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夜。
城は静まり返っていた。
昼間の笑い声が嘘みたいに、
廊下には冷たい空気だけが流れている。
Pizza guyはベッドに腰掛け、
ゆっくり息を吐いた。
「……っ」
また少し、
首が疼く。
発作というほどではない。
だが静かに、
じわじわと熱が戻ってくる。
指先が無意識に傷跡へ伸びた、その時。
――ゴゥン……
低い音が響いた。
オルガン。
地下礼拝堂からだ。
重く、
深い音。
城全体の石壁を震わせるみたいに、
ゆっくり広がっていく。
Pizza guyの手が止まる。
まただ。
ノスフェラトゥが弾いている夜は、
不思議と発作が軽い。
最初は偶然だと思っていた。
でも違う。
音を聞いている間だけ、
頭の奥の熱が静かになる。
「……なんなんだよ、これ」
小さく呟き、
Pizza guyは部屋を出た。
冷たい廊下を歩く。
音を辿るように。
地下へ続く階段。
古びた礼拝堂。
巨大なステンドグラスはほとんど割れていて、
月明かりが床へ落ちていた。
その奥。
パイプオルガンの前に、
ノスフェラトゥが座っている。
黒いマント。
長い黒髪。
赤い目は閉じられていた。
指だけが静かに鍵盤を滑っている。
普段の彼とは別人みたいだった。
獣じゃない。
飢えた吸血鬼でもない。
ただ、
ひどく孤独な何か。
Pizza guyは入口の柱へ寄り掛かる。
邪魔しないよう、
静かに聞いていた。
低音が胸へ響く。
不思議だった。
吸血される時の熱とは違う。
もっと静かで、
ゆっくりした感覚。
疼いていた首筋が、
少しずつ落ち着いていく。
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「…………」
ノスフェラトゥは途中で、
Pizza guyが来たことに気づいていた。
だが演奏を止めない。
まるで、
そのまま聴かせているみたいに。
曲はどこか古かった。
人間の時代の祈りみたいな旋律。
終末には似合わない音。
最後の和音が、
静かに消えていく。
余韻だけが残った。
礼拝堂が静まる。
そのあと、
ノスフェラトゥが低く口を開いた。
「……少しは楽か」
Pizza guyは目を瞬く。
「なんで分かった」
「呼吸」
ノスフェラトゥは振り返る。
赤い目が、
静かにこちらを見る。
「お前、発作が出ると浅くなる」
「……観察しすぎだろ」
「お前のことだからな」
さらりと言う。
反則だろ、
そういうの。
Pizza guyは誤魔化すように礼拝堂へ入った。
「それ、なんの曲」
「昔の聖歌だ」
「吸血鬼が聖歌弾くのかよ」
「皮肉だろう」
ノスフェラトゥは小さく笑う。
その横顔を見て、
Pizza guyは少し黙った。
「……好きだったのか」
「?」
「音楽」
ノスフェラトゥは鍵盤へ視線を落とす。
長い沈黙。
やがて静かに答えた。
「人間だった頃はな」
どく、と胸が鳴る。
珍しい。
自分から昔を話すなんて。
「昔は、食事の後に音楽を聴く文化があった」
「……へぇ」
「ワインを飲みながら、歌って、笑っていた」
その声は、
少し遠かった。
何百年も前を見ているみたいに。
「吸血鬼になってからは、食事は狩りになった」
「静かで、冷たくて、ずっと飢えているだけだ」
ノスフェラトゥの指が、
鍵盤を一つだけ鳴らす。
ぽぅん、と低い音。
「だから、お前の作る食事は嫌いじゃない」
Pizza guyはゆっくり隣へ座った。
パイプオルガンは巨大で、
二人並ぶと少し狭い。
「……ピザで人間性思い出すとか安いな」
「否定はしない」
「あとお前、バジル乗せすぎ」
「難しかった」
「だから加減覚えろって」
ノスフェラトゥが小さく息を漏らす。
笑ったらしい。
その音を聞きながら、
Pizza guyはゆっくり目を閉じた。
オルガンの余韻。
冷たい礼拝堂。
隣の体温は低いのに、
不思議と落ち着く。
首の疼きも、
今は静かだった。
「……なぁ」
「なんだ」
「もう一曲」
ノスフェラトゥは数秒黙った。
それから、
静かに鍵盤へ手を置く。
再び、
音が礼拝堂へ広がっていく。
今度は少しだけ優しい旋律だった。
Pizza guyはその隣で、
ゆっくり眠りへ落ちていった。