テラーノベル
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講堂は、思っていたよりも広かった。
高い天井。
磨かれた床。
音が、きれいに反響する。
まどかは、指定された席に座った。
隣には母。
前にも、後ろにも、
似たような姿勢の親子が並んでいる。
誰も、落ち着かない様子を見せない。
壇上に立ったのは、
鈴蘭学院の学院長だった。
白髪をきれいにまとめ、
穏やかな笑顔。
声は低く、
よく通る。
「本日は、
鈴蘭学院にご関心をお寄せいただき、
ありがとうございます」
形式的な挨拶のあと、
本題に入る。
「本学院が育てたいのは、
自分を律することのできる生徒です」
まどかは、
その言葉を書き留めた。
「優秀であることよりも、
正しくあること」
「声を上げる強さよりも、
場を乱さない配慮」
ひとつひとつが、
やさしい言葉で包まれている。
けれど、
裏返せば、
違う意味にも聞こえた。
「意見を持たない、ということではありません」
学院長は続ける。
「しかし、
その意見をいつ、どこで、どう伝えるかを
判断できることが、
本当の品位です」
会場は、
しんと静まっている。
誰も、反論しない。
まどかは、
自分のノートに、
小さく丸をつけた。
“判断できること”
それは、
自分にできるだろうか。
空気を読むことと、
自分を抑えることの違いが、
分からなくなった。
「鈴蘭学院では、
生徒一人ひとりが、
学院そのものの顔となります」
「だからこそ、
私たちは“選びます”」
その言葉は、
はっきりしていた。
隣で、
母が小さくうなずく。
まどかは、
うなずけなかった。
ここで求められているのは、
優しさなのか、
従順さなのか。
区別が、
つかない。
講堂を出るとき、
誰かが言った。
「すてきな学校ね」
それを、
否定する言葉は、
どこにもなかった。
まどかも、
否定できなかった。
ただ、
胸の奥で、
小さな違和感が鳴り続けていた。
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