テラーノベル
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悠人はベッドに座り、窓の外の未来都市を眺めていた。
高層ビルのガラスに街の光が反射し、まるで無数の星が街に降り注いでいるようだ。
ベッドについている名札を見ると「神代悠人」と転生前と同じ名前が書いてあり、鏡をのぞくと転生前と変わらぬ自分の顔が映っていた。
(……いや、せめてここでイケメンに生まれ変わるとか、もう少し救いはなかったのかよ……)
悠人は小さくつぶやき、思わず肩をすくめる。状況はまるで分からない。
だが、このベッドに取り付けられたボタンが、ナースコールなのは、なんとなく察しがついた。
悠人は一瞬だけ迷い、
意を決してそのボタンを押した。
◆
――場面は警察指令室へ
???「指名手配犯が目を覚ました。至急、Valkyrie Unitは病院に向かうように」
モニターに映る病室の映像を見ながら、指令室の警官たちは慌ただしく動く。
ドローンの浮遊音、武装車両が病院前に止まる様子がリアルタイムでスクリーンに映し出される。
◆
「さあーて…これからどうやって生きていこうかな……」悠人は窓越しに呟く。
視線の先には、病院前で浮遊するドローンと多くの武装車両が止まる光景が広がっていた。
車両の上には、まるで某SFに出てきそうな近未来兵器を抱えた部隊が整列している。
その真ん中に立つのは――赤い髪にオレンジ色のアクセントが光る、長い髪の女。
鋭い目つきでこっちをじっと睨んでいる。
(……いや、明らかに俺じゃん……)
病院内では甲高いアナウンスが響いた。
『――緊急事態発生。館内の医師・看護師・患者は、直ちに避難してください。繰り返します――』
直後、悠人の病室のドアだけが「ガシャン」と重く閉じ、分厚いロックが掛かる音がした。
「……おい、まじかよ」
悠人は思わず青ざめ、ドアノブを力いっぱい引くが、びくともしない。
ふと、横のパネル――カード式セキュリティの読み取り口に指先が触れた瞬間、頭の中に鮮烈な情報が流れ込んできた。
数式、立体モデル、材質データ、応力分布。
目を閉じると、寸分の狂いもない立体モデルが脳裏に浮かび、材質や強度までも瞬時に補完される。
気づけば、セキュリティドアを開ける“マスターカード”が完成していた。
「……マジかよ。こんなチート能力、ゲームじゃ完全にぶっ壊れだろ……!」
次の瞬間、悠人の手の平に透明なカードが具現化する。
恐る恐る読み取り口に差し込むと、ドアのロックが「カチリ」と外れる音が響いた。
「よし……今は感動してる場合じゃねえ、あの目は逃げなきゃ殺される!」
思い出すのは、高校の移動教室のとき。
日直でドアを閉めようとして、机に突っ伏して寝てるやつを起こそうと肩を叩いた瞬間――。
ゆっくりと顔を上げ、こっちを睨みつけてきた「殺意100%」の寝起きの目。
あれ以来、寝てるやつには二度と近づかないと誓った。
悠人は勢いよく病室のドアを押し開け、廊下へ飛び出した。
下の階からは、重低音の足音とドローンの低いうなりが、容赦なく響いてくる。
容疑者以外避難完了。これより突入する。重装部隊の重い足取りの音が聞こえる。
「下はダメだ……上だ!」
近未来の病院は迷路のように広く、息は荒れ、体力は限界に近づいていた。
背後から迫る重装部隊の足音と、銃声が交互に響く。
――明らかに、俺の命を狙っている。
曲がり角を曲がったその瞬間――。
悠人の視界に飛び込んできたのは、黒髪ロングの少女。
顔は鬼のような仮面に覆われているが、わずかに透けた隙間から見える瞳は、驚くほど綺麗で冷たい光を放っていた。
「……この綺麗な黒髪どこかでみたことある……あ、由依に似て……
思考が追いつく前に、少女の拳が悠人の顔面を直撃する。
「ぐあっ!」
まるで女の子とは思えない圧倒的な力に、悠人は壁に吹き飛ばされる。
(女の子が出してるとは思えない力だ)
仮面越しでも、その瞳の鋭さに凍りつきそうだ。頭の中で苦笑いする余裕も、心臓の鼓動にかき消される。
少女は冷たい声で低く告げた。
「悠人。話を聞いた後、おまえを――殺す」
――黒髪美女と、赤髪美人、二人に命を狙われている……。
「過去の俺、何やったんだよ……!」
体力は限界。美女に殴られ、もう立つ気力すら失っていた。
顔上げると、仮面の女は武装した集団に向かって突っ込んでいた。
悠人は慌てて壁を盾にし、身を潜めた。
武装集団の一人が通信機を手に、低い声で告げる。
「緊急事態発生。サイバーヴァンプに遭遇。即時、戦闘態勢に入る」
その瞬間、長く伸びた直線の廊下を突き進む仮面の女に、容赦なく銃弾が降り注ぐ。
「ここ病院だぞ!」
だが、悠人の驚きをはるかに超える光景が目の前で繰り広げられた。
仮面の女は、壁を蹴って走り、飛んでくる弾丸を華麗に避ける。
まるで弾丸が空気のように無力化されていく。
ゼロ距離に立った瞬間――
仮面の女は、武装した男たちの胸に手を置くだけで、電撃が走り次々と気絶。
