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第二章 疑心暗鬼
若井は鏡館の薄暗い廊下を歩く。
綾華の失踪が頭から離れなかった。ゲームの一環のはずが、彼女の部屋に残された散乱した荷物と床の血痕は、あまりにも不自然だった。
いや、こういう趣旨のゲームならよくあるはずだが、10年前の失踪事件、藤澤の傷、鏡の裏のメッセージ、大森の行動…数えればキリがないほどに「不自然」が多い。
取材者として冷静でいようと決めていたが、胸の奥でざわめく不安は抑えきれなかった。
「俺と一緒に調べよう。若井を一人にはしない」
そんな大森の言葉が耳に残り、若井の心を揺さぶる。
大森の穏やかな声と灰色の瞳は、若井を惹きつける一方で、藤澤の警告が頭をよぎった。
「大森を信じるな。あいつは10年前のことを知ってる。」
藤澤の執着に満ちた目と、左手の傷痕。あの傷が、鏡の裏で見つけた日記の内容と何か関係があるのではないかという 直感が、若井を苛む。
若井は綾華の部屋に戻る、そこには血痕を確認する大森の姿。
こいつ、どこにでもいるな…そう思いながら若井も床の血痕を確認した。赤黒い小さな染みが、シャンデリアの光を浴びて不気味に光る。
「これ、ゲームの演出にしてはリアルすぎる」
若井は呟き、隣に立つ大森を見る。
大森は黙って血痕を見つめていたが、その表情には感情が読み取れなかった。
「…元貴、何か知ってるだろ」
若井の声は鋭かった。
「何も知らないよ。ただ、若井が心配なんだ」
大森は静かに答え、若井の肩にそっと手を置く。その温もりに若井は一瞬心が揺れたが、すぐに藤澤の言葉を思い出した。
「鏡館の管理人って、都合よすぎる」
大森の微笑みには、どこか隠された意図があるように思えた。
「じゃあ、この日記はどう説明する?」
若井は鏡の裏から見つけた日記を手に持った。10年前、5人の若者がこの館で失踪し、「鏡に閉じ込められた」と記されていた日記。大森が日記を隠そうとした瞬間を、若井は見逃していなかった。
「お前、なぜこれを隠そうとした?」
大森の瞳が一瞬揺れた。
「若井を怖がらせたくなかった。それだけだ」
だが、その声には微かな震えがあった。若井は大森の瞳を覗き込み、そこで何かを見つけようとする。優しさか、嘘か。それとも、もっと深い秘密か。
しかし若井には、まだ分からなかった。
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