コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
桜の花びらが、まだ咲ききらない枝先に小さく揺れている。
「……また、出ちゃった……」
洗面台の前で、みことは小さく呟いた。
薄紅の花びらが、吐息にまぎれてふわりと舞う。唇に残った血のような紅を指で拭うと、その指先までもが震えていた。
「こんなはずじゃなかったのになぁ……」
声に出すと、涙がこみ上げてくるから、喉の奥で言葉を押し殺す。
好きになっちゃいけない。
この気持ちがバレたら、全部壊れちゃう。
だから、伝えないって決めたのに。
「みこちゃーん? 大丈夫?」
優しい声が、部屋の外からかけられた。
その声に、思わず心が震える。
穏やかで、いつもあったかくて、誰よりも自分を大事にしてくれるひと――すち。
「……うん、大丈夫だよ」
無理に笑って、ドアを開ける。そこには、変わらないやさしい笑顔で立つすちの姿があった。
「顔、赤いね。熱でもあるの?」
「ちがうよ、たぶん……ちょっとだけ眠れてないだけ」
「そっか。じゃあ、今日は俺が晩ご飯つくるからみこちゃんは寝てて?」
その何気ない優しさが、胸を締めつける。
言いたい。伝えたい。
でも、言ったら……きっとこのぬくもりが壊れる。
みことは唇を噛みしめて、またひとつ、心に花を咲かせた。