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みことは秘密をひとつ抱えていた。
それは、夜の静けさの中でこっそり咲く“花”だった。
花吐き病――想いを伝えられない恋が引き金となり、喉に花が咲くという奇病。
架空の話かと思っていた。
まさか自分が、その病にかかるなんて。
一輪、二輪。
淡いピンクの小花が、苦し気な咳とともに唇からこぼれ落ちる。
でも、みことは誰にも言えなかった。
とくに、すちには――。
すちは、穏やかで優しいひとだった。
どこか放っておけなくなるような、やわらかな声と、常に相手を気遣う仕草。
大学の同級生で、今はルームシェアという形で一緒に暮らしている。
「今日の夕飯、唐揚げでいい?」
「うん、すちがつくる唐揚げ、だいすき」
「はは、言われ慣れてないけど、うれしいな」
さりげない会話。
優しさが、胸に染み込んでいく。
それと同時に、喉の奥がきゅっと痛む。
言葉にすれば、この関係が壊れてしまう――。
みことはその夜も、枕を抱えながら、そっと口元を覆って吐き出した。
掌に落ちたのは、小さなすずらんの花。
沈黙の白、咲かない想い。