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42
旅館から戻っても。
九人は、すぐには帰らなかった。
阿部の部屋のリビングに集まって。
それぞれ好きな場所に座っている。
「狭い」
渡辺が言った。
「だから天使にも言われたんだよ」
阿部は床に座りながら答える。
「早く引っ越せって」
「九人集まる前提なのがおかしいんじゃない?」
「それはそう」
ソファには。
宮舘と渡辺。
床には、岩本と深澤。
ラウールはクッションを抱えている。
佐久間は。
なぜか阿部のベッドから持ってきた枕を抱えていた。
「佐久間、それ俺の」
「借りてるだけ!」
「なんで持ってきたの?」
「座りやすいから」
「クッションあるじゃん」
「これがいい!」
「返してね」
「はーい」
その横で。
康二はカメラを操作していた。
目黒が覗き込む。
「写真見る?」
「見る見る!」
佐久間が一番に反応する。
「テレビに映せる?」
「できると思うで」
「夢だから?」
ラウールが聞く。
「夢やから」
阿部が呆れる。
「最近それで全部説明するよね」
「便利やもん」
康二が笑いながら操作すると。
テレビの画面に。
最初の一枚が映った。
「これ!」
佐久間が叫ぶ。
旅館へ着いた直後。
トイレから出てきたラウールの写真。
「撮ってたの!?」
ラウールが笑う。
「撮るに決まってるやん」
「なんで?」
「記念」
渡辺が嫌そうな顔をする。
「俺のはないよね?」
次の写真。
トイレから出てくる渡辺。
「康二!」
「ええ顔しとるやろ!」
「消して!」
「嫌や!」
「今すぐ!」
「夢の中やから容量無限やで!」
「そういう問題じゃない!」
部屋に笑い声が広がる。
阿部も。
声を上げて笑った。
写真は。
どんどん進んでいく。
卓球で。
ものすごい顔をして球を追いかけている深澤。
「ちょっと待って!」
深澤が立ち上がる。
「これ酷くない!?」
岩本が吹き出す。
「ふっか、顔」
「照も後ろで笑ってるじゃん!」
「だって面白かったから」
「消してよ!」
「ええ写真やん」
康二は楽しそうだ。
次。
ラウールが。
夕食を前にして、まだ誰も箸をつけていないのに。
一人だけ完全に食べる準備をしている写真。
「ラウ、目が本気」
阿部が笑う。
「お腹空いてたから」
「いつもじゃん」
「失礼だな」
その次。
渡辺がマッサージチェアで。
完全に目を閉じている。
宮舘が隣で笑っている。
「翔太、寝てるね」
「寝てない」
「写真に証拠残ってるよ」
「目閉じてただけ」
深澤が笑う。
「それ寝てた人の言い訳」
「うるさい」
また。
次の写真。
佐久間がゲームで負けて。
本気で悔しがっている。
その後ろで。
ラウールと康二が笑っている。
「俺こんな顔してた!?」
「してた」
ラウールが即答する。
「してへんと思ってたん?」
康二も笑う。
「もっと可愛いと思ってた!」
「自分で言うんだ」
阿部が笑った。
次の写真が映る。
阿部が。
少し止まった。
朝食。
目黒が。
阿部の焼き魚の骨を取っている。
阿部は。
その目黒を呆れたように見ていた。
「……これも撮ったの?」
「自然でええやろ」
康二が言う。
佐久間が。
すぐに笑う。
「蓮、めっちゃ真剣!」
「骨あったから」
目黒は普通に答える。
「自分で取れるって言ったのに」
阿部が言う。
「でも俺が取りたかったから」
「またそれ」
「いいじゃん」
渡辺が呆れた顔をする。
「もう誰も止めないよ」
阿部は。
少し恥ずかしくなって。
テレビから目を逸らした。
その隣で。
目黒は普通に笑っていた。
写真が。
また進む。
そして。
阿部は。
ふと気づいた。
「ふっか」
「何?」
画面を見る。
昨日。
ゲームをしている時の写真。
深澤が。
佐久間に何か言いながら笑っている。
次。
岩本と話している。
次。
渡辺に突っ込んでいる。
どれも。
昨日の夜。
阿部が少し気になった頃の写真だった。
その次。
朝。
旅館の玄関前。
九人で撮った写真。
岩本の隣で。
深澤が笑っている。
阿部は。
昨日までなら。
同じ笑顔に見えたかもしれない。
でも。
今は。
少し違って見えた。
「何?」
深澤が阿部を見る。
「ううん」
阿部は。
少しだけ笑う。
「今日の写真の方が、いい顔してるなと思って」
深澤が。
一瞬だけ止まる。
岩本も。
隣で深澤を見る。
「……そう?」
「うん」
「昨日もいい顔だったでしょ」
「そうだけど」
阿部は笑った。
「今日の方が好き」
深澤は。
少しだけ照れたように。
「何それ」
と言った。
でも。
その口元は。
嬉しそうだった。
岩本の写真もあった。
朝食の時。
ラウールと佐久間のやり取りを見ながら。
声を出して笑っている。
阿部は。
昨夜。
岩本が泣いたことを知っている。
九人で帰ると言わなければ。
自分が壊れそうだったことも。
知っている。
でも。
画面の中の岩本は。
普通に笑っていた。
「照も」
「何?」
「いい顔」
岩本が笑う。
「急に何?」
「別に」
阿部は。
その写真をもう一度見る。
話したからといって。
ずっと泣いているわけじゃない。
傷を見せたからといって。
その人が弱くなるわけでもない。
昨日泣いたふっかが。
今日笑っている。
大丈夫じゃないと言った照が。
普通に楽しそうにしている。
阿部は。
なんとなく。
胸の奥が軽くなった。
