テラーノベル
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ゲーム初日の深夜、綾華が予定より早く「消えた」。
予想外の出来事に、大森と若井は綾華の部屋へ向かう。女性の部屋にズカズカと入るのは少々気が引けたが、仕方ないと自分に釘を打つ。
ゲームの一環のはずが、綾華の部屋に残された荷物は不自然に散乱し床に小さな血痕が見えた。
背筋が凍る感覚がする。
「これは…ゲームじゃないかもしれない」
大森が若井の肩に手を置き、落ち着いた声で言った。
「俺と一緒に調べよう。若井を一人にはしない」
若井は大森の瞳を見る。その奥に、優しさと何か隠された感情が混在しているように感じた。
「……これは?」
2人で綾華の部屋を調べると、鏡の裏に隠されていた古い日記を見つける。
10年前、5人の若者がこの館で失踪した記録。日記の最後にはこう書かれていた。
「鏡に閉じ込められた。私たちは、もうここにはいない」
若井は息を呑む。同時に、大森が日記を手に取り、すぐに隠そうとした。
「これは見ない方がいい」
そう大森は言ったが、その声には微かな震えがあったのを若井は感じ取る。
若井は大森の手から日記を奪い取った。
「何を隠してる?隠しても無駄だ。」
若井は大森を睨む。大森は一瞬抵抗するように見えたが、静かに手を離した。
「若井を怖がらせたくないだけだよ」
大森は若井の頬に触れ、そっと微笑む。
その瞬間、若井は大森の温もりに心が揺れた。
若井は日記を手持ちバッグに仕舞い、胸に冷たい予感を感じた。
その時、鏡に映る大森の姿が再び一瞬だけ「別人」に見えた気がした。若井は後ずさる。
「大森、お前…誰だ?」
若井の声は震えていた。
大森は答えず、ただ静かに微笑んだ。その笑顔に、若井は危険と誘惑の両方を感じ取った。
深夜も過ぎそうな暗闇の中、若井は眠れず館の図書室に足を運んだ。
「図書館なんてあるんだな…」
そう感心しながら足を進めると、見慣れた人物が網膜に映る。
そこには大森がいた。
月光が鏡に反射し、部屋を不気味に照らしていた。
「眠れないの?」
大森はパタンと読んでいた本を閉じ、若井の手を取った。
「この館が…気持ち悪いんだ」
若井は正直に吐露する。大森の手の温もりが、若井の不安を少しだけ溶かした。
「なら、俺がそばにいる」
大森は若井をそっと抱き寄せる。その瞬間、若井は大森の胸に顔を埋め、心臓の鼓動を感じた。
大森の唇が若井の額に触れ、ゆっくりと頬を滑り落ちる。
若井は一瞬抵抗しようとしたが、大森の瞳に捕らわれ、唇を重ねた。
キスは短く、しかし深く、若井の心を揺さぶった。
「ね、大森じゃなくてさ、元貴って呼んでよ…」
「元貴…」
「うん。それがいい。」
「俺、元貴を信じたい。でも….」
若井は言葉を切った。
「若井、俺は君を裏切らない」
大森の声は低く、切実だった。だがその言葉の裏に、若井は何か隠された真実を感じ取った。
「俺はもう少しここにいようと思うけど…若井は?」
「……もう寝る。」
「そう、おやすみ。いい夢見なね。」
なにがいい夢見なね、だ…。
そう思いながら、若井は図書館を後にした。
若井が図書室を出て廊下を歩いていると、藤澤に呼び止められた。
無視しよう…そんな若井の思いとは裏腹に、 藤澤は若井を壁に押し付けるように近づいてくる。
藤澤の目は、かつての恋人への執着と嫉妬でぎらついていた。
「大森を信じるなよ、若井。あいつは10年前のことを知ってる」
「何?」
若井は藤澤の言葉に凍りついた。綾華の失踪と日記の内容が、頭をよぎる。
「あの失踪事件…大森は無関係じゃない。鏡館の管理人って、都合よすぎると思わない?」
藤澤の声には、若井を揺さぶるような確があった。若井は藤澤の左手の傷痕を見る。
刃物で切りつけられたような古い痕は、10年前の事件と何か関係があるのではないか?そう若井の直感が囁いた。
「お前も何か知ってるだろ、藤澤」
藤澤は笑った。
「知ってるよ。でも今君が知るべきなのは、大森がついている嘘についてだ。」
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