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行き交う人々を見ると、どうしてもこんな体験をしている自分が奇異で不幸のように感じてしまう。不幸は昔から何の予告もなく襲ってくるものだ。だが、呉林がいる。また彼女と出会える。私は今まで26年間も恋をしたことは、一度中学生の時だけしかしていない。そんな私が今は呉林に出会うことを楽しみにウキウキしている。積極的に女性と話せるようにもなっているし、少しは良いことがあったかも。
渡部や角田は今、どうしているのだろう。こんな体験を共有できる仲間が増えて、とても心強くなると同時に、彼らのことを気遣うようになってきた。
ちょっとお洒落をして、ネズミ色のジーンズとラクダ色のワイシャツといったラフな格好で店に入った。
髪型を変えたりお洒落をしたりと私も変わったかな?
恋をすると自分の中の何かは変わるのだろうか?
店内には客は疎らで、コーヒーや紅茶だけを注文する客はごく少数であった。その中央に私は呉林と安浦を見つけた。
「赤羽さん。こっちこっち」
ブルーのノースリーブ、黒いジーンズを着た呉林が手招きする。二人はもう冷たい紅茶を注文していた。こんな体験を連続して、コーヒーには少し抵抗が出てきたのだろう。私も冷たい紅茶を頼んだ。
「ご主人様。左肩は大丈夫ですか」
安浦は夢の時のことを引っ張ってきた?
「ああ。でも、そのご主人様って、やめてほしいが」
「……。ご主人様。左肩の治療法を考えたんですけど」
安浦はさらっと回避して、自分のピンク色のフリルの付いたシャツの肩のところを指差した。その下は同じくフリルの付いたピンクのスカートだ。それと、やはり私のことをご主人様と呼んだ。
確かに可愛らしいし、……少し嬉しいが。
「そうよ。今さっきだけど、恵ちゃんが考えたの。かなり治りそうな方法よ」
二人は私に向かって真剣な顔付きになった。
それは、もう一度、夢の世界に入れば治るのではないかということだった。
その直後、派手な格好のウェイトレスから、紅茶が運ばれてきた。それを手に取ると、私の意識は眩暈がするほど急速に現実の空間から遠のき、「あっ」と思うと私は意識を手放した……。