「……そっか」
小さく呟く。
目黒が隣を見る。
「何が?」
「話したからって」
「うん」
「ずっと重くならなくていいんだなと思って」
目黒は。
少しだけ笑った。
「うん」
「泣いて」
阿部はテレビを見る。
「そのあと笑ってもいいんだね」
「当たり前じゃん」
渡辺が言う。
阿部がそちらを見る。
「翔太に言われると説得力ある」
「何それ」
「昨日あんな怒ってたのに、朝普通にご飯食べてたから」
「怒ってても腹は減るでしょ」
「確かに」
部屋に。
また笑い声が広がった。
最後に。
旅館の玄関前で撮った。
九人の写真が映る。
誰も。
ちゃんとカメラを見ていない。
みんな。
違うところを見ながら笑っている。
「やっぱこれいいね」
阿部が言う。
「やろ?」
康二も嬉しそうに頷いた。
「一番好きかも」
佐久間も言う。
「夢の国の写真も好きだけど!」
「どっちが一番なの?」
ラウールが笑う。
「両方一番!」
「一番の意味」
岩本が笑う。
阿部は。
画面を見たまま。
少しだけ思った。
持って帰れないかもしれない。
それでも。
この写真があったことは。
なくならない。
みんなが帰ったあと。
部屋は。
急に静かになった。
さっきまで九人いたせいで。
余計に広く感じる。
目黒は。
キッチンで飲み物を用意している。
阿部は。
テーブルに座った。
そして。
新しいノートを開く。
「書くの?」
目黒が聞く。
「うん」
「今日のこと?」
「昨日から今日まで」
ペンを持つ。
少し考える。
それから。
ゆっくり書いた。
『九人で温泉に行った。』
『トイレから旅館に行った。』
一度。
手が止まる。
「これ書く必要あるかな」
目黒が笑う。
「思い出でしょ」
「最初がトイレなの嫌なんだけど」
「でも忘れないと思うよ」
「絶対忘れない」
阿部も笑って。
続きを書く。
『温泉に入った。』
『卓球をした。』
『いっぱい食べた。』
『館さんと翔太と話した。』
少しだけ。
ペンを止める。
それから。
『夜、ふっかと照と話した。』
『二人とも大丈夫じゃなかった。』
その下に。
少し考えて。
書いた。
『泣いても九人だった。』
阿部は。
その一文を見つめる。
昨日。
自分が深澤に言った言葉。
泣いていても。
面白いことを言わなくても。
場を回さなくても。
八人にはならない。
そして。
照が一人で守らなくても。
九人は九人。
「……これ好きかも」
阿部が言う。
目黒が後ろから覗く。
「泣いても九人?」
「うん」
「いいね」
阿部は。
またペンを動かす。
『たくさん笑った。』
『泣いたあとも笑えた。』
『みんなで休むって、こういうことなのかもしれない。』
そこまで書いて。
少し考えた。
旅館。
山。
温泉。
朝ご飯。
九人の写真。
全部思い出す。
そして。
最後に書いた。
『帰ったら、九人で本当の温泉にも行きたい。』
「……」
阿部の手が止まる。
目黒も。
その文字を見ていた。
「また書いたね」
「うん」
「帰ったら」
「うん」
阿部は。
その言葉を指でなぞる。
以前なら。
現実を思い浮かべるだけで。
胸が苦しくなった。
病院。
女優。
仕事。
怖いものばかりが浮かんだ。
でも。
今は。
その先に。
九人で温泉へ行く自分たちが浮かんだ。
「なんか」
阿部が言う。
「帰るって」
「うん」
「怖いところに戻るだけじゃなくなってきた」
目黒は。
阿部の隣に座る。
「何になってきた?」
阿部は少し考えた。
「続きをやりに行く感じ」
「続き?」
「うん」
ノートを見る。
夢の国。
温泉。
写真。
まだ行っていない場所。
まだやっていないこと。
「ここで楽しかったことを」
阿部は言う。
「今度は現実でもやるの」
目黒が。
ゆっくり笑った。
「いいね」
「でしょ」
「じゃあ温泉も行こう」
「九人でね」
「二人でも行きたい」
阿部が笑う。
「欲張り」
「だって昔のリストにもあったでしょ」
「あったね」
「両方行けばいいじゃん」
「じゃあ両方」
「うん」
阿部は。
ノートに小さく。
もう一つ書き足した。
『二人でも行く。』
目黒が笑う。
「増えた」
「これからも増やすんでしょ」
「うん」
阿部は。
新しいノートを閉じた。
夢の中で作った思い出は。
持って帰れないかもしれない。
でも。
その続きを。
現実で作ることはできる。
そう考えられるようになったことが。
今は。
少し嬉しかった。
コメント
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第42話、読み終えたよ~! やっぱり康二が撮ってる写真のくだり、めっちゃ良かった!阿部くんが「今日の写真の方が好き」って言ったところ、なんか胸にじんときた。深澤くんも嬉しそうだったし、それを見てる岩本くんの「いい顔」って返しも自然でいいなって思った。 あと「泣いても九人だった」って阿部くんがノートに書くシーン、個人的にめっちゃ刺さった。泣いたり笑ったり、楽しいことだけじゃなくて、弱いところも一緒にいられる距離って尊いよなって。 「帰ったら九人で本当の温泉にも行きたい」っていう願いも、ただの夢じゃなくて続きを作りに行くって思えるようになった阿部くんの変化、ちゃんと感じられた🔥 続き、楽しみにしてる~!
#❤️💙
みら

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