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戦場には、重い静寂が流れていた。
崩れ落ちた瓦礫。
裂けた地面。
虚無の波動によって歪められた空間。
風だけが、静かに吹き抜けていく。
その中心で――。
畑中は、なお立っていた。
深く傷つきながらも、倒れることなく。
だがその表情には、戦いの疲労だけではない“苦悶”が色濃く滲んでいた。
少し離れた場所。
公太、唯我、一祟の三人が、その背中を見つめていた。
公太が苛立ちを押し殺すように呟く。
「……あいつの力、一体なんだったんだ」
「それに……畑中の様子もおかしかった。あいつとの間で、何があったんだよ」
唯我が静かに目を細める。
「……単なる敵じゃないことは確かだな」
「畑中の目……動揺してた」
その低い声が、戦場に残る緊張をさらに際立たせた。
一祟は、そっと息を吐く。
「でも……無事だった。それだけで十分です」
その言葉には、安堵と優しさが込められていた。
やがて――。
部隊はORVAS本拠地へ帰還する。
負傷した隊員たちは医療班による応急処置を受け、それぞれ持ち場へ戻っていった。
騒がしかった基地にも、少しずつ平穏が戻り始める。
しばらくして。
治療を終えた畑中が、三人のもとへ歩いてきた。
その足取りは重い。
疲労と痛み。
そして、何かを押し殺すような硬さがあった。
畑中は三人を見渡し、低く口を開く。
「……お前ら、よくやった」
「あの状況でネオ・コードを制御できたのは、訓練の成果だな」
「完全じゃねえが――上出来だ」
短い言葉。
だがそこには、確かな評価と信頼が込められていた。
三人はどこか照れくさそうに視線を逸らす。
すると公太が拳を握り締めながら言った。
「……ジュリーから聞いたんだよ。“畑中がヤバい”って」
「俺たち、まだ未熟だけど……いても立ってもいられなかった」
そして真っ直ぐ畑中を見る。
「……次は逃がさねぇ」
「あいつ、絶対止めてやる」
その言葉に――。
畑中の表情がわずかに揺れた。
そして、低く沈んだ声で呟く。
「……あいつには、もう手を出すな」
「……?」
唯我が眉をひそめる。
一祟も静かに問いかけた。
「どうしてですか?」
その問いは、核心に触れていた。
公太がさらに一歩踏み出す。
「なぁ畑中、何か隠してんだろ?」
「あんな奴が相手でも、今の俺たちなら――」
その瞬間だった。
バンッ!!!
激しい音が室内に響く。
畑中が壁を叩いていた。
「……うるせぇ!! 黙ってろッ!!!」
怒声が空気を震わせる。
一瞬で、その場が凍りついた。
畑中の目は怒りに燃えていた。
だが三人は気づいていた。
その奥にある感情が、“怒り”だけではないことを。
後悔。
苦しみ。
そして――深い哀しみ。
畑中は荒い息を吐きながら、低く告げる。
「これ以上、詮索するな……」
「……わかったな」
それだけ言い残し、畑中は背を向ける。
誰も呼び止められなかった。
歩き去っていくその背中は、あまりにも重かった。
怒りよりもずっと深い感情を背負ったまま――。
三人はただ、黙ってその背中を見つめることしかできなかった。