一瞬で制圧され、倒れていく集団。
悠人は目を見開き、思わず息を呑む。
銃声と電撃の残響が消え、廊下には静寂が戻った。
だが、戦闘の爪痕は容赦なく残っていた。
廊下は煙で満ち、白い靄が視界を曖昧にしている。
床には倒れた武装集団の男たちが散乱し、金属や装備の残骸が光を反射していた。
悠人の視界に、まず映ったのは――
仮面の黒髪美女。煙の中、長い髪が淡く揺れ、瞳の冷たい光だけがはっきりと輝いている。
静かに立つ彼女の姿は、まるで廃墟に咲く花のように凛としていた。
しかし、さらに煙の奥に目を凝らすと……
燃え盛る闘志を纏った、もう一人の赤髪美人が浮かび上がる。
赤とオレンジが混ざった長髪は、戦いの熱気を纏う炎のように煌めき、まるでこの病院そのものを制圧するかのような圧倒的な存在感を放っていた。
悠人は息を整える間もなく、廊下の奥の壁で目を見張った。
赤髪美人のオーラが、まるでこの廊下すべてを炎に包み込むかのように燃え上がっている。床の金属が熱を帯び、壁の塗装がひび割れ、煙がさらに濃く立ち込めた。
対する黒髪美女からは、全身を纏う電撃のオーラが放たれ、空気を切り裂くようなヒリヒリとした感覚が悠人にまで伝わる。触れるだけで皮膚がちくりと痛むほどの圧が、悠人の体を緊張させた。
赤髪美人の声が廊下に響く。
「久しぶりだな神楽。あの日、何が起きたのか……お前も聞きにきたのか?」
黒髪美女は冷たく答える。
「カレンには関係ない」
悠人は心の中でつぶやいた。
(あの日のことって何だよ……過去の俺、何やったんだ……)
赤い瞳を輝かせ、微笑むように言った。
「今日こそ、神楽お前を――殺す」
その瞬間、赤髪美人の身体に纏わりついていた無数の機械が唸りを上げる。
天井や壁から露出したパネルが光り、カレンが言った。
『戦闘コード:α9起動――』
黒髪美女は冷静に微笑む。
「何もかも焼き尽くす赤髪、その姿久しいな、灼紅のカレン」
雫が身構える
カレンは容赦なく、黒髪美女に向かって銃を乱射した。
さっきの武装軍団の銃とは明らかに違う。玉の大きさ、スピード、破壊力――すべてが桁違いだ。
廊下の煙が薄れ、瓦礫の間に立つ黒髪美女の姿が現れた。
血が垂れてはいるものの、致命傷は避け、擦り傷だけで済んでいる。仮面が砕け、片目だけが覗く。その眼差しは冷酷で、美しい輝きを帯びていた。
カレンは口元を吊り上げる。
「……さすがだな、黒雷の神楽」
黒髪美女――神楽は、静かに答えた。
「システムコード:ブラックアウト」
その途端、彼女の片手に黒い電流が迸り、日本刀が召喚される。冷酷な瞳が両目とも赤く染まり、今までとは別格の美しさを纏った。カレンは嘲笑を浮かべ、声を放つ。
「サイバーヴァンプ――
己の四肢にガジェットを組み込み、血を燃料として本来の限界を踏み越える存在だ」
低く、言い聞かせるような声が、空気を震わせる。
「お前たちが使っているその装備……
あれは“最初の異端者”がもたらした、伝説級のガジェットだ」
一瞬の沈黙。
「――なぜ、それを持っている?」
刃のような視線が、相手を貫いた。
「説明してもらおうか」
その瞬間。
神楽の全身を駆け巡っていた稲光が、色を失う。
眩い黄色ではない――闇を裂く、深淵の黒。
黒雷。
神楽が一歩踏み出す。
黒雷を纏った刃が空気を切り裂いた。
次の刹那、
黒雷と灼炎が激突する。
――ドンッ!!
衝突の衝撃で、空間そのものが悲鳴を上げる。
ガラスは一斉に砕け散り、
吹き荒れる爆風が、壁ごと削り取っていった
「うおおおおい!!」
悠人は必死に床にしがみつき、心の中で絶叫する。
(主人公補正どこいった!!)
カレンの銃口から迸る炎弾が、壁を赤黒く溶かしながら突き進む。
その一発一発が戦車砲に匹敵する威力だ。
対するカグラは、黒雷を纏った刀を一閃。
放たれた斬撃は稲光そのものとなり、廊下の端を縦に切り裂いた。
――神楽の黒雷とカレンの灼炎が激突した瞬間、空間が悲鳴を上げる。
「ちょっと、カレンさん……これ以上暴れると被害が大きすぎます」
同様に、神楽も血液が不足しているのか、全身を走る黒雷の速度がわずかに鈍った。
下の階からは応援部隊の足音が響き、戦局の余波が伝わってくる。
神楽は一瞬、目を鋭く細めた。
「チッ……ここまでか」
神楽は黒雷の速さで廊下を駆け抜け、あっという間に視界から消えた。
悠人の視線が追う間もなく、赤髪のカレンは力が抜けたように床に倒れる。
灼炎の女――灼高の根性でも、ここで燃え尽きたか、と悠人は呆然と息をつく。しかし、その直後、重装部隊が悠人の方へ近づいてくる。
あんな戦闘を目の当たりにした後では、抵抗する気力も湧かない。
「両手、上げます……勘弁してください……」
重装部隊は無言で悠人に電撃を撃ち込む構えを見せた。
――次の瞬間、ビリビリッと体に衝撃が走る。
(黒雷とかより絶対マシだもん……)
悠人は床にへたり込んだ。
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#戦乙女
眠狂四郎