここにあるのはサンチョさんが
各地から集めて来てくれたもの。
自分が以前ゴムを持ち込まれ、それを高価で
買い取って以来―――
何か気になる物があれば、こうして私に
送って来てくれるのだ。
(■102話 はじめての ごむ参照)
「シン殿に送れば、たいていの物は経費を
上回る値段で買い取って頂けますし、
確実に利益になる取り引きになるのですから、
商人としては当然でしょう。
今や各地の商人の間では……
『シン殿に見せれば何とかなる!』が
共通認識のようなものですからな」
確かに、送って来てくれる物の中には、
すでにあるが種類が異なる穀物や果物などが
あり、代替品は多ければ多いほどいいので、
助かっている。
変わった物では黒曜石があった。
金属板に激しくぶつけると火花を出す、
いわゆる火打石で、
比較的簡単に火種が出来るという事で―――
火魔法の使い手が、これが普及すると困るのでは
ないかという事で……
一度彼らを集めて相談したのだが、
意外な事に、火魔法の使い手全員がこれを
欲しがった。
というのも、火魔法を使える彼らは確かに
いろいろなところで重宝されるのだが、
火魔法は着火時に魔力を結構消費するらしく、
いざ戦ったり攻撃で使おうとしても、その時には
魔力切れ、というケースが珍しくないようで、
細々とした使い道用に持っておきたいとの事。
要するに余裕がある時は、これで着火を代用
したいとの理由があったのだ。
これは弱い火魔法しか使えない、料理やその他に
従事する人たちも同様で、
基本的に火を使う=燃料資源を使わないので、
いったん火を出したら魔導具でもなければ、
そのまま維持し続けなければならず、
(薪や炭などはあるが高級品)
その着火分だけでも節約出来ればと―――
とても喜んでくれたのである。
「さて今回は、と……んん?」
「何でしょうなコレは?
薄い木の板?」
まるで大根を桂むきにしたような、
薄い木材に見入る。
「ヴォルドさんの鑑定では―――
これはドルランという木の魔物の、
木の葉というかツルみたいなもので、
火に弱く燃えやすく、水に弱く溶けやすい、
無害ではあるが素材としては貧弱過ぎるという
ものですが……」
私はその薄い板状のものを、くるくると
巻いていくと、手触りはとても柔らかく
しっとりとしていて、
「包帯の代用ですか?
しかし、とても弱過ぎて使えたものでは」
カーマンさんが怪訝そうな表情をするが、
「今すぐサンチョさんに連絡を!!」
「は、はい?」
そして私は急遽、この採取と確保に乗り出した。
「そんなに貴重な物なの? シン」
「ただの薄い、木製の布みたいな感じだが」
数日後、私はメルとアルテリーゼを連れて、
サンチョさんに現場へと案内してもらっていた。
(ラッチはシンイチとリュウイチの面倒を
見てもらうためお留守番)
「あれはドルランという木の魔物の物ですが、
採取は比較的簡単なはずです。
しかしシン殿が直々に来るとは驚きました。
それだけ価値があるという事なのですね?」
人当たりの良い顔をした小太りの中年男性が、
そのお腹を揺らしながら先を歩く。
「もし大量に得る事が出来れば、ある物の
代用品になります!
それは絶対に手放せない物に
なるでしょう……!!」
「シン殿がそこまで言われるとは―――
このサンチョ、燃えて来ましたぞお!!」
そしてうっそうとした森を歩く事、小一時間
ほどして、ある程度開けた場所に出ると、
「あ、あれです!」
と、サンチョさんが指差した先には……
五メートルほどの大木の幹に人の顔を付けた
ような、木の魔物が直立していて、
「これがドルランですか」
「ええ。どうしますか?」
そこで私はアルテリーゼの方を向いて、
「これ、持っていけるかな?」
「楽勝ぞ?」
「あ、じゃあ私が根元から―――」
と、メルが近付こうとしたところ、
「危なっ!?」
急にあのツルだか葉っぱだかわからない、
薄い布状のものが触手のように動き、
ムチのように薙ぎ払われる。
メルや私たちはとっさに避けたものの、
横に払われたそれは、近くの木々を
倒してしまい、
「なななっ!?
た、確か報告では特に危険は無い
魔物だったはず……!」
戸惑うサンチョさんを何とかドルランから
引き離し、
そして私たちは遠目で、ヒュンヒュンと
触手を振り回す魔物を見つめる。
「うぬう、燃やしてはダメか?」
「出来れば生かしたまま持っていきたいしなあ」
「水魔法は効かないよねえ、木の魔物だし」
土精霊様がいれば説得出来るかも知れないが、
あいにくここにはいない。
仕方なく私が妻たちとアイコンタクトを取ると、
「じゃあ、私がやってみる。
メルとアルテリーゼは念のため、
サンチョさんを連れて避難してて」
「りょー」
「わかったぞ」
そう言うと二人は彼を連れて―――
やや後方へと退き、
そして私はドルランの方へ振り向くと、
彼らには聞こえないよう小さな声で、
「その巨体で、葉やツルを素早く振り回す……
ましてや攻撃してくる植物など、
・・・・・
あり得ない」
そうつぶやくと、ドルランが振り回していた
触手のようなものは全てダランと下がり―――
攻撃と活動を停止させた。